これは、星座を描くパン -銀河鉄道とわきみち堂-
「パンにはパンドラの箱がある」というのは、とある有名なマンガのセリフだ。一度おいしいパンを知ってしまうと、もう元には戻れなくなってしまう……という恐ろしい不可逆の箱。しかしどうやら、私も開けてしまったらしい。パンドラの箱。
それは、佐賀県有田町にある「わきみち堂」というお店のパン。
雑誌やインスタなんかで、おいしいパンの情報はたくさん見てきた。だけどわきみち堂のパンは、今まで見てきたどのパンとも違う。
パンは ものがたり。
そう謳う「わきみち堂」のパンたちは、いっぷう変わった名前を持っている。
「賢治」「ジョバンニ」「カムパネルラ」。
本好きな人ならピンとくるはず。そう、宮沢賢治の世界だ。
届いたパンをあけた途端、部屋中に香りが満ちた。香りは記憶と直結しているというけれど、なんだか懐かしい気持ちになる。今までも、パンを焼いて「いい香りだな」と思うことはあった。だけど、「香ばしい」以上の香りがあるなんて。深呼吸すると大自然の中へ行けそうだ。
賢治
詩人、作家の『宮沢賢治』さんがモデルのパン。宮沢賢治さんの故郷岩手の小麦粉を使い、ライ麦粉や小麦全粒粉を割合多く配合したずっしり重く味わい深いパン。
ジョバンニ
小説『銀河鉄道の夜』の主人公の少年がモデルのパン。宮沢賢治さんの故郷岩手の小麦粉を使い、和の素材を隠し味に加えた、素朴な味わいが特徴のパン。
カムパネルラ
小説『銀河鉄道の夜』の主人公の少年がモデルのパン。宮沢賢治さんの故郷岩手の小麦粉を使い、レーズン酵母やヨーグルトを加えた、仄かな甘酸っぱさが特徴のパン。
3種類とも、そのまま食べてももちろん美味しいし、トースターで炙っても風味が立つ。食べきれない分は切って冷凍して、すこしずつ解凍して食べた。シンプルなベーコンエッグと焦げ目のついたパン。それだけで、一日の始まりがこんなに満ち足りた気持ちになるなんて知らなかった。
パンを片手に幸福な朝を過ごしながら、頭に浮かぶのはやっぱり『銀河鉄道の夜』のことだ。
「賢治」の滋味あふれる生地を噛みしめながら、冒頓とした青年の姿を思い浮かべる。「ジョバンニ」は、素朴だけど印象的な香りで、まっすぐな主人公の名前にぴったりだ。「カムパネルラ」の風味はすっきりと爽やかで、優しくて、だからすこし切なくなる。
かじりながら想像してみる。「わきみち堂」は、どういう思いで、この素材にたどりついたのだろう。この風味には、どんな意味があるのだろう。作り手の思いを考えながらパンを食べるなんて、初めてだった。まるで小説を読んでいるときのようだ。
大学でいちばん好きなのだったのは、英文学の授業だった。「作家が作るのが星だとしたら、われわれ読み手は星座を描くのです」と先生は言った。世の中には「ものがたり」を作る人がいて、受け取る人がいる。
「ものがたり」は本だけじゃないのだと、わきみち堂のパンは教えてくれる。
私たちの毎日だって、ささやかな「ものがたり」なのだ。カムパネルラみたいな高潔な精神は持ってないし、ジョバンニみたいにまっすぐにもなれない。忙しい毎日の中での自分はどっちかっていうとザネリだ。それでも、一生懸命生きている。
ものがたりのあるパン。美味しいだけじゃないこのパンを知ってしまったから、私はもう戻れない。
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こちらの記事は、わきみち堂の#PR として執筆したものです。
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