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思いがけない恋人(?)バレ。その時の感情。

恋人への身バレ。
風俗嬢にとって、最も避けたい、
けれどもきっと、意外とよくあるトラブルのひとつ。

わたし自身は、こんなこととは無縁だと思っていた。

なんでかって。
この仕事をしている間は、恋人を作ることをしないから。

わたしには恋人との関係とお店とを両立する器用さが無くて、
お客さんに、自分の心の ”恋愛HP” を全振りしちゃうから。

彼氏がいなければ、そもそも彼氏バレもない、
そんな風に、安直に考えていたけれど。
それに類する事件が、思いがけず突然、起きてしまった。

事の発端

バレの相手は、恋人のようで恋人でない。
ネットで出会い、ここ最近毎日電話する、”疑似恋愛”を楽しんでいた相手「Nくん」。
遠くに住んでいるため、実際に会ったことはないが、互いの身分や本名は知っている間柄。


そんな相手に、お客さんの待つホテルへ入室後、
誤って電話をかけてしまっていた。

お客さんとの入室後の会話を聞かれた時間、
およそ3分半。

その間、どんな話をしていただろうか。
今となっては、ぼんやりとしか思い出せない。

「今日は寒いね、本当に寒いね」
ー「ほんとに寒いですね。雪が降るかもしれないって聞きました」

「こんな綺麗な子が来るとは思わなかったよ」
ー「エへへ、ありがとうございます」

「昼は何してるの?なんでこの仕事に?」
ー「お昼はOLしてます。なんでって、実は…」

やたらとテンションが高いお客さんに、営業用の笑顔と声で返す私。
そんな間抜けな、生々しいやりとりの一部を
彼に聞かれてしまったのだ。

電話がかかっていることに気づいた瞬間、
一瞬、自分の中の時が止まった。

「やばい。やばい…」

変わらずウキウキとしたお客さんの声が、耳からこぼれる。

その時のNくんからのLINE連絡。

「誰としゃべってるの?」
「大丈夫?トラブルとかじゃないよね?」

ー「間違えてかけちゃってた。大丈夫、後で話すね。」


案外頭の中は冷静で、後でなんて言い訳しようか、と考えながら
お客さんとのシャワーの前にものの10秒で返信。

自分、意外と器用だな、なんて思いながら
お客さんの身体を洗っていたことを覚えている。

その日の夜、彼の反応


勤務終了後の夜。

Nくんとのいつもの電話。
ドギマギしながら通話ボタンを押した。

「おつかれ、今日すげー寒かったね。
 ご機嫌はどう?」

本当は、今日の電話の内容にきっとすごく混乱したはずなのに。
彼は、何も触れてこようとしない。

電話をする前から、
カミングアウトせざるをえないだろうと覚悟を決めていた私。
頭の中で何度も反芻した告白のセリフが、喉につかえた。

「今日の電話のこと・・・なんだけど」

言いよどむ私に、彼は

「何も、言わなくていいよ」

とだけつぶやいた。

何も聞かない彼、なぜか涙が溢れる私


「ユリが自分で決めて、いいと思ってるからやってるんでしょ。
 それなら、何も言わなくいい。
 俺は、もう大丈夫だから。」

「ユリが笑っていられるなら、俺は何も言わないから」

「つーか、違う話しようぜ。今日さ、仕事で…」

この言葉に、思わず涙があふれる。

怒るでも、問いただすでもなく、
かと言って、事情を詳しく聞くこともない。
聞かない、という優しさ。

その涙が、
彼に対する罪悪感なのか、
それとも彼の優しさに心が揺さぶられたからなのか、
または、彼の中の自分のイメージを壊してしまったことによる
パニックのようなものなのか。

その時も、振り返っている今でもよくわからない。

ただ、その時は彼の優しさに甘えて
ほとんど事の真相を語ることなく、おやすみを言って電話を切った。


「いつか自分のすべてを認めてくれる人が現れたら…」
そう思っていたはずなのに。

いざその時が来ると、
怖くて、逃げたくて、仕方ないのだ。

そんな矛盾した、自分がもどかしい。

今のわたしの心境。


その後、一日が過ぎ、
彼からの連絡に、返事を打つことができない自分がいる。

きっと、自分のすべてを知られて、
結果見放されるのが怖いのだ。

「価値の低い女だ」
「汚らわしい女だ」

そんな風に、思われたかもしれない。
もう、元のように他愛ない会話はできないだろうな。

そんなことをぐるぐると考えながら、
今日、60代のお客さんとのプレイ中、ふと涙が出そうになった。

「こんなことしていれば、そう思われたって、そりゃ仕方ないよなぁ」

そう思いながら。


Nくんが言った、
「ユリが笑っていられるなら、それで大丈夫」という言葉。

今、わたし、結局笑ってない。
それなら、全然大丈夫じゃないじゃん。


彼からのLINEに、返事を返せる日はいつになるだろうか。






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