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スパソニでDominic Fike(ドミニク・ファイク)を観るはずだったのにという嘆き

こんにちは、BROCKHAMPTONヤクザのナカジです。
スパソニ開催もなくなり、今年のライヴやフェス予定が全て吹っ飛んだ皆様、いかがお過ごしでしょうか。
私は払い戻したチケ代をアーティストグッズやクラウドファンディングに突っ込んでいますが元気です。

先日、友人のわこさんがパーソナリティを務めたラジオフチューズさんの番組にゲストで呼んでいただき(聴いてくれた人ありがとー!)、「スパソニで何観たかった?」というテーマで盛り上がりました。
そこで「今年のスパソニはDominic Fike(ドミニク・ファイク)のためにチケットを買ってた」という旨のことをお話したんですが、ラジオでは時間の制約もあってキッチリ彼の魅力を紹介しきれなかったのが残念で。

というかアルバムのCDやLPが9月18日発売(デジタルは7月31日リリース済みなのでSpotifyとかApple Musicではもう聴けます)だから、スパソニで来日してればそれはもう最高のタイミングだったんですよ〜〜〜(泣)。

BROCKHAMPTONのファンならすでに彼のことをご存知という方も多いと思いますが、せっかくアルバムも出たことですし、スパソニで観たかったぜコンチキショーというコロナへの恨みをパワーに変えてDominic Fikeを紹介したいと思います。

●そもそもDominic Fikeって何者なのよ

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2020年7月31日に初のフル・アルバム「What Could Possibly Go Wrong」(ワット・クッド・ポッシブリー・ゴー・ロング)を配信で先行リリースしたばかりのDominic Fike(ドミニク・ファイク)。
1995年生まれ、アメリカはフロリダ州ネイプルズ出身のシンガー・ソングライター/ラッパーです。
ヴォーカル&ギターはもちろん、ドラムもベースも弾けるマルチプレイヤーでもあります。
ライヴでは歌とギター担当でサポートをつけてることが多いです。

ざっとした来歴は日本のソニー公式にまとまっているのでこちらも参考にどうぞ。


彼の音楽ジャンルを一言で定義するのは、なかなか難しい。
ジャック・ジョンソンやエド・シーランのようなSSW的でもあるし、BROCKHAMPTONに近いラップと呼べる表現をすることもあります。
前行で挙げた名前と異なる点は、Dominicのサウンドはよりベッドルーム・ポップ的であるということ。
初期のOwl Cityがヒップホップにハマってやさぐれたような、パーソナルかつ内向的で、夜11時の自宅が似合う音楽。
打ち込みを使ってる曲でもダンス・ミュージックではなくどこかオーガニックな響きがあるんですよね。

「ラッパー」という一言で紹介されることもあるんですが、彼の音楽キャリアについて調べてみると、初めてギターを持ったのは10歳の時だそう。
YouTubeでレッスン動画を見ながら練習したってあたりが現代っ子〜!って感じしますが、好きなバンドの筆頭に挙げているのは意外にもレッチリ。
右手の甲に彫ってるタトゥーはジョン・フルシアンテのポートレート……ってめっちゃガチ勢やん
他にもティーンの頃はBlink-182やWeezerにハマってたそうなので、パンクやパワーポップからの影響もありそう。

タトゥーの話が出たついでに書いておくと、彼が額の隅に彫っているタトゥー、我々には日本語で「レ乃モ」に見えますよね。
これは正確には「LBE」で、Lame Boy Entertainmentの頭文字。
Dominicが参加していたラップ・グループの名前なんだそうです。

●デビューまでの経緯がいろいろとすごい

Dominicの音楽スタイルを「ラッパー」の一言でくくることはできないと書いたんですが、2016年にリリースした一番最初の自主制作EP「Dishwasher」はかなりヒップホップ/ラップ寄りでした。
現在もSoundCloudで聴けるので、彼のキャリアの変遷に興味がある人はぜひ。
「Workaholics」「ZZZangetsu」とか結構ゴリゴリでビックリしました。
どうでもいいけど「ザンゲツ」って『BLEACH』の黒崎一護のアレかな。
2020年入ってからのインタビューで「ロックダウン中めっちゃアニメ観てた。『鬼滅の刃』と『約束のネバーランド』と『モブサイコ』。アニメ大好き」って言ってたからたぶんそう。


ソニー公式のプロフィールにもある通り、Dominicがミュージシャンとして注目を集めるキッカケになったのが、SoundCloud上でリリースしたデビューEP「Don't Forget About Me, Demos」。
これの1曲目に収録されている「3 Nights」が話題になり、大手レーベル各社から契約オファーが殺到することに
そして2018年8月にはColumbiaとの契約を発表し、10月に改めて「Don't Forget About Me, Demos」を再リリース。

この「3 Nights」はオバマ前大統領の2019年お気に入り音楽プレイリストにも入ってたことでさらに話題になりました。
ていうかオバマさんのプレイリスト毎年センス良すぎてたぶん私の年間ベストなんかよりよっぽど参考になる。マジで。

この「Don't Forget About Me, Demos」、制作していたのは主に2017年のこと。
なんでも警察官に対する暴行罪で2ヶ月間の自宅軟禁処分中に作っていたらしいです。
しかもその後、処分を破ったため短期間ですが拘置所暮らしも経験しています。

彼がColumbiaとの契約で手にしたお金は400万ドルと言われていますが、本人曰くお金が必要だった理由は「母親のために有能な弁護士が必要だった」
ドラッグがらみで問題を起こし2年の収監が決まった母親を刑務所まで送っていったその日が、奇しくも「Don't Forget About Me, Demos」の再リリース日だったとDominicは語っています。
あんまりアーティストの私生活についてゴシッピーな面にフォーカスしたくはないのでこの辺でやめておきますが、彼自身が明かしている生い立ちはなかなかハード。
詳しくは2019年のインタビューで読めます(英語です)。


そんなこんなで2018年からバズり始めたDominicですが、初のフル・アルバムを発表できるまでは約2年と結構時間がかかってるんですよね。
その間に何をしてたかというと、結構他アーティストとのコラボで忙しかったようです。

2019年にはBROCKHAMPTONとのコラボ(詳しくは後ほど)、アルバム未収録シングル「Acai Bowl」、Kenny Beatsとのシングル「Phone Number」を発表して初のツアーも敢行。


ファッションアイコンとしての注目も集め、マーク・ジェイコブスからコラボアイテムが発売されたりもしました。
他にもOmar Apolloの楽曲に参加したり、2020年1月にはHalseyのアルバムにも参加してます。

●予定よりも遅れて届けられた「What Could Possibly Go Wrong」

2020年6月には先行シングルの公開とともに初のアルバム・リリースに向けて動き出す予定でしたが、それは一度延期となります。
理由は、「Black Lives Matter」。
アメリカで5月下旬に起きた警官による黒人男性=ジョージ・フロイド氏の殺害事件で再び大きなムーヴメントとなった人権運動に、非黒人であるDominicも連帯を表明しています。
なぜなら、彼自身も警察の権力の濫用によって家族がバラバラになったと感じている一人だから(彼は母親が自分の目の前で警官に殴打され連行される場面を目撃したことがあるそうです)。
新曲の公開とアルバムのリリースを延期するつもりだと発表した時の詳しいステートメントはここで読めます。


↑のステートメントを発表した直後には、Anderson Paakが発表したBLMに賛同するプロテスト・ソング「Lockdown」に参加。
Dominicがメインで歌うパートはないんですが、他のアーティストたちと一緒にMVに参加し、BLMへの連帯を示しています。


そして6月下旬、改めてアルバムからの先行シングルを公開。
恋人とのスウィートなひとときについて綴った「Chicken Tenders」は、ミニマルなポップ・ソングながら彼の陽なサイドが弾けています。
夏のドライブにぴったりな曲ですよ〜私もドライブ用音楽のプレイリストに入れてます。


そういえばDominicの現在のガールフレンドって映画『ブックスマート』やNetflixドラマ『スペース・フォース』で話題のDiana Silversなんですよね。
めっちゃ絵になるラブリーなカップルー!と思ったらアルバムリリースを記念して二人でスカイダイビングしてました。なんでや。

現在アルバムからシングルとなっているのはこの他に「Politics & Violence」と「Cancel Me」の合計3曲。
特に「Cancel Me」は歌詞にBROCKHAMPTONの名前も出てくるので、BHファンとしてはオッとなります
しかしこの曲で彼は「彼らが俺をキャンセルしてくれたらいいのに、そしたら俺は家族と行けるのに」と歌う。
ここで言うキャンセルとは、キャンセル・カルチャー=有名人の過去の言動から過失を探したり切り取ったりして、文脈を無視して糾弾し謝罪・撤回させることですね。


このビデオに登場する女の子、Apolloniaちゃん(Appleと書かれることも)はDominicの実の妹さんだそうです。結構年が離れてるけど、きっといいお兄ちゃんなんですね。
アメリカだけでなくイギリスやオーストラリアなど、英語圏の国であっという間に人気者になってしまった彼は、自分が槍玉に挙がればむしろ表舞台から姿を消して家族とゆっくり過ごせるのにな〜なんて考えているようです。

「What Could Possibly Go Wrong」って全部で14曲入りなんですけど、アルバムトータルで34分しかないんですよ。
歌またはラップが入って構成されている曲でも長さはみんな2〜3分台(1分ちょいで終わる「10x Stronger」はインタールード的な曲なので例外)。
この短さも、Z世代ならではという気がします。

というのも近年、音楽と出会うツールとしてYouTubeやストリーミング・サービスが台頭し、リスナーが楽曲の良し悪しを判断するまでの時間も短くなってきているため、「曲の頭からいきなりサビ」とか「イントロが数秒で終わる」といった曲の方がウケると言われています。
それは日本でも海外でも同様で、こんな興味深い集計をされている方もいます。

例えばすごくキャッチーなコーラスが印象的な「Why」なんて、2分20秒の曲の中でサビが最初と最後の2回しかない。それでも不思議と物足りなさを感じることはなく、サクッと次の曲にいけてしまう。

近い例だと、100 gecsが2019年にリリースした「1000 gecs」も10曲23分しかありませんでした。「イントロがあってAメロがあってブリッジがあってサビ」みたいな典型的な曲の構成を破りつつ、聴きごたえのあるポップすを成立させているところがこのアルバムの面白いところでもあります。

●マブダチのBROCKHAMPTONが強力にバックアップ


↑の動画は2020年6月、アルバムのリリース前にYouTubeにアップされた短めのインタビュー動画。
「緊張しすぎて震えてる」「このアルバムが失敗したら逃げ出してもう二度とリリースなんかしない、金ならあるし」と、カメラの手前にいる人物に向かって言っています。
巨額のディールを手にした大注目のアーティストという重圧に対してかなりナーバスになっている心情を素直に吐露していますよね。

で、彼が誰を相手にこんなぶっちゃけ話をしているのかというと、マブダチであるBROCKHAMPTONのメンバーたち
映像のクレジットを確認すると、この映像をプロデュースしたのは全員BHのメンバーですね。

directed by kevin abstract
shot by ashlan grey
edited & colored by henock sileshi
styled by nick holiday

2019年4月にBROCKHAMPTONは自分たちのYouTubeチャンネルでDominicを紹介。この時のインタビュアーも声からしてKevinです。

で、同じ月にリリースされたKevinのソロ・アルバム「Arizona Baby」からのシングル「Peach」と「Crumble」にはDominicが客演。さらに8月に開催されたBROCKHAMPTONのアルバム「GINGER」リリース・パーティーではDominicが一番手として出演しました。
この2年くらい、ずっとBHはDominicの良き友人であり先にブレイクした先輩として彼に活躍の場を提供してきた存在です。
BHも今6枚目のアルバムを作っている最中ですが、Dominicの参加があるかどうかも気になるところですね。


●オンラインゲーム「Fortnite」に登場!

コロナ禍で世界的にロックダウンや外出自粛が求められる中、音楽ファンの度肝を抜いた企画といえば2020年4月にTravis Scottがオンラインゲーム『Fortnite(フォートナイト)』の中で行なったスペシャル・イベント。ゲーム空間の中に巨大なTravisのアバターが登場し楽曲をパフォーマンス、それをゲームユーザーもアバターを通して自宅で観るという新しい形でのエンターテインメントが話題になりました。

そしてTravis Scottのイベントを成功させたフォートナイトが新たなにスタートしたのがアーティストのスペシャル・パフォーマンスを楽しめる『Spotlight』シリーズ。その第1回にDominic Fikeが登場し、日本時間では2020年9月13日の朝6時から配信されました(その後2回再放送もあり)。

Travisの時はフォートナイトやってなかったので他の人が撮ったスクショなどを見せてもらってこりゃすげえと思ってたんですけど、今回Dominicは絶対観たかったし今後も好きなアーティストもブッキングされるかもしれないってことで意を決してPS4にダウンロードして作りましたよアカウント……。
もともと人生でゲーム類にほっとんど縁がなく、フォートナイトもゲーム内で何をすればいいのか全くわかってないし初期アバター&レベル1の超初心者無課金ユーザーですが、無事にパフォーマンスは観ることができました! 友達に「フォートナイト小学生の間でも流行ってるよ」って言われて「エッ最近の小学生ってこんな難しいゲームやってんの?」と思ったのは内緒だぞ!

パフォーマンスの内容は、LAで収録したスタジオライヴ。今回はミュージシャンはアバター化されてなくて、実写です。ライヴ映像はゲーム空間内のイベント会場にある巨大スクリーンに流されるので、観客はそれを観に行くという感じです。
パフォーマンスはサポートのベーシストとドラマーを加えた3人編成で、演奏もちゃんとしてました。Travisのバーチャルライヴが10分程度だったのに比べると、パフォーマンス時間は約50分くらい? かなり長くて曲数もしっかりあって、なんと全20曲もやってくれました。
セットリストは↓のリンクにあるLINE MUSICのプレイリストでチェックできます!

他のプレイヤーがスクリーン前を飛び回ってるの邪魔だなーとか、私が突っ立って静かに観てるのをいいことに背後から撃ってくるんじゃないよとか、同じバーチャル空間に他人もいるからこそ感じる煩わしさもあるんですが、もともと現実のライヴ会場もそんなもんだし、2020年結局ライヴ1本も行けてない私は、なんかそれすら懐かしくなっちゃいましたね。前後左右の人と丁度いい距離感のところにポジったと思ったら後から来た人が絶妙に視界遮るところで立ち止まる、あの感じ!

あとフォートナイトの中ならではのおもしろさとしては、Dominicがステージを管理するAI?みたいなのと茶番劇をしてたところ。Dominicはコンサートを終えるまでその空間から出してもらえないという設定になっていて、数曲やったあと「なあもういいだろ?」「ダメです。まだ●%しか終わってません」「トイレ行ってきていい?」「コンサートが完了するまでトイレは禁止されています」「はい、これでもう終わり!」「まだあの曲をやっていませんよ、あれをやらないと終われませんよDominic(→からの3 Nights)」といった演出が何回か入ってました。

また、3人が演奏しているスタジオの床と壁もスクリーンになっていて、曲によって演奏している空間がコロコロ変わるし、さらにゲーム内のスクリーンもエフェクトがかかっていて視覚的にもおもしろかったです。何の曲か忘れちゃったけど、観覧しているプレイヤーが曲に合わせて自動的にジャンプさせられる演出もありました。こういうのはフォートナイトライヴならではだと思います。

「Chicken Tenders」が音源よりもかなりメロウなアレンジになってたり、「Vampire」のギター・ソロが想像以上に尖ってたり、アルバムを聴いただけではわからない、ライヴ・パフォーマンスならではのDominic Fikeの魅力は、バーチャル空間を通しててもしっかり伝わってきて。やっぱりライヴを観るとこの人「ラッパー」という肩書き一つでは到底語れないアーティストだってことがよくわかります。ギタリストとしての見所もあるし、シンガーとしての訴求力もすごくあるし。

それだけに、今年スパソニで観られなかった悔しさが……より一層……ぐぬぬぬぬ。なんとか2021年、洋楽アーティストの招聘再開できるようになったら何卒!何卒お願いしますクリエイティブマン様!!!
とりあえずは新作「What Could Possibly Go Wrong」を聴きながら、その時を待ちましょう。繰り返しになりますがSpotifyやApple Musicではすでにデジタル先行配信中、LPやCDといったフィジカルの輸入盤リリースは9月18日(金)予定です。日本でもタワレコやHMVなど輸入盤を扱っているお店で買えます。

※本記事はソニー・ミュージックジャパン インターナショナルさんとの共同企画です。使用しているアーティスト写真はソニー・ミュージックジャパン インターナショナルさんからご提供いただいています。

ただいま中嶋友理の記事は無料公開しています。楽しんでいただけましたらご支援をいただけると嬉しいです。ご支援をいただくと、私が回転寿司で躊躇なくイクラが食えます。