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指切りげんまんは、もう二度と出来ない

高校1年の8月、父が入院をした。その年の春の健康診断で、胃潰瘍が見つかり、手術することになったからと聞かされた。父は私が9歳の時に、心筋梗塞で1か月半程度入院し、その後3ヶ月ほど自宅療養をした。今回もそんな感じだろうと、当時の私は考えていた。

その時の9月の敬老の日、姉と一緒に父のお見舞いに行った。自宅から、電車とバスを乗り継機、2時間近くかかる大学病院に入院していたので、ちょくちょくお見舞いに行けなかった。帰り際、父が「次はいつ来る?」と聞いた。その時、私は高校の文化祭の実行員をしていて、準備に追われていた。「今週末が文化祭の本番だから、次の週末かな」と答えると、「じゃ、指切りげんまんだ」と父が小指を出した。父がそんな子供じみたことを言い出したことなど、それまで全くなかったので、面食らったが、しぶしぶ自分の小指を出し、父と約束をした。

そして父はその4日、胃がんで亡くなった。

私は父が胃がんだったことも知らされていなかったし、そんなに病気が悪かったことも全く知らなかった。今思えば、父は自分の死期が近づいていたことを悟っていたのだろうか。もしかしたら、自分の子供の会えるのは、これが最後かもしれないと思っていたのだろうか。今となっては確かめようがない。

それ以後、誰にかに”指切りげんまん”を求められたことがない。この先もたぶんないとは思うが、そんなことにあったら、私は約束が守られないどころか、誰かを失うのではないかと、動揺することだろう。

追記:96nekotaroさんのイラストを使わせていただきました。ありがとうございました。

「人生経験の引き出し」がいっぱいあります。何か悩み解決のヒントになる話が提供できるかもしれません。