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【対談】ゆるクラが広げる選択肢!学校に行っていない子どもたちにオンラインの居場所を。

「ゆるクラ」は、オンラインゲーム「マインクラフト」を使って、学校に行っていない子どもたちにオンライン上の居場所をつくることを目指す取り組みです。

今年2023年の9月から実際のプログラムがスタートしています。今回は、ゆるクラの企画者である岡村さん、岡村さんからの誘いでタッグを組んだ栗野さんのお二人に、新しい居場所支援の在り方を提示するゆるクラの立ち上げの経緯や、今後の展望を伺いました。


対談者プロフィール

岡村 和樹さん

ゆるクラの企画者。2020年〜2021年ごろ、不登校支援団体プロボノのメンバーとして活動。活動の中で、現代の子どもの行動様式に合わせた、「オンラインでつながる」という新しい形の支援の必要性を感じ、ゆるクラの原型となるオンライン支援プロジェクトの構想を練り始める。普段は広告会社に勤務している。

栗野 泰成さん

一般社団法人チョイふるの代表理事。岡村さんからの誘いでゆるクラの立ち上げに関わる。チョイふるとは、社会経済的に困難を抱える子どもたちに、本来沢山あるはずの選択肢をより身近に感じてもらう(choice-full)ことを目的に東京都足立区を拠点に活動する支援団体である。リアルとオンラインの両面から様々な子ども・子育て支援活動を行っており、その一つである「あそば~す」ではマインクラフトを活用したオンライン支援を先駆けて行っている。

聴き手:島崎もにか

都内の大学3年生。所属するボランティアサークルに届いた岡村さんからのメッセージをきっかけに、広報担当としてゆるクラに参画している。

インタビュー内容

不登校初期の子の居場所って難しい!

島崎:最初に、岡村さんが学校に行っていない子どもたちの居場所づくりをしたいと思うようになった経緯をお聞かせください。ゆるクラ以前から、それぞれに活動をされていたと思うのですが、不登校支援を始められるきっかけはなんだったのでしょうか。

岡村:僕の場合、身近な人がひきこもりや不登校になったりということがあったので、もともとそういうところで何か社会の課題に貢献したいという気持ちがありました。そこでNPOの人と一緒に活動をするようになり、不登校の支援団体さんのお手伝いをするうちにやっぱり自分はこの分野に興味があるなと思った感じですね。その活動を通して、「実は居場所を開いても、居場所に来られないお子さんが多い」という事実も知りました。

子どもが学校に行けなくなると、周りの大人は学校以外の居場所や学びの場へ、と考えます。しかし、子どもは疲れ切っていたり、人が怖くなっていたりして、新しい場のハードルをとても高く感じることが多くあります。そうこうしているうちに、家に引きこもりがちになってしまい、居場所へのハードルがさらに上がってしまうという「はざま時間の課題」があるのです。

自宅からつながれることはオンラインの居場所のメリット

島崎:お子さんの居場所づくりとして、対面ではなく、オンラインでの活動を企画されたのはなぜでしょうか。

栗野:せっかく今はオンラインで繋がれる時代です。時代の流れの中で学校に行っていない子どもたちの過ごし方を考えると、必然的にオンラインを取り入れた形にならざるを得ないかなという感覚です。家から出たくないお子さんへの支援活動がオフラインだけで開催されていても意味ないじゃないですか。

僕はたくさんの人に色々な選択肢を少しでも身近に感じてもらうために活動をしています。本当に困っている人ほど必要な支援が届かないと感じています。そういう人たちにこちらから積極的に支援や情報を届けるアウトリーチのための一つの方法として、オンラインゲームを活用してみたいと思いました。

遊びも学びもつながりも!マインクラフトの汎用性

島崎:マイクラに注目した理由はなんでしょうか?

岡村:最初はオンライン完結の居場所ということぐらいしか考えていなくて、そのツールとなるゲームは何がいいのかという確信はありませんでした。ゲームに詳しい人に相談していたら、バトル要素が多いFPS系のゲームだと、どうしても言葉遣いが荒くなったり、怒ってしまったり場が荒れてしまいやすいのではないかと聞きました。楽しく和やかな場づくりができるゲームはないかと探していたら、マイクラに行き当たりました。マイクラは学校で活用される教育版があったり、プログラミングを学べたりもするので、親御さんとしても安心できるゲームではないかと思います。そんな時に、栗野さんがマイクラを活用した居場所づくりを始めているとお聞きしたので、確信が強まりました。

仲間集めもオンラインで!

島崎:なるほど、そこからお二人でタッグを組まれたんですね。

岡村:はい。栗野さんとは元々知り合いではあって、人づてに栗野さんがマイクラを使ったオンライン支援をされてるって話を聞きつけてすぐにご連絡しました。Twitter(現X)のDMからでしたね。

栗野:突然の連絡でびっくりはしましたが、目指す方向性が一緒だし楽しそうな企画なので、ぜひ一緒にやろうということになりました。

岡村:それから、他に事務局として力を貸してくれる方や協力してくれる支援団体さんを探し始めました。その中で、子どもたちにマイクラを教えるコーチを探しているときに色々調べていたら、大学のマイクラサークルさんを見つけて、DMで連絡してみたところ興味があるという人が5人も集まってくれました。それでサークルっていいねってことに気がついて。活動が本格的に始まって、もう少し事務局のメンバーが必要になったときに、同じやり方で人集めができないかなと思い、ボランティアサークルさんなどにも連絡をさせてもらいました。

ゆるクラ成功のカギ?子どもたちを魅了するマイクラコーチの存在

島崎:実際のプログラムが走り始めて1か月以上経ちますが、活動はどんな感じでしょうか?

栗野:おおむね順調です。ゆるクラではマイクラのコーチとして大学のマイクラサークルの方々が協力してくださっているんですが、すごい。子どもたちからのリスペクトもすごくて、毎回コーチとプレイするのをとても楽しみにしてくれているみたいです。最近は逆に居心地が良くなりすぎて、お子さんの言葉がちょっと汚くなってきちゃってたりするんですけど、それも距離感が近づいたという意味ではポジティブに捉えられるかなと思います。

岡村:コーチたちは本当に知識が豊富で、ルールの設定や機能の使い方のアイディアもたくさん出してくれます。軽く10年以上マイクラをプレイしている人たちが集まってくれているのはめちゃくちゃありがたいですね。子どもたちとのコミュニケーションもすごく上手にやってくれています。

でも課題もあります。コーチも子どもたちも含め、予定の参加者全員が当日に集まって活動を実施できる環境を整えるのが意外と難しいのですね。その日にゆるクラがあることを子どもさんが忘れてしまったり、コーチの都合がつかなくなったりすることがあります。コーチに関しては、安定して人数を確保するためのルールを決める必要があると考えています。子どもさんに関しては、保護者を巻き込んで実施日のリマインドをしてもらうのが良さそうですね。

栗野:僕も、もっと親御さんとのコミュニケーションや連携が取れるとより良いプログラムになるんじゃないかなと思います。実は今日も活動中、隣で様子を見ていらっしゃった親御さんに言葉遣いを注意されてから、うまく遊べなくなってしまったお子さんがいました。コーチと子ども、保護者と子どもの関わり方やゆるクラの活動についても、保護者の方と相談しながら協力できるといいなと改めて思った機会でした。

ゆるクラは橋渡し的存在を目指す

島崎:お二人はゆるクラをどんなふうに広げていきたいと考えていますか?

栗野:ゆるクラは学校に行っていない子どもたちへのサポートとして、オンラインの選択肢への橋渡し役的存在になれると嬉しいです。不登校支援という業界全体の資産にしていくことを目的にしたときに、ゆるクラはあくまで中立的な立場でありたいと思っています。どこかひとつの団体のプログラム、というよりも複数の団体さんと協働したい。協働して広げるほうが関われる子どもの数も増えます。こういった活動はマネタイズの部分に関してもすごく難しいという課題があります。企業協賛を集めるときにひとつの団体のプログラムというよりは、複数の団体協働のパッケージで提案した方が企業側も応援しやすいかもしれないという視点もありましたね。

岡村:最終的に企業さんをどう巻き込むかというところはずっと話しています。現段階では支出も収入もお金は発生しない形でやっていますが、ゆくゆくはプログラムを拡大するためにも何かしらの方法で財源を確保してやっていきたいですね。

学校に行かない子どもたちの居場所に選択肢を。

島崎:最後に、学校に行っていない子どもたちへのサポートの理想形を教えてください。ゆるクラを今後どういう存在にしていきたいですか?

栗野:理想形というのは正直わからず、手探りで進めています。個人的に依存先は複数あった方が良いなと思っていて。今は、勉強する場所が学校しかないから、そこに馴染めない子にとって居心地の悪い社会だと思うんですが、それなら学校みたいな学習場所の選択肢がオンラインでも対面でも複数あればいいだけだと思います。そういった選択肢がいくつも目の前にあって、自分に合う場所を"選べる感覚”があるっていうことがすごく大事だと思っています。

岡村:僕も「唯一の理想形!」みたいなものはない気がします。おとなの働き方に選択肢があるように、子どもにも色々な選択肢をつくっていけたらいいなと思います。

栗野:他者とのコミュニケーションへの苦手意識が学校に行きたくない要因の一つになっていることもあります。ゆるクラが、子どもたち同士で協力したり、他人と関わる楽しさを感じてもらえる場所になれば良いなと考えています。ゆるクラを通して、参加してくれた子に可能性や選択肢が拡がる感覚を感じてもらい、経験をしてもらえることが、自分にとってはゴールかなと思っています。

岡村:リアルな居場所を高いハードルに感じるお子さんにとっての、最初の一歩、小さな一歩になれたらいいですね。ゆるクラをきっかけに他のオンラインの居場所や活動にいろいろ参加してみるのもいいし、案外人と喋れるなと思えたらオンラインじゃなくてリアルな居場所に顔を出してみるのもいいですね。いずれにせよ、学校に行っていない「はざまの時間」にいる子どもたちの「最初の一歩」になれるような活動にしていきたいと思っています。

島崎:岡村さん、栗野さん、ありがとうございました。

編集後記

今回のインタビューを通して、ゆるクラ立ち上げから現在に至るまで、岡村さんと栗野さんがともに抱いている居場所支援への思いを知ることができました。多様性の時代、学校に行かないことはどこにも居場所がないこととイコールではありません。リアルでもオンラインでも、子どもたち自身が居心地がいいと感じ、いつも楽しく集まれる場所がそこにあれば、それは彼らにとって確かな居場所になるのです。学校に行っていない子どもたちの居場所に、より多くの選択肢を。ゆるクラの今後の展開にご期待ください!