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京都SM官能小説 『縄宵小路』 第19回

第三章「調(しらべ)」其の七


「履歴書に英語が得意と書いてあったね?」

「はい、学生のとき語学留学の経験もあるので、ある程度は・・」

永楽さんが言っていたように英語の話題になったので少しホッとしたのも束の間、高辻が続ける。

「それは素晴らしいことだね、いずれ役に立つ時がくるだろう」

いずれ?・・その言葉にまた話が見えなくなる。

「永楽さんには当分の間、
 離れで優里香さんに英語の翻訳などをしてもらうことにしてある」

ことにしてある?・・ということは、やはり英語の翻訳ではないということなのか・・私の混乱を尻目にさらに続ける。

「周囲の人間には口裏を合わせておくように、これは二人だけの秘密だよ」

二人だけの・・そう聞いて共謀意識のような気持ちが芽生え、反論の芽は摘まれる。

「・・え・・口裏・・秘密・・はい・・承知いたしました・・」

高辻は穏やかな眼差しで私を見つめながら頷いた後、ワイングラスを手にとりゆっくりと口に流し込む。仕事は英語の関係でないことはわかったが、肝心な本題がまだ聞けていない。私は先の読めない緊張で体が強張っていることに気づく。高辻に悟られないように鼻でゆっくり深呼吸をしてから、恐る恐る尋ねてみた。

「あの・・私の仕事と・・いうのは・・」

「気になる?」

「・・それは・・はい・・気になります・・」

高辻は敢えて勿体振り私に緊張を強いているのかもしれない・・。でもなぜ・・。そんなことを考えている矢先に高辻が口を開く。

「ただ指示に従えばいいんだ」

謎かけか禅問答のような会話が続く。先ほどから緊張が波のように押し寄せさらに思考が鈍る。

「金曜日の僕との時間、君はただ僕の指示にしたがうんだ」

暗示のように同じ言葉が繰り返される。

「・・はい・・」

私は無意識にぽつりと答えた。

「難しいことを考える必要はない、できるね?」

「・・はい・・でも・・」

難しくないと言われ反論の余地はなくなったが、ひとつだけ疑問が浮んだ。

「でも?・・どうした?」

高辻は私の不安を受け止めるように確認する。

「・・いえ・・どんなことを指示されるのかと・・」

弱々しい口調だが思ったことを素直に尋ねてしまう。

「では・・今日の残りの仕事をはじめよう」

高辻はそう言いながらテーブルに置いてあった上質な白い紙の手提げを手に取った。


つづく


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