思い出はお金では買えない
写真は、マンガ本『めぞん一刻』第3巻の裏表紙である。実物は、写真よりもさらに汚い。だが、どうしても捨てられないわけがあるので、そのことについて書きたい。マンガの内容とは関係なくて、だれでもある話だ。
このマンガは、高校2年の時に人からもらったものである。それまでめぞん一刻のことはまったく知らなかった。
当時、少年サンデーがスキで「タッチ」や「うる星やつら」は愛読していたけど、めぞん…はビッグコミックスピリッツという雑誌に連載されていた。サンデーはガキの雑誌で、スピリッツは「お兄さん雑誌」である。
じっさい、『めぞん一刻』はアダルトな内容だ。主人公の学生が、"20代後半のテニスのコーチと美人の未亡人を奪い合って、結婚するしないでもめる話"であり、16歳の高校生にはついて行けない世界。当時のぼくは結婚どころか、まともな男女交際すらなかった。
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高2のある日、職員室の生物の先生のところに行ったところ、机の上に黄色くなったこの『めぞん一刻』第3巻がのっかっていたのである。
ボク「なんですかこれ~?」
先生「おう、授業中に読んどったからな~。取り上げたったんや~。おまえいるかぁ?」
ボク「ええ、返さなくていいんですか~」
先生「かまへんかまへん、もってけやあ~!」
といわれるままに持って帰ったのがつきあいの始まりだ。
おそらく教室中でまわしよみされたのだろう。ぜんたいに茶色く変色しており、水を吸ってしわが寄っている。
しかし、読んでみると、『うる星やつら』とはちがったオトナの面白さなんだな~。そもそも、第1話の1コマ目から、アパートの住人同士があつまって寝っ転がってカップ酒を飲んでいるわけだから、高校生にとっては異世界だ。
あまりにおもしろくて、なんどもなんども読み返し、ついに飽きてしまって、ほかの巻も買うことにした。全巻を新品でそろえたので、残りの巻はピカピカで、3巻だけがしわしわである。
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さいきん本が増えてきたので、裁断し、スキャンしてPDF化を進めている。『めぞん一刻』も数年前からスキャンしようと思っているんだけどどうしても踏み切れないのは、この茶色くシワしわのよった第3巻のせいだ。
ほかの巻は買いなおすこともできる。しかし、この茶色い3巻だけはどこにも売ってない。教室で没収された子は「ごみ箱に捨てられた」と思っているんだろうけど、いまだにボクの手元にありますよ~。
この巻には、なんというか高2のときのぼくの記憶が入っている。
当時は、きたないのがイヤで買いなおそうかと思ったんだけど、今ではこの巻がいちばん大切だ。人生何がだいじになるかわからない。年を取ってくるとモノよりも物語がだいじになる。
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