堂々巡り
ボイコットをしよう、と言い出したのは誰だったのか、私自身よく分かっていなかったけれど、きっとメールをくれた濱田なつみだろうと思っていた。事件の翌日だったから事実確認もせずに知っていることを話すと、犯人探しに翻弄することになるだろう。
「クラスのほとんどがボイコットをしたという事実は知っているかな?」
「はい」
「誰から聞いたのかな?」
「メールで濱田なつみから報告されました」
「じゃあ濱田なつみなのかな?」
「わかりません」
本心だけを言った。なんとなくでこの人ではないか、というような軽はずみな言動は、まるで白状したら罪が軽くなる交換条件かのように感じた。だけど、自分の感情に従ったことを何も悔いてはいないし、そもそもの問題は、ボイコットの主犯格ではなく、クラスの大半がボイコットをした、ということであって、犯人探しに躍起になっている阿部先生の気持ちがどこにあるのかよく理解できなくなってきた。
「先生、犯人探しをしたところで何か解決するんでしょうか?元はと言えば、竹中先生が生徒のプライベートをみんなに話したから私が怒っただけの話です。私がそうして欲しいと頼んだわけでもないし、みんなが先生の方がおかしいと思って行動したわけですよね?」
「そうなんだが、進学校というのは、そこもクリアにしなくてはいけないのだよ」
何を言っているのだろう。肯定しているようで、全く状況把握のできない阿部先生に何を言えば話が進むのか、さっぱり分からない。ひとまず、誰がボイコットの首謀者なのかということより、先ず、先生たちが考える、人権、についてよく考えて欲しい、と伝えると、そうだな、では放課後に、濱田なつみと竹中先生と4人で話をしよう、ということになった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?