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回想電車_1

「ご乗車ありがとうございます。」
「こちらうつつ発うたかた行の回想電車です。」

目が覚めたらそんなアナウンスが耳に入った。
あたりを見渡しても自分以外に乗客はいない。

終電に急いで乗り込んで座席についたところまでは覚えている。たぶんそのまま眠ってしまったんだ。だからこれは夢だろう。でも何だか不思議な夢だ。

アナウンスによると、車窓には自分の記憶が広がるらしい。

ひとつ目の停車駅は「保育所前」。

おぼろげな記憶だったから景色も少しぼんやりとしている。できるだけはっきり見ようと目を細めていると車掌さんが声をかけてきた。

「他の方の記憶をプラスするとはっきり見えますよ。そうですねえ…。ご両親のものはいかがでしょう。」

その言葉につられ、両親の記憶を追加した。

おぼろげだった景色は鮮やかに色づき、はっきりと見えるようになった。その保育所に通っている時期のことは覚えていないことが多かったから、目新しいものがたくさん目に映ってきた。

なかなかに面白い。

覚えていたつもりのことでも、少しねじ曲げて記憶している部分もあった。

中には明らかに自分よりも高い視点から見た景色もあった。おそらく両親の記憶だろう。そして「こんなにも両親の記憶に自分はいたのか」と、向けられていた愛情を目の当たりにした。知らなかっただけで自分はちゃんと愛されていたのかもしれない。

もうじき、ふた駅目に着く。
次はどんな景色が待っているんだろうか。

本を買ったり録音の機材購入の資金にしたいと思います!