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【私が出会った子のはなし①】

私が小学校教員をしていたときに出会ったお子さんのことを紹介します。

ギャップのあるお子さん Aちゃん


私が1年生を担任したクラスにいたお子さんです。(Aちゃん)
第一印象は、物静かな感じ。ぼーっとしていて空想の世界に入っている時間が多い感じでした。
話すことが好きではないのか、遊びの輪には入っているものの聞き役になることが多いお子さんでした。

Aちゃんがひときわ輝き出したのは、体育の時間と休み時間です。
身長が高く、足が長いなあという印象はあったのですが、とにかく足が速い!
かけっこでも鬼ごっこでもいつも目立つ存在でした。
Aちゃんは、モデルさんとスポーツ選手のご夫婦のお子さんでした。

私からすると、運動しているときは表情が柔らかくなるのが印象的でした。
全力で体を動かしていて、大声で笑っていて、土の校庭に寝っ転がって遊んでいて・・・。
そんな姿が印象に残るということは、普段とのギャップがあるということ。教室では小さくなって座っていて、挙手はなく、返事も小さい・・・。

合う・合わない

Aちゃんにとって、教室での学習は苦しかったと思います。
ひらがなで名前を書くことが難しく、教科書を読むこともなかなかできませんでした。

特につらそうだったのは、算数の時間でした。
Aちゃんは、1年生の秋ごろになっても10までの数を数えることが難しく、足し算も引き算も全然できませんでした。

具体物を使ってやっていこう、身近なものを例に挙げてやっていこうと思い、「いちごが何個・・・」「20円持っていて、10円使うと・・・」など食べ物やお金を例に挙げて取り組んでみましたが、なかなか成果が上がりませんでした。

そこで、
「Aちゃん、自分でお金使ったことある?」と聞いてみたところ、
「え?お金?うちにはないと思うんだけど…」という回答。

10年以上前の話ですが、Aちゃんの家では紙幣や硬貨をほとんど使っていなかったのです。
お金を例に挙げても伝わらないのも納得でした。

見えにくいプライド

普段は比較的おとなしいAちゃんでしたが、少しずつ友だちとの関係に関心が向いてきたころがありました。
「遊ぼう!」「いーれーて!」と自分から声をかけることは慣れておらず、恥ずかしがりやのAちゃん。
いつも輪の中にそっと入っている感じでした。

子どもの交友関係は、ちょっとしたきっかけでベクトルが変わったり、パワーの在りかが変化したりしていきます。
女の子同士、放課後は公園で遊ぶことが増えてきたころで、公園遊び仲間の子たちは学校でもべったり過ごしていました。
またその中心にいる子は、運動も勉強もできる、クラスの優等生タイプ。Aちゃんは以前からその子に、ひそかなライバル心をもっているようでした。

Aちゃんは、いつもの輪が形を変え始めていることを察知したようでした。でも公園遊びはママに許してもらえないことも知っています。
そこでAちゃんは、自分が輪の中心話題になるように工夫しました。
学校には適さないおしゃれなブーツで登校したり、ママのリップをこっそり塗ってきたりしました。

「Aちゃんおしゃれ!」「Aちゃんかわいい!」と数日は話題になりましたが、「Aちゃんのママがおしゃれだもんね」と“自分”ではなく“ママ”の評価に切り替わったことに気づきました。

すると今度は、その輪の中であることないこと噂を流し始めました。
「この間〇〇ちゃんが、あなたのことうそつきって言ってたけどどうしたの?」
「△△ちゃんの好きな人、あの子がばらそうとしてたよ?」
そのグループの輪を乱すことで、自分に見方をつけようとしているようでした。

遠い地で…

Aちゃんたちが進級すると、クラス替えがあり、他の先生が担任となりました。
クラス替え後も友達との関係はすっきりしない様子で、よく女子トラブルのなかで名前が挙がっていました。

そのうち、Aちゃんファミリーは、おうちの方のお仕事の関係で海外に引っ越すことになりました。
その後どうしているかわからないままですが、自分の好きなことをまっすぐ楽しんでいてほしいと願うばかりです。

何ができたんだろう

Aちゃんは、いろいろな部分が満たされていなかったんだろうと思います。

・本当はもっと友達と仲良くなりたい(けど、うまく話しかけられない、恥ずかしい、)
・本当は公園で遊びたい(けど、ママがダメって言うし・・・)
・本当は勉強に苦戦している姿を友だちに知られたくない(けど、学校だどみんながいてばれちゃうし、難しいから家でもやりたくない!)
・本当はもっと好きなことをしたい(けど、お姉ちゃんらしく!って言われるし…)

こんな思いがいつもモヤモヤ渦巻いていたんだろうけど、Aちゃん自身もまだ幼くて、自分の気持ちを理解できていなかったんだと思います。
さらに、自分の気持ちを表現するスキルも育っていなくて、どうしたらいいか分からなかったはず。

自分の気持ちを知ること⇒表現すること

小学校だと、
「何がいやだったのか、思ったことはお口で話してごらん」とか
「言わないと伝わらないよ」なんて指導することがありますよね。

でも小さい子って、気持ちを相手に伝える前段階として、
「自分の気持ちを自分で把握する」というステップが必要だと考えています。

「今どんな気持ち?/どんな感じがする?」
「~を見れて嬉しかった?/~ができて嬉しかった?」
「もしかして、今〇〇なんじゃない?」
と大人が言葉にしてあげる場面もあるかもしれません。

うまく表現できないお子さんにはまず、「気持ちを把握する」ステップをたくさん経験させてあげたいです。

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