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DisGOONie「chill moratorium」感想

朗読劇「chill moratorium」感想

舞台作品を見に行くときには、できるだけ内容については前情報を入れないようにして見に行くことにしています。
内容や設定について事前に知ってしまっていると、頭の中で補完して理解してしまったりするところがあって、それでは初見のときの素直な感想を殺してしまうようなものだから……というのが理由なのですが、こちらは前情報として頭に入れていた「朗読劇」「二人芝居」「ホームページのトップで簡単に書いてある程度の作品紹介」からは良い意味で予想を裏切られる大変良い作品でした。
ちなみに私は2022年の初演を見ていないため、メディアなどで紹介されているイントロダクションを知らず、途中まで東西冷戦時代も含む話であることを知らずに見ていたくらい何も知らない状態で見に行きましたが、それでも徐々に明かされていく「秘密」に夢中になりながら最後まで見ていました。

朗読劇と言えば、よくあるのが舞台上に椅子などを置いて、そこに演者さんが座って台本を読むようなスタイルかなと思います。
ですがchill moratoriumではあえてそうはせず、クラウンとして登場するお二人は台本を持たずに普通のお芝居のように舞台上を動き回ります。
メインの二人に関しても、台本があるにはあるのですが、いかにも台本といった形はしておらず、まるで舞台の小道具を持っているかのような形で手にしているため、台本を読んでいる感じがあまりなく、まるで普通の舞台作品を見ているかのよう。
組まれているセットもとても凝っていて、あれは毎日毎日大変そうだな……という演出もありで、見ていて満足度が高かったです。

シアターHに関して

ただ、シアターHはとても広くて快適な劇場だったのですが(前評判通り駅を出てすぐ野生生物臭さというか…ありていに言うなら動物の尿臭のようなものが道のほうにまで届いてくるので、そこはちょっと辛い部分はありましたが)私が入らせていただいた回はどちらも客席に人がまばらで……
こんないいお芝居を作っていてもこんなことがあるのか、と終演後に感じてしまいました。
もちろん、そのおかげで客席からの視界が良好で助かった部分もあります。
シアターHは前方部分の座席にも傾斜もきちんとついてはいるのですが、やはり、男性客が前に座ったときに小柄な女性客の視界がどうなるのか?という部分までは考えられているとはいえず、もしも満席の状態であの座席に座っていたら私はほとんど何も見えない状態で音だけ聞いていただろう……と思います。
そして、果たしてそれは西田さんが意図した見え方であったのか?と考えると、そうではないだろうと言わざるを得ず、昨今の「広すぎるS席」の問題でもあるのですが、もう少し観客の側で選ぶことができるようにはならないものか、または運営側で観客がある程度それなりに視界が確保できるように座席を細分化することや「それでもどうしてもどうにもならない場合」のフォローができるようにならないものか……ということについては考えてしまいます。
1万円前後する(場合によっては2万円近くなることもある)チケット代を支払って、何も見えないことがあっても運が悪かったと我慢せよ……というのは、やはり殿様商売が過ぎるとも感じますし、あまりにも配慮が足りない考え方であるとも思います。

公演の感想

前述の通り、この作品は東西冷戦の時代に触れる内容のものです。
私が見たのはどれも演者の方が男女ペアの回だったのですが、男性ペアの回も見た方の感想を見ると全く違った話のように感じられるとのことで……もう少し見ておくべきだったな、と今になって後悔しています。

演者さんが男女ペアの回では、物語はまず進行役のクラウンたちの登場から始まり、その後舞台に上がるメインの演者の方々は「精神科医・ジェルソミーナ」と「詐欺師・ヤコブ」として観客の前に登場します。
ジェルソミーナはヤコブに対して「殺人犯であるポランスキーの心を開くためにあなたの手伝いが必要」と話し、そしてヤコブはポランスキーと対話をすることになり……というのが物語の導入部分。
そこから演者さんたちが次から次へのいろいろな登場人物を演じながら物語が進んでいき、その過程で徐々に「物語の中に隠された謎」が明かされていきます。
初見では本筋を追いかけることだけで精いっぱいで、こまごまとした伏線にまで目が行き届かなかったので、2回・3回と見ていくことで味わいを増していく作品だなと思いました。
強引に説明されるのではなく、事前と、徐々に明かされていく「秘密」の演出が素晴らしく、一度見た後にすぐに次のチケットを求めてしまうほどで……。
また再演の機会があるなら、今度は男性演者の方がペアの回も拝見してみたいなと思いました。

内容に関してあまり語るとネタバレになってしまうこともあり、こまごまと語ることはあえて避けるのですが、演者の方々の演技力をまざまざと見せつけられる舞台でもあり、これが舞台の面白さというものだろうと感じました。でもそれを口に出してしまうと、新しく見る人の興を削ぐことにもなりかねず……。

ですので、ただネタバレをせずに自分の気持ちだけを書くとしたら、別の公演でもこういう「新しい景色」が見られるのだろうか? と、期待を抱くような作品でした。良いものを拝見させていただいたなと思います。

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