末端労働者として

ほとんどの商品やサービスは、無料部分と有料部分に分かれている。

スーパーの試食も
化粧品の試供品も
ウェブサービスの初月無料もそう。

「無料部分が気に入ったら、お金を払って買ってください」

これでビジネスは成り立っている。

これが王道だ。

だれだってお金を稼がないと生きていけない。

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「怪談(コワい話)」といえば稲川淳二さんである。

稲川さんの違法コピーはYouTubeにあふれているけど、彼はとりしまらない。

動画で彼に興味を持った人が、ライブに足を運んでお金を落としてくれれば、じゅうぶん商売になると考えている。

この場合は、YouTubeが無料部分で、ライブが有料部分にあたる。

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怪談をビジネスにしたのは稲川さんだ。

でも、今ではたくさんの怪談師がいる。

芸人さんや作家さんだけでなく、自分のハナシは自分で語って収益化したいと考えるシロートもふえた。

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こうなると、どのハナシがだれの持ちネタなのかという問題がでてくる。

音楽でも、他人の曲を勝手にライブで歌うことができないように、怪談も他人の持ちネタをかってに披露することはできない。

それで一時期、もめたことがあると聞く。

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そんな中でたった一人、10年以上前からじぶんのハナシをぜんぶ無料公開している人がいる。

仮に、Iさんと呼ぶ。セミプロで、本業は会社員だ。

Iさんの怪談ラジオを聞くとしつこいように

「ぼくはアマチュアです。」

「ぼくのハナシはだれでも使ってください。」

と言う。

ぼくはこのスタンスがスキだ。

たぶん、Iさんはある時期、プロ同士のネタの取り合いがイヤになったのだろう。

それであえて無料公開をつづけているのだと思う。

これができるのは、会社員として稼いでいるからだ。

無料と有料をわけてビジネスを設計しているのではない。

Iさん方式ではお金持ちにはなれないけど、怪談のすなおな楽しみ方としてはこれもアリだなと思う。

怪談って、もともと修学旅行で夜中に語るようなものである。

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ぼくも当面のあいだウェブ上の活動は、Iさん方式で行きたい。

翻訳で稼いで、ネット上ではカリカリしない。

ぼくのブログでわずかに上がっている収益は、ぜんぶ在宅ワーク関連の取材費につかって還元するつもり。

何か買いたくなったら、単価の低い末端労働者として汗水たらして買う。

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