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教科書だけで解く早大日本史1-2 社会科学部2020

 前回に引き続き、2020年社会科学部の大問1です。社会科学部出身の有名人でデーモン閣下をあげるのを忘れていました。学部長も経験された田村正勝教授のゼミだったそうです。
 さて、説明が多くて省きましたが、評価の印について基準を示しておきます。

 ◎教科書本文に記載あり
 〇教科書欄外注、コラムなど記載あり
 △教科書に記載なし、用語集に記載あり
 ×教科書、用語集ともに記載なし

 問題は、河合塾解答速報にあります。
 それでは続きを始めましょう。

◎問6  鎌倉時代の地方に関する記述として、不適切2つ

イ 源頼朝によって守護と地頭がはじめて任命された。
ロ 守護の任務は大犯三ヶ条とよばれた。
ハ 関東御料は源頼朝の支配した荘園である。
ニ 守護には半済令の権限が与えられた。
ホ 地頭は当初、平家没官領などの没収された荘園や公領におかれた。

さて、一見すると正しそうなイですが、これは不適切です。
1185年、壇ノ浦で平家を滅ぼした頼朝は、寿永ニ年十月(1183年)の宣旨ですでに得ていた東海道・東山道の支配権承認につづいて、全国への守護・地頭の設置を認めさせます。教科書には「こうして東国を中心とした頼朝の支配権は、西国にもおよび、武家政権としての鎌倉幕府が確立した」とあります。問題となるのは、源頼朝によって「はじめて」任命されたかどうかです。正誤問題を解く際はこうした「強め」の表現には注意しなければいけません。
 平氏政権の項には、「清盛は彼ら(※武士団)の一部を荘園や公領の現地支配者である地頭に任命し、畿内から瀬戸内海を経て九州までの西国一帯の武士を家人とすることに成功した」とあります。頼朝の地頭任命は初めてではないことが教科書本文の記述で分かります。

 ロは教科書太字レベルの用語でもちろん適切。京都大番役の催促、謀反人・殺害人の逮捕という中身に関しては欄外注で解説があります。
 ハも適切。教科書本文に「将軍である頼朝自身も多くの知行国(関東知行国=欄外注では関東御分国)や平家没官領を含む大量の荘園(関東御領)を所有しており、これが幕府の経済的基盤となっていた」とあります。欄外注ではその規模の説明もあります。
 ホも適切。本文に「地頭の設置範囲は平家没官領を中心とする謀反人の所領に限られていた」とあります。これが全国規模に広がるのは承久の乱を待たねばなりません。

 ニは不適切。半済令は南北朝時代の観応の擾乱に際して足利尊氏が近江・美濃・尾張の三国の守護に認めた年貢を半分徴収する権利で、時代が明らかに違います。もちろん本文に記述があります。

 やや難しそうに見えますが、イも本文から判定できるため◎です。

〇問7 室町時代の守護に関して、不適切2つ。

イ 守護は有力な奉公衆から任命された。
ロ 守護には刈田狼藉を取り締まる権限が与えられた。
ハ 領国は守護代に統治させることが多かった。
ニ 守護は段銭・棟別銭を徴収する権限を持った。
ホ 守護請の収入は新補率法によって定められた。

 イ、ホが不適切です。奉公衆は「古くからの足利氏の家臣、守護の一族、有力な地方武士などを集めて」編成した「直轄軍」です。守護請は荘園や公領の領主が守護に年貢の徴収を請け負わせることで、鎌倉時代の地頭請と同じ「代官」制です。新補率法とは承久の乱後に西国に設置された地頭(新補地頭)に認められた新たな基準のことです(田畑11町ごとに1町の土地、田地1段につき5升の加徴米、山や川からの収益の半分)。新補率法という語は欄外注ですが、守護請の意味を理解していれば判定できるでしょう。

 ロ、ハ、ニは適切です。室町幕府の守護には大犯三ヶ条に加えて、刈田狼藉の取り締まり権、幕府の命令を強制執行する使節遵行権が新たに認められました(欄外注)。
 有力守護は京都で幕府の役職につき、「また一般の守護も領国は守護代に統治させ、自身は在京して幕府に出仕するのが原則」でした。「麒麟が来る」に登場する織田家、斎藤家もそれぞれ斯波、土岐という有力守護の守護代です。
 段銭・棟別銭とは土地や建物への賦課で、「内裏の造営など国家的事業の際には、守護を通して全国的に段銭・棟別銭を賦課することもあ」りました。

 根拠が欄外注であるため評価は〇ですが、レベル的には◎の問題です。

◎問8 惣村について不適切2つ

イ 村は指導者層であるおとな・沙汰人を中心として運営された。
ロ 村民の会議を宮座とよんだ。
ハ 地下検断は、村民が自ら警察権を行使することである。
ニ 村民は国人一揆を結び、代官の罷免や年貢の減免を求めた。
ホ 村の有力者には守護などと主従関係を結んで地侍になるものもいた。

 ロ、ニが不適切。村民の会議は「寄合」で、「宮座」は「神社の祭礼をおこなった」「農民たちの祭祀集団」(欄外注)です。また、「国人一揆」は地方在住の武士だった「国人」らが「自主的に相互間の紛争を解決したり、力をつけてきた農民を支配するために」結成した地域的な一揆のことです。惣村の農民も「不法を働く代官・荘官の免職や水害・干害の際の年貢の減免を求めて一揆を結び」、強訴や逃散などの「実力行使をしばしばおこなった」のですが、これは国人一揆ではありません。なお、国人と惣村が一体となって結成された一揆は「国一揆」とよばれ、国人一揆とは区別されます(欄外注)。

 イ、ハ、ホはいずれも適切。惣村は「おとな(長・乙名)・沙汰人などと呼ばれる村の指導者によって運営された」こと、「村内の秩序を維持するために村民自身が警察権を行使すること(地下検断・自検断)もあった」ことが本文にあります。また「惣村の有力者の中には、守護などと主従関係を結んで武士化するものが多く現れ」(本文)、このように「侍身分を獲得したものを地侍という」(欄外注)とあります。自立の気風に富んだ室町時代の農民たちからデモクラシーを感じ取ることができないでしょうか。

 一部、欄外注を根拠としていますが、正答に至る過程は本文のみで判定できるので◎とします。

◎問9 18世紀ごろの農村の変化について、不適切2つ

イ 農民に格差が生じて、豪農と貧農や小作人に分かれていった。
ロ 村の代表者が農民を代表して直訴する村方騒動が増加した。
ハ 地主手作とは、地主が年季奉公人などを使う経営である。
ニ 生活に窮した農民の中には潰れ百姓となって都市に流入したものもいた。
ホ 寛政の改革では人返しの法により農村の再興が図られた。

 用語をよく理解している人ならば、ロ、ホが一見して不適切だとわかるでしょう。
 村方騒動は「村役人を兼ねる豪農と、小百姓や小作人らとの間の対立が深まり」「村役人の不正を追及し、村の民主的で公正な運営を求める小百姓らの運動」です。ロの文は「代表越訴型一揆」(本文)とよばれるもので、「佐倉惣五郎」「磔茂左衛門」らの「義民」が有名です(欄外注)。
 また、「人返しの法」は天保の改革の政策であり、寛政の改革ではお金を渡して帰農させ、本百姓体勢を立て直そうとした「旧里帰農令」が正しい。

 したがって、イ、ハ、ニは適切です。
 豪農と貧農、小作人については、先程の村方騒動の前段で説明されています。続けて、江戸や近隣の都市部に流出したことも書かれています。この項の初めには「地主手作」もありますが、「零細農民を年季奉公人などとして使役しておこなう地主経営」という説明は欄外注でされています。
 なお、「潰れ百姓」という語は山川教科書には見られず、山川用語集に①「近世に、年貢諸役の過重な負担や天災などで破産した貧農。博徒や無宿人として都市部に流入し、治安悪化の一因となった」と説明されています。幕府はその取り締まりのために関東取締出役(1805年)を設けて対応しますが、その説明の前に「土地を失う百姓も多く発生して」とあり推測は可能です。

 「潰れ百姓」が難解用語でしたが、不適切2つを導くことは本文から容易ということで問題の評価は◎です。

◎問10 版籍奉還と廃藩置県、市制・町村制および府県制・郡制について不適切が1つ

イ 版籍奉還で、藩兵は解散させられた。
ロ 廃藩置県で、知藩事は廃止された。
ハ 市制・町村制では、人口25000人以上の都市を市とした。
ニ 府県会議員は、郡会議員の投票による間接選挙で選ばれた。
ホ 市長は、内務大臣が任命した。

 適切判定をするのはかなり難しいのですが、この手の問題は不適切がはっきりわかるようにできているものです。
 イの藩兵の解散は、版籍奉還時ではなく廃藩置県時です。教科書にも「また、廃藩とともに藩兵を解散させたが、一部は兵部省のもとで各地に設けた鎮台に配置し、反乱や一揆に備えた」と書かれています。したがってイが不適切となります。

 つまり、ロ~ホはすべて適切ですが、内容を見ておきましょう。
 「旧大名である知藩事は罷免されて東京居住を命じられ、かわって中央政府が派遣する府知事・県令が地方行政にあたる」とあります。知藩事が任命されたのが版籍奉還、罷免されたのが廃藩置県です。
 市制・町村制は1888年、府県制・郡制は1890年に公布されます。ドイツ人顧問モッセの助言を得て山形有朋(内相)を中心に進められました。ハ、ニ、ホに関する説明はすべて欄外注にあります。「人口2万5000人以上の都市を市として郡と対等の行政区域とし」「市長は市会の推薦する候補者から内務大臣が任命」「府県会も郡会議員の投票による間接選挙」とあります。
 地方制度は戦後とかなり異なりますので、よく確認しておきましょう。

 イの誤りが本文で明確なので◎なのですが、ハ~ホは欄外注を根拠としており、特に具体的な数字がでると難問になります。〇よりの◎です。

 ようやく大問1の10問が終わりました。このペースで書いたらどれだけ時間がかかるのかと途方に暮れていますが、自分の趣味的調査なのでのんびりやります。

大問1 ◎8〇2 教科書本文、欄外注ですべて正答を導けます。

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