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教科書だけで解く早大日本史 2021商学部 14

2021商学部編の第14回です。引き続き5⃣をみていきます。

※大学公式ページで問題を確認してください。執筆時未掲載

※東進データベースは要登録です。執筆時未掲載

◎問D 産業革命期の経済社会について 誤っているもの1つ

1. 池貝鉄工所により先進国水準の旋盤が国産化された。
2. 日露戦後には大紡績会社が織布を兼営し、朝鮮・満州の綿織物市場に進出した。
3. 器械製糸による生糸生産が増加し、フランス向けを中心に輸出が大きく伸びた。
4. 政府は造船奨励法、航海奨励法を制定し、海運業と造船業を同時に振興した。
5. 日清戦争の賠償金を利用して欧米と同じ金本位制を採用し、貿易を振興した。

前回説明したように松方デフレは日本における「いわゆる本源的蓄積」の過程を進行させました。松方デフレの収束をきっかけに日本も産業革命と資本主義の時代に突入します。

日清戦争後には器械製糸の生産量が座繰製糸を上まわり、生糸を原料とする絹織物業でも、北陸地方を中心に輸出向けの羽二重生産がさかんになって、力織機も導入された。日露戦争後にはアメリカ向けを中心に生糸輸出がさらにのび、1909(明治42)年には清国を追いこして世界最大の生糸輸出国となった。(302頁)太字は引用者による

生糸輸出先は「フランス」ではなく「アメリカ」です。3が誤りでした。

機械をつくる機械である工作機械の分野では、池貝鉄工所が先進国並みの精度をもった旋盤の国産化に成功した。(304頁)
 日露戦争後には、大紡績会社が合併などにより独占的地位を固め、輸入の大型力織機で綿織物もさかんに生産し、販売組合を結成して朝鮮・満州市場への進出を強めた。(301頁)
④ 1896(明治29)年、政府は外貨節約と戦時の軍用船確保のため造船奨励法・航海奨励法を公布して、鉄鋼船の建造と外国航路への就航に奨励金を交付することにした。(300頁 脚注④)
 日清戦争の勝利で清国から巨額の賠償金を得た政府は、これをもとに戦後経営に取り組み、軍備拡張を推進するとともに、金融・貿易の制度面の整備をはかった。1897(明治30)年に貨幣法を制定し、賠償金の一部を準備金として、欧米諸国にならった金本位制を採用し、貨幣価値の安定と貿易の振興をはかった。(299-300頁)

3以外の各文はすべて正しい内容でした。いずれも教科書で確認できます。


×問E 産業革命期の産業構造について 空欄補充組み合わせ

 重工業部門は軽工業部門に比べて生産過程で( a )の占める比重が高い産業であり、( a )財価格の高さは製品コスト押し上げた。また( b )のために( c )が普及しない等、重工業製品の市場は制約されていた。
1. a 固定資本  b 低賃金   c 機械
2. a 固定資本  b 電力不足  c 電気製品
3. a 固定資本  b 低賃金   c 電気製品
4. a 流動資本  b 電力不足  c 電気製品
5. a 流動資本  b 低賃金   c 機械

政府は、日清戦争の賠償金で官営八幡製鉄所を設立して重工業部門の発展をめざします。日露戦争後には大冶鉄山の鉄鉱石を安価に輸入して八幡製鉄所を拡張するなど鉄鋼業が発達し始めました。北海道室蘭市に日本製鋼所がつくられ、東京芝には池貝鉄工所ができるなど徐々に重工業部門がさかんになっていきます。

この時期には生糸・綿布などの輸出が増加したものの、原料綿花や軍需品・重工業資材の輸入が増加したため、貿易収支はほとんど毎年のように大花々赤字となった。(304頁)

重工業には材料となる鉄鉱石やくず鉄などの輸入にかかる費用が大きく、また生産のための工場も軽工業である製糸・紡績業に比べて大掛かりな設備を必要としました。つまり生産のためにかかる費用が大きかったということです。そのため生産される製品の価格も高くならざるをえませんでした。

 一方で、重工業製品の市場にも限界がありました。この頃の重工業製品は一般家庭で消費するような電化製品ではなく、工場で使うための機械製品をつくるのが目的でした(一般家庭向けの電化製品が普及するのは昭和の戦後です)。しかし、せっかく工場で使うための大型機械製品を高い費用をかけて制作しても、それが全国どこの工場でも使えるかというとそういうわけにもいきませんでした。

というのも、この当時はまだ長距離送電に成功しておらず、電力不足により工場の操業に限界があったため、どこの工場でも大型電気機械を導入できたわけではなかったからです。

さて、問題を見てみましょう。

( a )には「固定資本」または「流動資本」が入ります。これは日本史教科書レベルでは対応できない経済用語です。固定資本は土地・機械・設備などで構成され、流動資本は原材料費・人件費などで構成されます。重工業は大掛かりな設備が必要なため、固定資本の占める比重が高い産業です。したがって、( a )には「固定資本」が入ります。

次に、( b )と( c )ですが、こちらは「電力不足」のために「電気製品」が普及しない、と考えてよいでしょう。「低賃金」は一般労働者の消費する電気製品のことになってしまいますから、当時の状況と異なります。

この問題は日本史教科書の知識では手が出ない問題でした。

今回はここまでです。

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