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同じクラスのオナクラ嬢 第1話

もう我慢できません、と目の前の男が言う。
「できない? しろって言ってるんだけど」
 私はそう言うと、さっきよりも脚を少しだけ開いて見せた。少し身を屈めば、男からは私の下着が見えるだろう。
「あ、ああ……」
 男は、自分のモノをしごきながら、情けない息を漏らした。私が今夜この男にした命令は2つ。立って自分のモノをしごくこと。私の許可なく射精をしないこと。
「どうしたの?」
 わかりきっていることを、私は訊く。
「私のパンツ、見たい?」
 ふぅー、ふぅーと、男は息を荒くしながら何度も何度も頷く。目はやや血走っていて、これが自分の父親に近い年齢の男が見せている顔かと思うと、哀れみすら覚えた。
「屈まないと見れないね」
 ふん、と鼻を鳴らして、私は人差し指を床に向けた。
「じゃあ、土下座なら許可してあげる」
 私、優しいねと微笑みながら。
「土下座しながら、私のパンツ見上げて、自分のモノ、コいてもいいよ」
 そう私が言い終わる前に、男は土下座の体勢になり、ベッドに座っている私を見上げるようにしながら、はしたない音を響かせる。
「必死過ぎてキモいな、お前」
 私の言葉に、男はびくっと身体を跳ねさせた。何に反応したのか。私の「キモい」という言葉にだ。マゾの中でも、この男は特に扱いやすい。
「イきたいの? なら、お願いしなよ。友里様お願いしますぅ、イかせてくださいって。私の目を見つめながら、口を大きく開けて、懇願しろ」
 男の視線が、私の下着から、私の顔に移る。お願いをしようと大きく開いた口に、私はさっき脱いだばかりのタイツをねじ込んだ。
「やっぱいいや。聞かなくてもわかるから。さっさといけよ、マゾ」
 射精許可の命令。
 どろっとした白濁液が、床に飛び散った。
「きったな。ちゃんと部屋を出る前に掃除しときなよ」
 私は立ち上がると、何事もなかったかのように鞄を持ち、男を一瞥もすることなく部屋を出ていこうとした。このマゾは、こうしたほうが良いと、知っているから。
「あ、あの」
 ほら、やっぱり。私の背中に届いた声に一瞬口角が上がるが、不機嫌そうな顔に戻して、振り返る。白いミニのフレアスカートと、ポニーテールがふわりと揺れた。
「ん? なに?」
「こ、これ。次回の予約料です。受け取ってください」
 おずおずと震えながら5枚の紙幣が差し出される。今日部屋に入ってきた時に受け取ったものと合わせると、15枚だ。
 男って、本当にバカ。
 敏感な部分を触ってもいないのに。
 私の身体を触らせてもいないのに。
 ただ、てきとうに言葉責めをして、ちらっと雑に下着を見せてやっただけなのに。
 それなのに、30分もかからずに、15万円。
 これだから、男は、どうしようもない。
 これだから、私は、やめることができない。
「受け取ってあげてもいいけど、でももうすぐ期末試験だから、時間作るの難しいんだよね。バイトだってあるし」
 じゃあ、と男が改めて財布を取り出し、これで、と1枚追加で差し出してくる。
「なにそれ?」
 財布の中は、まだ余裕そうだったのを、さっき見た。
「交通費だよね?」
 まだまだ、搾り取ることができそうだ。
「ここに来るまでの、交通費。ありがとう。出してくれるんだ。じゃあ、帰りの交通費もお願い。それと、次回予約の確定料……ね」
 男の耳元に唇を寄せて、私は甘い声で囁く。
「さっさと出せよ♥」
 ああ、と男が幸せそうなうめき声を出しながら、しゅっしゅと紙幣を取り出す。
 その様子を見て、私は心の中で「馬鹿じゃん」と思わずにはいられなかった。

「友里ちゃん、箱根教授の金融学、ノート取ってる?」
 大学の講堂で昼食をとっていると、同じ学科の名越鏡花(なごし きょうか)が対面に座りながら、いきなりそう尋ねてきた。それから、「あれ、またうどん食べてる。好きだね」と目を細める。
 鏡花の言う金融学とは、この大学の2年生の必修科目であり、単位を落とすとその時点で留年が決定する科目でもある。
「取ってないし、出てもいないけど」
「だよね。ほとんど見かけないもんね」
 鏡花はゆるくパーマのかかった自分の髪を指でくるくると巻きながら、「どうしよう」と私に見せつけるように溜息をついた。
 箱根教授の金融学は、授業は出なくても良いが試験では9割以上正答しなければ単位を貰うことができない。とはいえ、その試験は授業で板書した内容からすべて出るため、ノートさえとっていればそれを暗記するだけで楽に単位を取ることができる楽な科目だ、というのがこの大学では常識のひとつとなっている。
「鏡花は授業出てるんでしょ? なんで今更」
 ノートを必要としているのだろうか。むしろ、こっちが頼んで写させてもらおうと思っていたくらいなのに。
「ノートをさ、前、机の中に置きっぱなしにしちゃったみたいで。鞄の中も、机の中も、探したけれど見つからないんだよね。もう探す気も失せたし、踊るつもりもなくて。落とし物にも届いてなかったし……」
「それは大変だね」
 うどんを食べ終え、手を合わせる私を、鏡花は冷めた目で見てきた。
「友里ちゃんだって他人事じゃないよ。私のノートないんだよ。どうするの」
「そんなの……」
 どうとだってなる。
 空になった食器を返却口に持っていこうと、席を立ちあがった時、ひとりの男が目に入った。
「あれから借りればいいじゃん」
 私の視線の先に、鏡花も顔を向けて「ああ、沖内くん」と彼の名前を口に出した。
 沖内正(おきない ただし)。大学の入学式で、新入生代表としてスピーチをしていた姿を思い出す。それはつまり、入試で一番の成績だったということであり、実際に特待生として学費全額免除はもちろん、アパートの家賃も大学側が負担している、なんて噂も聞いたことがある。一緒になる授業では教授からよく当てられているのを見るし、それに対して教授も舌を巻くような返答をしている姿もよく見るので、何にしてもとびっきり優秀な人物であることは間違いがない。
 そして何より私にとって重要なことは――沖内正が男性であるということ、その1点だ。
「沖内くん、ちょっといいかな♥」
 私は沖内の対面に座ると、やや前かがみになって、彼の顔を見つめるようにする。
「九条さん? どうかしたの?」
 沖内は読んでいた本を閉じると、視線を私に向けた。目と目が合い、見つめ合う形になる。大抵の男はこれだけで堕ちるけれど、念には念を入れておこう。
「えー私の名前覚えててくれたんだ? 嬉しい♥」
 胸元を寄せるようにすると、リブニット越しに胸の形が強調される。
 まあ、覚えてないわけないよね。こんなに美人で、こんなにスタイルの良い女性を、男子が覚えないわけはないし、忘れるわけはない。
「それで、用事は?」
「うん、それなんだけど、沖内くんって、箱根教授の金融学に毎回出てるよね。私、講義出てないから、ノートとってなくて。友達も少ないから他に借りれるような人もいなくて、沖内くんだけが頼りなんだ。お願い。私を助けると思って、ノート、貸してくれないかな♥」
 ノートを借りるのなんて、誰からだっていい。そこらへんの男にお願いすれば、私にならほいほいと簡単に貸してくれることはわかっている。沖内を選んだのは、ただ単に最初に目に入ったからだ。面倒事は早めに済ませておいたほうが良い。
「出てないのが悪いんだろ。勝手に留年でもしてろよ」
「うん、ありがとー♥ コピーしたらすぐに返すか……」
 首を傾げて、微笑んだところで、表情が固まり、動きが止まる。
「……え?」
「今の内からあんまり調子に乗ってると、そのうち痛い目にあうよ。じゃ、僕はそろそろ授業があるから。せいぜい留年しなければいいね」
「え、あ、う」
 まったく予期していなかった事態に、言葉がうまく出てこない。顔を俯かせて、思考を整理しようと試みる。
 なんだこれは。
 断られた?
 誰が?
 私が?
 何を?
 お願いを?
 男にしたお願いを?
 戸惑い。焦り。困惑。
 それらの感情の後に、大きく襲ってきた感情は、怒りだった。
 
 ――は?

 お前如きが?
 沖内風情が?
 私を?
 九条友里のお願いを断っていいと思ってるわけ……?
 笑みが消える。
 顔を上げたときには、沖内の姿はもうそこにはない。
「ありゃりゃ。断られちゃったね、友里ちゃん。まあそういうことも……」
 鏡花が、私の顔を見て、ぎょっとした表情になる。今、彼女に私の姿はどう映っているのだろう。でも、そんなことは今はどうでもいい。それよりも、だ。
「……とす」
 え、と鏡花が震えた声を出す。
「沖内正。あの男、絶対に堕とす!!!」
 許さない。
 私を虚仮にしていい男なんてこの世にいないし、いたらいけないんだ。
 絶対に後悔させてやる。
 絶対に屈服させてやる。
 覚悟しておけ、沖内正!






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