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天国は歩いてしか行けない。 [赤湯温泉〜苗場山 2021.9.19-20]

苗場山はずっと行ってみたいと思っていた山。

山頂に広がる高層湿原、そこに伸びる木道、そして愛らしい山小屋。

これまで信州の山にばかり足が向いていて、なかなか信越方面には足をのばぜずにいたのだけれど、秋の連休に温泉ラバーが集まって登る会があるというので、急遽、飛び入り参加させてもらった。

苗場山に登るにはいくつかのルートがあるけれど、今回は山の秘湯・赤湯温泉を経由するコース。格段に歩く距離が長く、道ゆきも険しいが、だからこそ温泉がしみるというもの。つらくない温泉山行など、辛くないカレーみたいなものだ。

参加者は6人。ゆっくりしたい派の3人は山小屋泊、のびのびしたい派の3人はテント泊と、それぞれのスタイルで山の夜を楽しむことにした。

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歩き始めは樹林帯をゆるやかに登っていく。何を隠そう昨年の冬以来の登山(コロナ禍というのにめちゃくちゃ忙しかった!ありがたいけど……)なので、最後尾をノロノロとついていく。

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途中、足元に栗のようなクルミのような謎の実が落ちていて、みんなでその正体を突き止めようと森を捜索してみる。10年以上山を歩いているけれど、植物のことはほとんど知らない。20代の頃、ある山小屋で知り合ったお姉さまたちが「おばさんになったら植物愛が止まらなくなるわよぉ」と言っていたので、その時を待っているのだが……(もう41歳だけど!)

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赤湯温泉は川沿いにあって、かなり開放的な露天風呂。同行の男性陣は到着するやいなや手拭いを持って風呂へ。私とK先輩の女性陣は汗の乾かぬうちにビールを買って川沿いで一服。K先輩とは仕事仲間で、年に1度か2度は一緒に山を登ってきた。初めて会ったのが20代が終わる頃だったから、かれこれもう10年。年に数度しか顔を合わせなくても、こうして山に来ればご無沙汰な感じが全くしない。山というのはそういうもので、だから私は山が好きなんだ。

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夜、小屋で夕食を終えた3人も交えて、テント場で酒を飲みながら身の上話をした。サラリーマンの人、フリーランスの人、両方を複業でしている人、転職したばかりの人(コロナめ!)。独身の人、家族がいる人、バツイチの人、円満な人、ちょっとギスギスしている人。当たり前だけど、みんなそれぞれ色々ある。でも、こうして山の中で缶詰を突きながら酒が飲めているのだからきっとなんとかなるし、何より同じものを好きな仲間がいるのだから、そんな幸せなことはないと思う。山は人の思考を単純化する。だから私は山が好きなんだ(その2)。

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苗場山の山頂は思った以上の天国っぷりで、木道を小走りで進んだ。

大人になって長らく経つけれど、その先にある風景を早く見たくて走り出してしまうなんていうのはあまりあることじゃない。これまで高層湿原には何度か足を運んだことがあっても、こんなに苦労してたどり着いた湿原はこれが初めてで、その辛い道ゆきがあったからこそ胸打たれたのだろうと思う。

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辛く険しい山を歩いた後、「また山に行ってみたい」と言う人と、「もうこりごりだ」と言う人がいる。

こうして何かの拍子で一緒に山に登ることになる人は、もちろん前者なわけだけれど、だいたいはみんな楽観的で、でも芯の部分では打たれ強く、しぶとく生きていく人が多いような気がする。実は私は山を始めた頃は完全な後者で、「もう二度と山になど登るまい」と誓ったのだが、ひょんなことで今も山を続けている。10年以上経って、少しは楽観的で強くなった気がするのは、やっぱり山のおかげだと感じるし、やめなくてよかったと素直に思う。

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なんだかこれまでの登山を振り返るような文章になってしまったけれども、思えばプライベートで思い切り山に登ったのは本当に久しぶりで、純粋に山と格闘し、その度に感じる成長と、その歓びに浸っていた頃のことを思い出させるような山行だった。しんどかったけど、だからこそ清々しかったし、仲間と悪態をつきながら、励まし合いながら登る山は、なんだかんだ言ってすごくいいものだから。

縁あって一緒に登った仲間はどんなことを考えていただろうか。次またパーティを組むことがあったら、聞いてみたいと思っている。

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〈今回歩いたルート〉

DAY1.小日橋(駐車スペース)〜赤湯温泉/3時間30分

DAY2. 赤湯温泉〜苗場山山頂〜和田小屋/11時間(!!)

*和田小屋までタクシーに来てもらい、車を停めた小日橋まで戻りました。

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