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失われつつある昭和―『大アマゾンの半魚人』に思う

今日の話は、ほんのりおもしろいとは思いますが、役に立つ内容ではありません。一般的なテレビ番組を5分見るよりはややおもしろめだと思うので、そういうものを読みたい人向けです。

失われつつある昭和としてのレンタル店

さて、ぼくは定期的にレンタルDVDショップに通っている。とはいえ、いまどき映画はネット配信にあふれかえっているので、レンタル店になどにわざわざ足を運ぶ必要はない。

それでも2週間に1回は通っており、それは、あの場の雰囲気が好きだからであり、その「雰囲気」がやがて失われていくことがわかっているからだ。

そういう意味では、やや観光めいた気持ちがあるかもしれない。多く人は、昭和情緒の残る下町を散策したい気持ちを理解できるだろう。ぼくにとってのレンタル店はそれと同じであり、次々に壊されていく昭和の街並みをおしみつつ愛でるように、レンタルDVDショップの雰囲気を楽しんでいる。

ぼくが中学、高校生の頃、つまり映画を見たくて仕方がなかったころ、地方の映画館で見られる作品数はかぎられていた。そのフラストレーションを解消してくれたのがレンタルビデオだった。

そういう思い出の詰まっている場所なのでいつまでも存在してほしいのだが、それは昭和の街並みを保存してほしいといっているのと同じで無理なことである。だからあるうちにしっかりと楽しむ。

1回に1枚

そんなわけなので、1回に借りる枚数はいつも1枚だ。それは「借りる」ことに主眼を置いていないからである。

1枚だけ借りてかえる理由は「返しに来なければいけない」という理由づくりのためであり、そうでもしなければぼくはレンタル店に足を運ばなくなる。そして、足が遠のいているうちに店舗が消えてしまってから惜しんでもおそい。

借りたい作品はだいたい決まっており、自分の中で優先順位をつけながら1枚ずつ惜しむように借りている。

ホラー映画を1枚

いろんな映画を借りるけどメインはホラー映画である。そして、すでに「帰ってきたドラキュラ」という記事に書いたのだが、レンタル店におけるホラー映画の扱いは、アダルト作品に準ずるものがあり、「エロ・グロ」の兄弟分として、アダルトDVDコーナーの入りぐちのカーテンのわきにひっそりと陳列されていることが多い。

この記事では、

ホラー映画は「アナと雪の女王」や「スズメの戸締り」から最も離れた場所にエロ作品と並んでおかれているのが差別だ!

みたいなおおげさな書き方をしたけどあれはウケ狙いが90%であり、本当に嘆いているわけではなくて、そういう場所をうろうろするのが実は楽しい。

模様替えされていた

ところが、あの記事を書いたあとで行きつけの店にいってみると、すっかり模様替えされていた。もちろんエロ作品が店の最奥にあるのは変わりない。レースのカーテンで仕切れる場所は店の奥しかないわけで、サッカーのフォーメーションに例えるならいわば、エロは

不動のセンターバック

なのである。しかし、ホラー映画コーナーはそのわきの左サイドバックから左のボランチくらいの位置に移っていた。

その一方で、かつてワントップを張っていたディズニーアニメは、右のボランチの位置にさがってきており、してみると、ぼくの訴えていた

ホラーの構造的差別

は消滅してしまっていたのだった。そのことが記事と直接関係があるとは思っていないのだが、しかし書いてしまったことがあとからウソになったという後味の悪さは残っており、無実の告発をやってしまったような申し訳なさがある。

『大アマゾンの半魚人』

それはともかく、ホラーコーナーでも毎回1枚しか借りないので、自分の中で借りる優先順位というのをつけていて、

「大アマゾンの半魚人」

という映画は、借りよう借りようと思いつつ、「ま・・次の機会にするかな」と思って毎回借りないで帰る作品だった。

そして今日は満を持してそろそろ「大アマゾンの半魚人」を借りようかなと思って探したのだが

ない・・(汗)

本棚2列分あるホラーコーナーを隅から隅まで全タイトルを読みつつ2回さがしたけどない。

もしかすると、「キングコング」や「猿の惑星」と並んでSFコーナーに移ってしまったかもしれないと考えて4列あるSFコーナーも丹念に探したのだがそこにもない。

もしかすると「遊星からの物体X」などと並んでクラッシック映画コーナー移ったのかもしれないと思って、そこも探したのだがない。イヤな予感がする・・。

だいあまぞんのはんぎょじん

仕方がないので、店員さんに「お忙しいところ申し訳ないけど、前に陳列されていたタイトルがないのだが・・」と聞いてみると、

「他店にうつしたかもしれないし、倉庫にしまってあるかもしれないし、セルコーナーで処分されたかもしれない」という答えだったので、セルコーナーもさがしてみたのだがそこにもなかった。

「お望みならカウンターで検索を承るのでそちらに回ってほしい」といわれたので、カウンターに行くことになったのだが、そうなった場合、当然カウンターの女子大生から

お探しのタイトルを教えてください

と言われるに決まっている。そしてぼくは

だいあまぞんのはんぎょじん

と言わねばならない。

しかし、店のカウンターでマスク越しにも聞こえるはっきりとした滑舌で「だいあまぞんのはんぎょじん」と発音にするのにはややためらいがあった。もちろん、こんなのは自意識過剰にすぎないことはわかっている。

かつて古本屋の店員をやっていたことがあるのでわかるのだが、客が入るのをためらうエロコーナーですら、店員にとっては掃除したり、棚卸をしたりする「日々の職場」でしかないので、彼らはエロをなんとも思っていない。

だから、たとえお探しのタイトルが

「初めての中出し 超絶ヤリマンギャル」

だったとしても、「はじめてのなかだしちょうぜつやりまんぎゃる」と言えば粛々と探してくれるだろう。

しかし、バイトの女子大生にむかって「はじめてのなかだしちょうぜつやりまんぎゃる」と平気で言えるかというと、言えないでしょう?そこまでではないにしろ、

だいあまぞんのはんぎょじん

と発音するのにはほんのりと抵抗感があった。まあ、そこがホラー映画のたのしさでもあるんだけども・・。

「大アマゾン」に問題はない

ただし、冷静になって

「大アマゾンの半魚人」

というタイトルを分析してみると、その前半部分に問題はないことがわかる。だって、みなさん「アマゾン、アマゾン」って平気で口にしているでしょう。これは日常語だ。

問題は「だいあまぞん」ではなく

はんぎょじん

にあるわけだ。いまにしておもえば「はんぎょじん」にも特に問題はないのだが、そのときははずかしかった。

そこでぼくはあらかじめスマホで「大アマゾンの半魚人」のページを検索しておき。それからカウンターへ向かった。案の定

お探しのタイトルは何ですか?

と聞かれたので、「だいあまぞんの・・」と言いつつスマホの画面をさしだしたのだった。このページです。

そうすると「はんぎょじん」と言わずともさくさくと検索してもらえたのである。

この戦法はいうまでもないが「はじめてのなかだしちょうぜつやりまんぎゃる」には使えない。「はじめてのなかだし」にも「ちょうぜつやりまんぎゃる」にも抵抗感しかないからだが「だいあまぞん」には有効なのである。

ただし、そこまでがんばっても残念ながらレンタルは終了しており、入荷の予定もないとのことだった。

おごりがあった・・

ここまで努力して初めて、自分がいかに「大アマゾンの半魚人」を見たかったのかをひしひしと感じる。なんでさっさと借りなかったのだろう・・。逃がした魚は大きい。

ちなみにぼくはこの続編である『半魚人の逆襲』のほうは北米版VHSを所有している。これも良い作品であり、キングレコードから「死ぬまでにこれは観ろ!」セレクションにも選ばれている名作だが、それをすでに北米版で持っていたことが一種のおごりにつながり、「大アマゾン・・」をやや下に見ていたのだろう。驕る平家は久しからずなのである。

今回はセルコーナーで、イーストウッドの『サンダーボルト』を保護したのでそれでよしとするしかない。しかし、なんというか・・うまくいかないものである。

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