不思議なできごと(幼き日)

彼女との出会いは7歳のころ
まだ暑い夏の日差しの残る放課後

私の通っていた学童保育というところは
数人の先生がたがいるものの
見守りというほどの目もなく
それぞれの学年が入り混じって遊ぶため
上級生が下級生をいじめる…
恐らく"かまってあげている"テイでの"暴力"が野放しにされていた

当事者なので
誰かに助けを求めたくとも
顔見知りの同級生はおらず
先生たちも忙しいためか
見ぬフリで
現状を訴えて相談に来た親には
"イジメはありません"と豪語していたのを
よく覚えている

その日も上級生にいじめられていた私は
やんちゃな男子から逃げるも捕まってしまい
なすすべなく馬乗りで髪を引っ張られて

「おい ええ加減にせぇよ お前」

突然 馬乗りだった男子が壁ぎわに吹っ飛び
身軽になった私は声の主を見上げる

女の子がふたり立っていて
腕組みをして男子を睨みつけている大柄な子と
その少し後ろに立って見ている髪の長い子

どうやら
彼女たちが見かねて
助けに入ってくれたようだ

「大丈夫?」

髪の長い子が私に言う

ついさっきまで暴行されていたので
今ひとつ状況が飲み込めずに
(どうして、知らないのに助けてくれるんだろう)
なんて思いながら
ただウンウンと頷く

そして大柄な子は腕組みのまま
ジッと男子を睨みつけています

男子はというと
バツが悪かったのか
尻もちをついた状態で愛想笑い

「あんた今何してた?」

腕組みの子が聞くと、男子は答えました

「別に、へへ、何も」
「何も?」

「何もしてないって言うんやな」

腕組みの子はそれだけ言うと
男子の後ろに回り込み
さっき私がされていたように馬乗りました

「うわあ!」

女の子にこう言っては何なのだが
やや大柄な子
それも躊躇なくドッシリと
男子は身動き取れずにもがいている

「何もしとらんって言うたけどな
お前のしてたことはこういうことやろ!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

「私やなくてその子に謝れや!
もう二度としませんって言うたらどいたるわ」

「もうしません!ごめんなさい!」

「謝っとるけど許したるか?」

大柄な子に私はウンウンと頷く
本当は腹立たしかったし悔しかったし
何よりもうやらないなんて言葉を
にわかには信じられなかった
それでも
この瞬間ばかりは
男子が可哀想に思えるほどだった

「じゃあ許してやりな」

髪の長い子が言うと大柄な子はスッとどいて
男子は一目散に外へ逃げだす

「あんた1年生?
あいつ確か2年やろ。上級生のクセに情けない奴」

髪の長い子がフフッと笑って
大柄な子がそれにつられて笑う

私はまだ少し笑う余裕はなくて。

「あの、助けてくれてありがとう…」
「ええんやで」

私は2人について行った
秘密の隠れ場所

髪の長い子はサヤカ、4年生
大柄な子はトモ、3年生
2人はいつも一緒に遊んでいる友達らしかった

私から見れば
学年も体格も違う2人が仲良しなんて
なんだか凄いことのように思えたけど
そこの私が加わって
3人はいつも一緒に遊ぶ仲良しトリオになった

転校するまでの短い間
彼女たちからいろんなことを教わった

サヤカ
「イジメられとうなかったら
ケンカに強くならんとアカン
女の子でもそうやで」

トモ
「いっぱい食べて、強〜う、なるんや。
ケンカのしかたはウチが教えたるさかい」

サヤカ
「ケンカせんで済むんやったらそれでええ。
でも黙ってやられっぱなしはあかん。
動物がそうやけど、イジメする奴はな、
弱そうなの狙いよるねん。
やってもやり返してこんようなのをな。
せやから、引っ掻かれたら、噛みつくんや。
先に手ぇ出した方が悪いんやから、
思いっきりやったれ」

私はこの先の人生
幾度となくイジメに遭うが、
彼女の言葉があったからこそ
耐え抜けた部分がおおいにあった。
私は負けなかった。

大人の世界でさえイジメがある。
未熟な子供ならなおさらだろう。
たまたま意見の合わない人間なんてザラにいる。
嫌われたところで困らない。

それが結論だ。

ただ一つ気になることがあった。
サヤカの存在は、どこか不思議で歪だった。
(次回へ続く)



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