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ちんちんを武器にしなくていいよ—— B級下ネタレズビアンロードムービー『ドライブアウェイ・ドールズ』紹介

★6/5(水)追記 チケット販売が開始されました!
座席表から好きなところを選べるので、ぜひお早めに!


ちんちんを武器にしなくていいよっていう映画なんだ、これは。

女のハダカに興味はあるけど真面目な顔してOLやってる読書好きなカタブツ女子が、「カモン!レッツゴー!ワァオ!!テキサァス🤠🇺🇸」みたいなノリのアメリカン女ったらし女に引っ張り出され、ワケありボロボロレンタカーに乗せられ、アクセルを踏まれ、モーテルに知らん女を連れ込まれ、「3Pする〜?(笑)」とか普通に言われ、その上、そんなやりたい放題の女ったらし女の怒れる元カノであるつよつよ武闘派警官や、ドル札と拳銃で物事を片付けようとするエラそうな共和党上院議員のおっさんとその手下たち、果ては、チワワ。女ったらし女の乱行をゆるさないすごいはやいつよいチワワ♀に追われながらフロリダまで駆け抜けるという、速すぎる85分のアメリカ映画『ドライブアウェイ・ドールズ』が日本公開されます。

いいですか。

ド下ネタです。

間違っても初デートで観るやつじゃない。
だけど、『あー。ギラギラおバカなB級アメリカ映画をギトギトのピザ食って指まで舐めながらダラダラ観てえ夜もあるんだわ』って思えるなら、たぶん、向いてるんだと思う。

2024年6月7日(金)に全国公開です。

すっごい雑に言えば、おっさんとレズビアンが一緒に作った映画です。

すいません。さすがにもうちょい丁寧に言います。
暴力と不条理とドス黒い笑いの映画を30年くらい量産してきたアカデミー賞監督イーサン・コーエンと、自らを『レズビアンでクィア(="普通"に押しつぶされない"変態")』と称してレズビアンバーに通ったりドキュメンタリー作品を手掛けたりしてきたプロデューサーのトリシア・クックが、「自分達の関係は人生と創作のパートナー。それぞれ別々に恋人がいてもいい」という二人のルールで1990年から30年を越える夫婦関係をやってきていて、仲間の死、映画表現が植え付けた偏見とその反省、ポリコレにまつわる世の中の流れ、いろいろな課題に向き合ってきている、その先に、「そろそろ真面目にバカをやれるよ」っていうことで作った、令和の安全性で90年代のバカをやることに挑んだ、そういう映画です。

だから、すごいバカをやってるんだけどちゃんと真面目なんだよね。

たとえば、男性社会の支配から車で逃走する女性二人のロードムービー、っていうことで思い出される『テルマ&ルイーズ』にオマージュを送っていると思われるシーンがある。男二人と女二人の物語を1904年の小説家がどう描いていたか、っていう小説作品『The Golden Bowl(邦訳『黄金の盃』など)』が1990年代の若い女性に読まれ、そして、パタンと閉じる、という描写もある。

まるで、女がふたりで男社会から逃げたら死ぬしかゆるされなかった時代を晴れ晴れ葬送するように。忘れ去るでもない、笑い飛ばすでもない、ただ、「死ぬしかなかった女たちが、引き裂かれざるを得なかった恋が確かにあったよね」という過去に目配せをした上で、本を閉じて、未来を見るように。

映画の中のレズビアンセックスで声出して笑ったのも、すこし泣いたのも、わたしには、『ドライブアウェイ・ドールズ』が初めてだったなと思います。

あるアホすぎるエロシーンのせいで、しばらく、体育の時のあの「ピッ!!」っていう警笛に思い出しニヤニヤしてしまう人になってしまった。

女同士のエロシーンで声出して笑う、

(女同士のエロシーンがある映画は女性限定の場でないと安心して見られないんだよなあ)ってちぢこまっていた上映前の自分を思い出す、

映画の中でおっさんが泣いている、

俺たち男のちんちんをこんなふうに扱うなんてひどいじゃないかと男たちのために泣いている、

女同士のアホすぎるエロシーンで笑える安心を得られなかったレズビアンと、男たちが抱えてきたものを想って泣いてしまったらバカにされるのではないかと恐れてきたおっさんが、同じ映画で、笑い声を、泣き声を、ひびかせる。

そういうことが本当はできたのではないかって、
ヒッピーとフリーセックスの60年代から、
お下劣と不謹慎と世紀末感の90年代から、
2024年まで駆け抜けてくる、これは、タイムトラベルロードムービーです。

そんな『ドライブアウェイ・ドールズ』と、2024年にこうなってるイーサン・コーエン監督が1998年に何を作っていたかという回顧としてのクライムアクション『ビッグ・リボウスキ』、そして、この映画についての解説トークがついた、公開記念イベントが開催されます。

金曜の夜に3500円で4時間、おれら人類の30年を振り返ることができるイベントです。

■上映作品:『ドライブアウェイ・ドールズ』『ビッグ・リボウスキ』
 ※『ビッグ〜』はBlu-ray上映
■日時:2024年6月7日(金)18:10開場 18:30開映〜22:32終映予定
■トーク登壇者:海猫沢めろん(作家)、牧村朝子(文筆家)
■MC:よしひろまさみち(映画ライター)
■劇場:渋谷シネクイント スクリーン1(162席)
 150-0042 渋谷区宇田川町20−11渋谷三葉ビル7階
■料金:3,500円均一(ムビチケ・割引券・招待券使用不可)
■提供:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン

<スケジュール>
18:10 開場
18:30 『ドライブアウェイ・ドールズ』(85分)開映
19:55 『ドライブアウェイ・ドールズ』終映
   トークショー&インターミッション(=休憩)(40分)
20:35 『ビッグ・リボウスキ』(117分)開映〜22:32 終映予定

わたしからは

「ちんちん状のおもちゃを楽しむなんて正しいレズビアンじゃないんじゃないか、みたいな圧をめぐる、70年代から振り返るレズビアンカルチャー史」

「この映画が捧げられた実在人物シンシア・プラスター・キャスターとは何者なのか」

「この映画のラストの演出を読み解くキーワード"DYKE"について」

みたいなお話とかをしたいきもち。

アメリカン・クィア・カルチャーを前に、ジャパニーズ・ヘンタイ・カルチャーに造詣が深いであろう、美少女ゲームやゼロ年代SFを経て『政治的に正しくないとされがちな性」について書き続けておられるようにお見受けする小説家の海猫沢めろん先生とお話しできるので、楽しみです。

映画ライターのよしひろまさみちさんがMCとしていてくださるのでとってもあんしん。

ど下ネタのアホ映画の最後のスタッフロールで、たくさんのプロたちの名前を見るときを、ぜひ味わってほしいです。性的なシーンで人が傷つかないように/人を傷つけないように考えるプロのインティマシー・コーディネーターがいて、チワワちゃんが出演する映画なんだけど動物のプロもついていて、感染症対策のプロもついていて、そして、……この世を去っていったシンシア・プラスター・キャスターに、映画が捧げられている。

人類は、間違いながらも進んできたのだ。

真面目にアホな映画、ぜひ観にきてね。


(サムネイル写真:Alex Gruber / Unsplash)
(映画のワンシーンの写真ではありません。また、おそらく、いぬはチワワではありません)

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