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教科書だけで解く早大日本史 2021商学部 2

2021商学部編の第2回です。大学公式ページで問題が未掲載(2021/8/14時点)なので、公開されるのを待つか、赤本などで問題を入手してください。

今回は1⃣の問Dから問Fまでをみていきます。

※大学公式ページで問題を確認してください。(執筆時未掲載)

※東進データベースは要登録です。(執筆時未掲載)

◎問D 出挙に関する説明として、正しいもの

1. 成年男子のみに行われるものであった。
2. 強制的なものから次第に任意のものへと変化した。
3. 地方財政ではなく中央財政を支えるものとして重視された。
4. もともとは凶作にそなえて粟を徴収するものであった。
5. 稲を貸し付け、収穫後、利息を加えて徴収するものであった。

下線部ニは以下の通りです。

(もともと農民の生活維持のために行われていたとみられる)出挙も、律令国家体制を維持するうえで重要な財源となっていった。

出挙(すいこ)について教科書で確認しておきましょう。

このほか、国家が春に稲を貸し付け、秋の収穫時に高い利息とともに徴収する出挙(公出挙)④もあった。(43頁)
④出挙は、もともと農民の生活維持のために豪族たちがおこなってきたものであったが、律令制下では国家の租税となり(公出挙)、その利息は諸国の重要な財源となった。(43頁 脚注④)

選択肢5が引用通りで正しい文です。

国家が貸し付けをする出挙を公出挙、国司などが自らの私腹を肥やすために実施した出挙が私出挙です。利息は公出挙で5割、私出挙で10割程度でした。当初は任意の制度でしたが、しだいに強制的なものへと変化し、租税化しました。

祖や出挙は成年男子だけの租税ではありませんので1は誤りです。2は強制的⇒任意ではなく、任意⇒強制的です。3は中央財政でなく地方財政(国衙)の財源となったのが正しい。4の「凶作にそなえて粟を徴収」は「義倉(古代)」という制度です。「義倉」には松平定信が実施した「義倉(近世)」もあります。

△問E 兵役に関する説明として、誤っているもの

1. 成年男子3~4人に1人の割合で兵士として徴発された。
2. 兵士の調・庸・雑徭は免除されなかった。
3. 兵士の武器や食料は自弁が原則であった。
4. 兵士は諸国の軍団で訓練を受けた。
5. 衛士の任期は1年、防人の任期は3年であった。

兵役には衛士や防人があり、防人には東国の兵士があてられました。

 兵役は、正丁3~4人に1人の割で兵士が徴発され、兵士は諸国の軍団で訓練を受けた。一部は宮城の警備に当たる衛士となったり、九州の沿岸を守る防人①となった。兵士の武器や食料も自弁が原則であり、家族内の有力な労働力をとられることから、民衆には大きな負担であった。(43-44頁)
①防人には東国の兵士が当てられ、3年間大宰府に属した。故郷を遠く離れて九州におもむく防人たちのよんだ和歌が、『万葉集』に多く伝えられている。(44頁 脚注①)

選択肢のうち、1、3、4は引用通り正しい文です。5は「衛士の任期が1年」を確認できません。

ところで、前回見たように、調・庸は都まで自ら運ぶ運脚の義務が課されているため重い負担でした。また、雑徭は国司のもとで年間60日以内の労役につくものでした。兵士として徴発されて、軍団で訓練を受けたり、衛士や防人の任についている人が、これらの負担をすることは可能でしょうか?

もしそんな制度ならいくらなんでも無理筋です。したがって、選択肢2の「免除されなかった」が誤りです。

2、5については、兵士は庸・雑徭を免除されたこと、衛士の任期は1年であることが『用語集』で確認できます。

解答の確定には『用語集』が必要なため△評価ですが、説明した通り、教科書にある知識を使いこなせば正解に限りなく近づくことができます。

◎問F 律令体制を揺るがす問題について、誤っているもの

1. 浮浪・逃亡が増えた。
2. 偽籍が目立つようになった。
3. 私度僧となる者がいた。
4. 調・庸の品質の悪化や未進が多くなった。
5. 公田(乗田)の賃租が行われた。

奈良時代、農民には兵役のほか、雑徭などの労役や、都への運脚などの負担もあり、生活に余裕はありませんでした。また、問題文にあるように、「当時の農耕技術では天候不順や虫害などの影響を受けやすく、飢饉や疫病もおこりやすかった」ため、貧富の差が拡大し、律令制度を支える制度(戸籍・計帳・班田収授)を揺るがす動きがさまざまにみられるようになりました。

 農民には、富裕になるものと貧困化するものとが現れた。困窮した農民の中には、口分田を捨てて戸籍に登録された地を離れて他国に浮浪したり、都の造営工事現場などから逃亡して、地方豪族などのもとに身を寄せるものも増えた。一方、有力農民の中にも、経営を拡大するために浮浪人となったり、勝手に僧侶となったり(私度僧)、貴族の従者となって税負担を逃れるものがあった。8世紀の末には、調・庸の品質の悪化や滞納が多くなり、また、兵士の弱体化が進んで、国家の財政や軍制にも大きな影響が出るようになった。(53-54頁)
8世紀後半から9世紀になると、農民間に貧富の差が拡大し、有力農民も貧窮農民も浮浪・逃亡などさまざまな手段で負担を逃れようとした。そして戸籍には、兵役・労役・租税を負担する成人男性ではなく女性の登録を増やす偽りの記載(偽籍)が増え、律令の制度は実態とあわなくなった。(63頁)

やや長い引用になってしまいましたが、選択肢1~4はすべて律令体制を揺るがす動きとして間違いはありません。「浮浪」と「逃亡」の違いについても引用の通りです。また、有力者が税負担を逃れ経営を拡大するために浮浪人となるなどの事例も知っておくと良いでしょう。

残る選択肢5が誤りです。

 農民は、班給された口分田を耕作したほか、口分田以外の公の田(乗田)や寺社・貴族の土地を原則として1年のあいだ借り、収穫の5分の1を地子として政府や持ち主におさめた(賃租)。(52頁)

ここで注意が必要なのは、選択肢5の「公田(乗田)の賃租が行われた」という文自体に誤りの要素はないということです。しかし、問題として問われたのはあくまで「社会の中に律令体制を揺るがす様々な問題や動き」(下線部へ)についてです。公田の賃租は「律令体制を揺るがす動き」ではないため、ここでは相応しくない選択肢となります。

このように、内容自体は正しくても、設問の答えとしてふさわしくない場合をよくチェックしておきましょう。

今回はここまでです。



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