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教科書だけで解く早大日本史 2021社会科学部 11

社学の魅力の一つは「学際豊か」であることでしょう。出自が社会科学系学部の2部を融合したことだったこともあり、法学、経済学、政治学などの様々な分野を学ぶことができます。そこから専門的な各分野へ進むもよし、分野横断的な学問をするもよし、1994年の夜間大学院設置から、現在では社会科学学術院まで備えるに至りました。

さて、Ⅲの続きです。長年、選択問題ばかりだった社学の日本史に30時論述が出題されました。面食らった受験生も多かったのではないでしょうか。

※大学公式ページで問題を確認してください。

※東進データベースは要登録です。

〇問7 選挙権の拡大をおこなっていない内閣はどれか

イ 原敬内閣
ロ 加藤高明内閣
ハ 幣原喜重郎内閣
ニ 安倍晋三内閣
ホ イ~ニのいずれの内閣も選挙権の拡大を行なっている。

選挙権と有権者数割合の変遷は中学生でも学ぶ事項です。内閣と結びつけるのは中学生ではやや難しいかもしれませんが、高校生ならどうでしょうか。

「教科書」332頁に「おもな選挙法の改正」という表があります。

1889年に黒田内閣で、「男子25歳以上直接国税15円以上」で始まります。1900年に山県(Ⅱ)内閣で「10円以上」、1919年に原敬内閣で「3円以上」になり、1925年の加藤高明内閣で「男子25歳普通選挙」となります。

戦後、1945年に幣原内閣で「男女20歳普通選挙」となります。

選択肢に山県内閣がないため、イ・ロ・ハは確定です。

の安倍晋三内閣は2015年に選挙法を改正し、「男女18歳普通選挙」となります。第3次安倍内閣です。さすがに最近のことなので「教科書」本文にはありませんが、巻末の年表に「改正公職選挙法で選挙権年齢を満18歳以上に引下げ」(425頁)とあります。

したがって、正解はの「いずれの内閣も選挙権の拡大を行なっている」です。


〇問8 吉野作造は民本主義を唱えたが、なぜ「民主主義」でなく、「民本主義」という言葉を用いたか。30字以内で記述。

2021年は商学部の30字論述が80字になったり、社学で論述問題が出題されたりと変化もありました。政経の日本史がなくなった影響もあるかもしれません。

とはいえ、民本主義の説明は頻出事項です。国立型の論述を練習していた受験生なら容易だったでしょう。選択問題でも、単なる○×でなく、選択肢の内容まで吟味して学習していた人はやりやすかったと思います。

民本主義については、「教科書」に『中央公論』1916年1月号に掲載された吉野作造の解説がのっています。ここで吉野作造は「民主主義」という用語は「国家の主権は人民にあり」とする主張ととらえられるが、「国家の主権の活動の基本的の目標は政治上人民にあるべし」という意味で「民本主義と訳す」のだと言っています。

① 民本主義はデモクラシーの訳語であるが、国民主権を意味する民主主義とは一線を画し、天皇主権を規定する明治憲法の枠内で民主主義の長所を採用するという主張で、美濃部達吉の天皇機関説とともに大正デモクラシーの理念となった。吉野は普通選挙制にもとづく政党内閣が、下層階級の経済的不平等を是正すべきであると論じた。(324頁 脚注①)

引用の前半部分を30字にまとめればよいでしょう。

(例)天皇主権の憲法の枠内で、民主主義の長所を採用するため。(27字)

問は、「なぜ「民主主義」ではなく、「民本主義」という言葉を用いたか」です。「民主主義」といってしまうと、明治憲法の枠内をはみ出す主張であると捉えられてしまうため、あえて「民本主義」という言葉をつかって「民主主義」の良い部分を取り入れようとしたのです。

(例)民主主義という言葉は、天皇の主権を否定する意味をもつため。(29字)

これだと、「民主主義」を使えないことはわかりますが、「民本主義」を用いた理由がなく不十分です。

(例)民主主義という言葉を用いずに、その長所を採用するため。(27字)

「民主主義」という語を使わないことは設問にあるので、30字では繰り返す余裕はなさそうです。むしろ「なぜ使えない言葉なのか」の説明を加えた方が良いでしょう。

(例)天皇主権下で、主権在民の意味と混同されるのを防ぐため。(27字)

こちらは『中央公論』の説明に沿った書き方です。「言葉を用いたか」という問なので十分でしょう。

(例)主権が人民にあるという主張との混同を避けるため。(24字)

30字論述で24字は短いと思います。24字で書ける内容なら25字以内で出題されるでしょう。

なぜ「民本主義」という言葉を使わざるを得なかったのか、に焦点を当てるか、「民本主義」という言葉を使って何をしたかったのか、に焦点を当てるかで解答の仕方は少しかわります。


今回はここまでです。

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