浮気、しません

「浮気、しますか」
「浮気、しません」


夕べのたい焼きはあんこに限る、クリームは浮気、というコウイチさんとの対話の決着がやっとついたのは、今朝6時22分のことだった。

まりかは、たい焼きは絶対にあんこと決めている。
お見合いサイトで出会ったコウイチさんと食事の帰り、たい焼きを一緒にほおばったときに、そう宣言した。
コウイチさんも、あんこが好きだと言った。
でも、たまにお店にクリームたい焼きの看板があると、つい手を出して、食べた瞬間、ああ違ったと思う、と言っていた。

「まりかさん、次はK市でたい焼きということですが、“次“はいつか、決めませんか?」

夜、コウイチさんから電話をもらった。
低めの落ち着いた声と、品のよい話し方と、育ちのよさそうなことば遣い。
うん、まりかのお好みど真ん中だ。

「通販で頼んでいる伯母の洋服が届いたら、次の日曜か水曜の午後、仕事を休んで届けようと思っています。
ご都合、いかがですか」
「水曜、休みです。水曜にしましょう」
「うれしい」
「うれしい」

コウイチさんは、あんこのたい焼きを片手に持っていても、クリームのたい焼きにも手を伸ばしてしまうことはあるのだろうか。
クリームに浮気すること、あるのだろうか。

「私、たい焼きはあんこと決めています。
浮気、しませんか」
「浮気、しません。おたがいにね」

まりかよ、勘違いしてはいけない。
これは、たい焼きの話で、まだおつき合いしているわけでも何でもないのだ。
ほんの50時間前にはじめましてをして、たった2日、LINEを交わしただけの殿方なのだ。

「夕べの返信遅れてすみません。
夕べはスマホを握りしめたまま、久しぶりに、9時間も眠れました。
このところ、心が荒んでいたけど、まりかさんがきちんと向き合って話してくれたから、心が温かくなりました。
ありがとう」


何と心憎いことを言うのだろう。
でもまりかよ、勘違いしてはいけない。
彼の気持ちと自分の気持ち、しっかり見極めなくてはいけない。
痛かったり、辛かったりする恋はしないと決めたのだから。

さくらまりか51歳、今日も恋に恋する中二病である。

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