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『ドライブ・マイ・カー』を観た

1.車を堪能
 この作品は2021年度カンヌ映画祭で日本映画初の脚本賞を受賞した。
 見どころはたくさんあれど、車のシーンが本当に多い。そうだったと今さらタイトルを確認。
 主人公の家福の愛車は赤のSAAB900ターボ2ドア(サンルーフ付き)。
 バブルの頃、知り合いの車評論家と超お金持ちのお嬢がSAABに乗ってたことを思い出すけど、最近見ないなぁと思っていたら、GM傘下の後経営破綻し、2012年NEVS(national electric vehicle sweden)に買収され、2016年にNEVSに変更され、SAABのブランド名が消えた。
 村上春樹の原作では黄色のSAAB900コンバーチブルだった。家福はこの車に15年ほど乗っていてとても愛着がある。多摩ナンバーというのも多摩育ちの私にはなんだか嬉しく、新宿もよく出てくる。
 妻の不倫相手で家福の舞台のオーディションを受けて合格する高槻の乗っている車はおそらく(チラッと見ただけなので)Volvo、仕事のパートナーの韓国人夫妻は広島に引越して住んでいるがマツダの車…というように、乗っている車でそれぞれのキャラが感じられて面白い。
 高槻はその性格が災いしてその後、舞台に影響を与えてしまうがその前にその性格を表す運転で事故を起こし、車の修理を余儀なくされる。
 私も近頃、車を買い替えることにし、ディーラーをあちこち回って研究したばかりなので映画に出てくる車たちには、尚更興味が湧いた。外車も考えたけれど、結局はずっと乗っているトヨタ車にしたのだが、半導体不足とコロナで海外工場が従来通り操業できないため、納車は年度を跨ぎそう。
 車の中の長回しのシーンが話題になっている。
家福と高槻のあの車中のやりとりはぜひ劇場で観てほしい。
 それからサンルーフもとても効果的に使われている。当初家福は車でタバコを吸わないようにドライバーのみさきに言っていたが、車内で吸うことを許し、2人でサンルーフからタバコを出すシーン、これも評判なので見逃さずに。
 タバコのシーンと言えば、この作品の原作である村上春樹の『女のいない男たち』では実在の、北海道中頓別町を舞台に描き、まるでタバコのポイ捨てを容認している町のような印象を与えると言われて世間を騒がせた。そのため、この映画では中頓別ではなく、架空の上十二滝村ということになっている。この村は単行本化した時から村上春樹によって地名を書き換えられた経緯がある。
 舞台は東京、広島だけでなくその北海道に広島から家福とみさきが車を走らせるシーンも出てくる。広島からはどうやら小牧から新潟に出て小樽か苫小牧までフェリーのようだった。
 車内のやりとりのシーンのほか、車が走っている絵を遠くから撮っていたり、車のシーンは本当に多い。
 何しろ、この映画は車を堪能できる。まずはそこに注目して欲しい。

2.多様性
 私は舞台に疎くて、ましてやチェーホフなどは『桜の園』1冊読んだだけ。この作品では『ワーニャ伯父さん』を広島芸術祭で上演するまでのオーディション、練習風景が出てくる。
 家福の舞台は独特で多言語で上演される。日本人が日本語のセリフを言ったかと思えば中国人が中国語、はたまた手話まで。観客には字幕で内容がわかるようになっている。
 この舞台を観て、なるほどこういう設定もありかと思った。人間同士の織りなすハーモニーがそこにはある。特に韓国の俳優の手話の手がとても美しかった。
 この映画の舞台も東京、広島、北海道、韓国と多様性に富む。最後の韓国は謎かけのようでもあった。
 家福が自分が運転するつもりだった愛車をプロジェクトの決まりということで専属ドライバーのみさきにその座を渋々渡すが、2人の間に徐々に生まれる信頼関係、そしてそれ以上の関係も暗示される。
 車の中では亡くなった妻の音の声も、舞台やその場のシーンとシンクロしてとても効果的だ。

 秘密を抱えたまま亡くなった妻の死から2年、喪失感を抱えていた家福がみさきとの邂逅で変容していく。ラストの舞台の韓国は希望を感じられた。 




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