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【私が出会った子のはなし②】

私が小学校教員をしていたときに出会ったお子さんのことを紹介します。

パッと見、やんちゃ坊主Bくん


高学年を担任したときに出会った男の子です。
Bくんはクラスの中でもやんちゃ坊主感たっぷりで、休み時間はボールをもって一番に校庭に出ていくし、教室での言葉遣いはちょっと荒くて声が大きいタイプ。遊びやテレビ、ゲームのことに詳しくて、いつも周りに男の子が群がるような子でした。

私の第一印象、「やりにくそう」

担任して数日で「先生うるせえなあ」「もう先生の身長抜かすぜー!」なんて声をかけてくるBくんに対する第一印象は、
「やりにくそう…。これからもっと反抗期になるのに、私で対処できるかな…」というものでした。

まさかこのイメージが、180度変わるとは、この時は全く思っていませんでした。

Bくん、ちょっと荒れる

新学期が始まって1か月が経つころ。みんな徐々に打ち解けてきて、いつも遊ぶグループがざっくりとできてくるころ。
Bくんはちょっとずつやんちゃさを増してきました。クラスメイトの見た目をネタにして笑いをとってみたり、物を投げるふりや高いところに登るふりをして強さや怖さをアピールしたりしていました。
今でいう、「マウントをとる」というやつですね。

(ただ叱っても反発するだろうな)と思い、よく観察してみました。
すると、そういった“マウント”をとる相手は、初めて同じクラスになった子、まだ深く知らない子だと気づきました。
あの子と仲良くなりたい。何か話しかけたい、でも何を話題にしゃべったらいいかわからない、というBくんの思いが“マウント”になっていたのです。

思わぬうちに「いじめっ子」になってしまっていた!

このような言動が、Bくんの思いにだけ目を向ければ「友だち作りの1ステップ」なのですが、やられた側にとってはいじめとなることがあります。
中には「Bくんてほんとおもしろいよな!」と捉えてくれる子もいますが、ごくわずかです。

「先生、Bくんに〇〇って言われた…」
「またBくんが~~やってきて困るんですけど!」
なんて声が毎日私に届きました。

そこで、掃除の時間に呼び出して、Bくんと私の二人で話すことにしました。
「ねえねえ、クラスの何人かが、Bくんのこと怖いって言ってるんだけど、知ってる?」
「え!?うそでしょ??俺、何にもしてないよ?」
やっぱり、そんなふうに思われていることなど気づいていませんでした。
だってBくんはただ、友だちをたくさん作りたい、いっぱい遊びたいだけなのです。
「仲良くなりたい子には、『休み時間遊ぼうぜ』『ドッジボール好き?
』とか遊びのことを話してみたら?」
と提案してみました。

囲まれるBくん

翌日クラスの様子を見ていると、Bくんがいろいろな子に話しかけています。
聞いてみると、「おい!休み時間、俺と遊ぼうぜ!」「おまえドッジボールうまい?まじ!?じゃあ俺のチームな!」ですって。
昨日の話をなんとも素直に受け入れたBくん。

休み時間の遊びを見てみたら、誘った友だちに囲まれてウハウハ、ニヤニヤ・・・。かなりご満悦です。
休み時間から戻ってきたBくんは私に一言。
「先生のアドバイス、まじですげーよ!ありがとな!」

Bくんってこんなに素直でまっすぐな子なんだ・・・と私が考えさせられた瞬間でした。ただ、言葉が強いだけ、やり方が不器用なだけ、知らないだけなのです。

立場が人を育てる

それ以来1学期の間、遊びの輪の中心にはいつもBくんがいました。
盛り上がるようなルールを追加したり、おもしろい作戦を提案したりするからです。時には違うクラス・学年の子たちを入れてあげる寛容さもありました。(負けず嫌いなので、たまにずるをしてみんなに責められることもありましたが。)

この求心力をもっと伸ばせないかなと私は考えていました。
ユニークなアイデア・たくさんの人を集める力は、きっとBくんの大きな財産です。

また、Bくんはコンプレックスも抱えていました。勉強が苦手、もっと運動ができるようになりたい、兄弟がいなくてさみしいなどです。
Bくんが自信をもてる経験を重ねれば、もっと力を発揮できると思っていました。

そんなときです。前期のクラス委員が活動を終え、後期の委員を決めることろになりました。私は「これだ!」と思いました。
・クラスで活動するものなら、Bくんが安心して自分を出せる
・他の委員会で忙しい子はクラス委員ができない
・立候補者がいない
など条件がぴったりでした。

Bくんに打診してみたところ、最初は「やだよ~」「俺じゃダメでしょ」と渋っていましたが、「わかった、俺がやってやるよ!」と快諾してくれました。

立場だけじゃない! Bくんの自覚

クラス委員になったBくんは、学級会での司会を担当したり、代表委員会(各学年のクラス委員が集まる会)でクラスからの意見を伝えたりと、どんどん活躍していきました。

人前に出ることへも自信がついてきて、6年生になると、
・学芸会ではキーパーソンの役に立候補
・委員会の委員長に立候補
さらには、運動会の応援団長になったのです!
これにはおうちの方も、元担任たちもびっくり!!

しかし、応援団長は簡単ではありません。自分のセリフや動きが多くて覚えるのも大変な中、下級生もついてこれるようにするにはフォローしてあげなくてはいけません。
Bくんは苦戦しました。自分のことで精いっぱいです。声はめちゃくちゃ大きいはずなのに、セリフを間違えないようにと考えると自然と小さい声になってしまいます。他の子に「セリフ間違えてるよ」と言われても、「うるせーな!!」ときつく当たってしまっていました。

でも、Bくんには味方がたくさんいました。
応援団の中には、同じクラスの子がいます。「私が4年生に教えとくから、Bくんは自分の練習しときな!」と言ってくれました。
今まで遊びに入れてあげていた、他クラス他学年の子もいました。Bくんが一人残って練習する様子を見て、「Bくん、がんばってる。ぼくもBくんみたいにがんばろう」とつぶやいていました。
Bくんの真剣な姿が、まわりをそうさせたんですね。

大人には見えにくい、子ども同士のつながりの深さ

「うるせーな!!」なんて強く当たっていると、大人はついつい「そんな言い方しない!」「なんでそんなに強く言うの?」と言いがちです。

でも、前後関係含めてよく見てみると、その子がそういう言い方をした理由がわかります。
本気だからこそ、熱量があるからこそなんです。

子どもはそれを察知しています。
「あ、うまくいかなくて悔しいからなんだな。」
「ここまでやってるだけでもすごいよね。がんばってるよね。」
と感じた子が、フォローしてくれたんだと思います。

教員と子どものかかわりは、短くて1年(代替だともっと短いことも)、長くても3年くらいの付き合いになることがほとんどです。
それに対して子ども同士は、クラス替えもしながら6年間の付き合いです。その相互理解度・つながりは、大人が思っているよりもものすごく深いんだろうなと感じます。

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