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「ゴイダ!」:イワン雷帝のオプリチニクの戦いの叫びが意味するもの

2022年9月30日、プーチンがウクライナ東部の4州併合を一方的に宣言すると言う演説をした。その式典でプーチン政権のプロパガンディストでお馴染みのロシアの俳優/脚本家のIvan Okhlobystinが現れ、舞台の上で何度も使った雄叫び「ゴイダー!」
最近、ロシア正教のキリルが特別軍事作戦を聖戦だと言い、戦死すると全ての罪が許されると言って、イスラム原理主義者がよく使うジハードのロジックをキリスト教のロシア正教会が使い始めたと言って話題になったが、この俳優もこのロジックを受け入れ者のひとりらしい。
プーチンが軍隊に向けてよく使う「ウラー!」なら知っていたけれど、ゴイダって何だ?と思ったのでちょっと調べてみた。

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以下、cyrillista 2021年9月23日の歴史コーナーに載った記事の翻訳です。

「ゴイダ!」:イワン雷帝のオプリチニクの戦いの叫びが意味するもの

特に犠牲者の数については、資料によって3-4人から2万人と差があり、16世紀末のモスクワの総人口を600万人とすると、この数字には多くの異論がある。また、プリチニクの「外的側近」についてもほとんど情報がなく、その記述を信じるならば、非常に特殊なものであったことがわかる。

独立したカースト
ロシアの著名な歴史家であるヴァシリー・オシポヴィッチ・クリュチェフスキーは、100年以上前、オプリチニナ(皇帝直轄地)について「この制度は、それに苦しむ人々にとっても、それを研究する人々にとっても、常に奇妙に思われた」と書いている。オプリチニクの特殊部隊はイワン雷帝の親衛隊として、オプリチニナの政策を直接実行した。例えばノヴゴロドでの大虐殺のように、ボヤール王国の貴族と民衆の両方の抗議感情を抑えるための異常な弾圧手段である。

この軍隊は、準軍事的な修道会と類似しており、イワン雷帝が自ら率いるオプリチノゴ・ヘグメン(oprichnogo hegumen)という役割を担っていたことが分かっている。皇帝に忠誠を誓うことで、オプリチニクはゼムストヴォ(身分制議会)と関わりを持たないことを約束した。その服装も修道士に似ていた。黒いカソックにスクフェックのような頭飾りをつけていたが、修道士とは対照的に武器を携行し、進んでそれを行動に移させた。

同時に、その時代の人々は、オプリチニクが西洋の「キリストの兵士」に似ていることに注目し、どう言う訳か、これはむしろパロディー、一種の罰当たり的な遊びであると規定し、後にピョートル大帝がそのパロディー「全てを出し尽くし飲み尽くす聖堂」で独自の方法でこれを繰り返したのである。また、オプリチニクには「ゴイダ!」という独自の雄叫びがあり、私達におなじみの「ウーラ!」に代わって、「ゴイダ!」が使われていた。

意味・由来
この「ゴイダ!」の正確な意味と語源を解明するのは容易でない。ウラジーミル・ダールによる1863年版『生きた大ロシア語解説辞典』にも存在しない。例えば、goitという動詞は、「敬礼する」、「ゴイ!」という敬礼の声を上げるという意味(反抗的な感嘆詞、承認的な挑戦) を持っている。このような挨拶は、ロシアの民話によく出てくる。「ああ、君か、ゴイ、いい男だ。」

ウラジミール・ダールも、シベリアの地方では「goit」という動詞が「もてなす、甘やかす」という意味で使われている例。「ゲストをもてなしましたか?」を挙げている。1935年版のD.N.ウシャコフ教授編『ロシア語解説辞典』では、「ゴイ」という間投詞は、「ゴイタイ、我が祖国、ゴイタイ、ボルドレムーチー!」と、二人称代名詞と共にに、感嘆、挨拶、厳粛な扱いで使われる、詩的な廃語だと定義されている。(A. K. トルストイ)。しかし、ダールの辞書を引くと、同じ語源の別の動詞、「ゴイキャット(goykat)」がある。ウラジミール・ダールの動詞「ゴイク(goik)」は間投詞「ゴー」に由来し、とりわけ彼は「うさぎを狩る犬狩りのゴルカン」と定義している。そして、この最後の定義が興味深い。

特別な記章
イワン雷帝の宮廷にしばらく仕えたリヴォニアの騎士ヨハン・タウベとエラート・クルーゼが「手紙...」に残した記録から、「オプリチニク(選ばれた者)は、騎乗の際、目に見える形で、すなわち馬首に犬の頭、ムチにほうきをつけていることが必要」と言う事がわかる。これは、まず犬のように噛みつき、それから国中の不要なものを一掃することを意味している」。

他の現存する資料にも同様の記述がある。例えば、研究者のA・カッペラー、R・G・スクリンニコフは、その著書『忘れられたイワン雷帝時代のロシア史の資料』の中で、1570年にモスクワの街で王室の大軍を見た当時の別の目撃者が、次のように書き残している証拠を紹介している。「皇太子の馬の首には、銀製の犬の頭が吊り下げられており、蹄が歩道を走るたびにその歯が音を立てる。更に、その日君主に同行したオプリチニェ司令官の1人の胸には、切り落としたばかりのイギリスの大型犬の首が吊るされていた......。」

もし、それが本当なら、オプリチニクの「ゴイダ!」という叫び声と、イヌ狩りの「ゴルカン!(golkan)」が結びつくのは、ごく自然な成り行きだろう。また、テュルク系の言語には「ガイダ(gaida)」あるいは「アイダ!(aida)」という言葉があり、これは攻撃の際に騎手が叫ぶ言葉である。ゴイダ!」という鬨の声も、もしかしたら、そのような意味だったのかもしれない。

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