W杯予選に推しが出た件
我が家のテレビいっぱいに映し出されるルークさんを、配偶者と息子と娘と私は、黙って見ていました。
「ルークだ………」
幼稚園の頃から、試合を見に行くたびにお話ししてくれていた娘が小さい声でいいました。
夕飯時に、テレビでスポーツをつける。バスケットボールを見る。スポーツ観戦を趣味としているのは家族の中で私だけなのですが、チャンネル権は私にあるので、スポーツはよくテレビで流れています。
「相変わらず、ルークはほんとによく走るね」
バスケットボール部は中学校卒業と共に引退した息子が、テレビを見ながら言いました。彼もインサイドの選手でしたが、ひたすら繰り返されるリムランは速い方ではありませんでした。
私の子供たちは私の趣味に連れ出されてたくさんルークさんから優しくしてもらったので、食い入るように画面を見つめていました。
対中国戦、日曜日の試合はスターティング5でした。番号順として、最初に名前があがっているだけで涙腺が緩みそうになりました。
中国は強いです。そんなことは土曜の前からわかっていたし、サイズ差があることも知っていました。土曜の試合の様子から、日曜はもっと厳しい展開になるだろうな、ということも、曲がりなりにも真面目にバスケをやっていた期間のある息子や私は気づいていました。
ルークは厳しく狙われ、ミスマッチの部分を突かれるであろうことは予測されていたし、中国の2ビッグに対しても日本は2ビッグで対抗する姿勢は見せない方向性であろうということも。
BOXスコアです。33点差で、あとスリーポイントが10本入れば接戦になります。ひとり1本ペース。
日曜の試合は果敢にドライブを仕掛けた寺嶋・西田両選手の躍進でフリースローは多く獲得したと思うので、この姿勢が波及することを祈るばかりです。
15得点してEFFも15だったことと、33点差なのに、ルークさんの+/−が−10だったことは、私にとってはとても安堵した数字のひとつです。ルークらしいのだ、彼はやれる仕事、自分の果たせる役割を一生懸命、いつも通りやったのだ、と思いました。
ルークさんは、この二日間で約30分ずつ、合計60分プレーすることができました。ファウルも3と4で我慢できて、最後までコートに立つことができました。土曜は終盤にファストブレイクレイアップを、日曜は終盤にスリーポイントを2本入れることもできました。
走り続けて、守り続け、試合の終盤にも諦めず得点できること、オフェンスに絡めることは、タフなルークさんの素晴らしいところのひとつです。
そういう試合後のルークさんは、手ですら大量に発汗していてとてもしんどそうなのですが、そんな素振りは見せずにしっかりプレーするのがエヴァンスルーク選手です。
苦しい試合でした。そういう試合で、ボックスアウトを続けて、パスを出そうと走るルークさんを目で追っていると、いつ何時もこうやって自分を犠牲にしてチームに尽くすところは変わらないのだな、と思いました。
ルークさんは、たとえば代表に選ぶから帰化申請しませんか?という計画をどこかから持ちかけられたわけではないです。5人制のチームは毎年変わったので、特定のチームの支援があるわけでもないです。
普通に、ごく普通に帰化申請を出し、それが通る順番待ちを経ました。
日本でバスケットボールを続けるために、約5年間ほとんど故郷に帰らず、約3年の月日をかけて、日本の国籍を選択してくれました。一番大変だったのはやはり、日本語の勉強だった、と話してくれたことがあります。近年の帰化申請はかなり滞在期間を守ったり日本語の試験が厳しかったりと、安易にできるものではなくなっているそうです。
多くの方の目に止まったのは、ルークさんの努力が、プレーから伝わったからなんだろうな…と思います。彼は今ではとても流暢に日本語を話すし、丁寧な日本語の文章を書きます。それと同じように、こつこつとバスケットボールのスキルも積み重ねてプレーをしています。昨日より今日のルークの方ががんばっている、そういう選手です。
再び、こういったチャンスが訪れるかは分かりません。気持ちが戻ってきたら戻って来られる方がいるのかもしれませんし、短い期間の中で、どれだけHCの要望に合致していたのかはこちら側からは分かりません。
終盤のスリーポイントの動作で祈りの手になった私に、娘が言いました。
「ママ、入るよ。だっていつもルークは最後まで点取るじゃん」
ほらね、と入ったときに娘が手を叩いて喜んでいました。もう5年生になりましたが、ルークさんが優しくしてくれたことや諦めない気持ちは、彼女には大きな支えになっています。
精一杯やったと思います。味方を信じて最後まで泥臭くプレーできたと思います。
夢の続きがまた見られますように。
レギュラーシーズンに復帰すると思います。多分、所属ではスリーや得点機会を封印し、ディフェンスの穴を全てルークでカバーする酷使のスタイルは指揮官の思想的には変わらないでしょう。
どうか、怪我なく、ケアしてもらえますように。
2021.11.