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日本を捨てた人たち

ぼくが留学していた頃の話なのでだいぶ昔まえの話だけど、留学生には2種類いた。たぶん今でも同じだろう。それは母国に片足を残している人たちと、母国から両足を抜いてきた人たちだ。帰る場所がある人たちと、ない人たちである。

ぼく自身は、就職が決まったら帰国する予定だったので当然前者だ。そして、それが当たり前だと思い込んでいた。

しかし、じっさいにアメリカに来てみると、日本人の半数近くが日本から逃げるようにアメリカにわたっていたことを知った。

「逃げるように」と言っても移民の手続きをしているわけではないので見た目は同じ学生である。しかし最初からなんとかしてアメリカに居すわり、入り込もうという魂胆でやってきている。

一方、ぼくのようなものにとって留学とは履歴書に箔をつけるためのものでしかない。両者はまじりあって生活していたが、意識の差は歴然である。

ココに根を下ろすつもりの人たちは日本と比べてココを批判したりしない。ああだこうだと不満をならべるのは母国に片足を残している連中であり、それだけ恵まれた連中だといえるかもしれない。片足を韓国に残してきた連中も不満は多かったが、アメリカに入り込もうとしている韓国人はしずかなものだ。

そして、向こうでぼくは日本から両足を抜いてきた女性とたまたま付き合うことになったのである。そもそもこの人に出会うまで、ぼくは海外脱出組の存在を理解していなかった。

やがて彼女と交際する中で、日本を捨てた人たちへのシンパシーが深まっていき、逆に自分をふくめて片足を日本に置いたままの連中がなんだかツマラナイ人間のように見えはじめた。

たいして魅力的でもない社会にしばられたままで出てきて、数年すればまた同じ社会にもどっていく。安定と終身を引き換えに人生を日本にあずけている。

それにくらべればすべてを捨ててきた人たちはとらわれがなく、ひたすら前を向いているように見えた。

やがてぼく自身が根無し草のような人生を送ることになるんだけど、いま思えば2種類の留学生のあいだでグラグラとゆれていたあの時期に、自分の中にあった大企業的なマインドがぬけてしまったのだろう。

これを読んでいる人たちはどうなのだろう。この国から離れて暮らすことなどかんがえられないだろうか。グラグラしている人はいるのだろうか。

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