人生は望むものすべては与えてくれないけれども

「残業して疲れていて、順調に電車を乗りすごしてしまいました」
「私もよくやります。で、必ず、車内アナウンスが間違っているって思うんです(笑)」
「まりかさん、天然ですか?」
「そうみたい。お嫌いですか」
「いいと思いますよ。飲みながら天然エピソード聞かせてください(笑)」

マッチ当日のあいさつだけで終わってしまうかな、と思っていた39歳の院卒のリョウタさん、やりとり3日目に突入。
初日から飲みながら話がしたい、と言われていたが、昨日は2日目にして具体的にどこで飲もうか、というお話に突入。
リョウタさんが転勤した手で土地勘がないというので、私が彼の住むまちにゆくことになった。
通った大学の沿線だし、インドカレーが有名なそのまちに行ってみたかったから、いい機会である。

それにしても、ほぼひと回り下の彼は、いったい私の何がよくてアプローチしてくれたのだろう。
彼のプロフィールにはたしかに、「どちらかというと、年上が好きです」の一文があるけれども、いったい彼は歳上に何を求めているのだろう。
さくらまりか、更年期と老眼に悩み、どんどん増える体重とお肌の老化におびえながら暮らしている50歳だよ?
プロフィール写真こそ、例の奇跡の1枚を使っているけれども、ほぼすっぴんの最近撮った写真もサブ写真に載せているから、50のオバさん度はある程度、わかるだろうに。

半年間、マッチングアプリにいながら、歳下というほど離れた殿方とは一度も会ったことがない。
唯一、まりかが会ったときに本名を名乗らなかったと言ってLINEでブチ切れた、ハイスペックなタワマンさんが、ひとつ下だった。

もともと、歳上が好きなのだと思う。
8年暮らしたふたり目の夫は9つ上だった。
たぶん、父親との関係をこじらせているから、無償の愛情を注いで受け止めてくれる父性にあこがれているのだと、最近思うようになった。

別に、生まれた年や生きてきた年月は、自分より長くたって短くたっていい。
年齢を意識させず、でも、まりかと一緒にいるときに余裕がある人が好きだ。
これは、学年1ケタをほぼおっこちたことがない元優等生で、男子たちから少し距離を置かれていた過去が影響されているのだと、最近気づいた。
殿方には、実は甘ったれでさみしがりなまりかを包み込んでほしい。
かつ、まりかも愛情を注げる人がいい。
それだけだ。

ひと回り以上若い殿方なターゲットなミドリちゃんに、なぜそんなに若い子にこだわるの? やっぱりソノときに元気だから? と聞いたことがある。
ミドリちゃんは、大人の女性な表情を見せて、言った。

「ほら、年齢を重ねると人間、考え方が凝り固まっちゃうじゃない。
もちろん、ソノときもあるけど、それだけじゃないの。
私たちの世代にはない、柔軟な感性がいいの」

と。
なるほど、と思った。
社会で経験を重ね、会社でも管理職と呼ばれる立場になって、部下を持つようになると、人間の見方が変わってしまうのも事実だ。
目の前に見えることだけではなく、つい本当は何を考えているのだろうと思いをめぐらせてみたり、全体に置かれた相手の立ち位置を想像してみたり。
私自身もそうだし、50代の男性と会う中でも同じように感じる。
若いころのように、見たまま、感じたままを受け入れる力が衰えているように思うのだ。

リョウタさんは39歳、婚歴なし。
わが身を振り返ると、40歳前後はなりふり構わず働いていた気がする。
自分と会社、自分と社会から、周りの雑音も取り込んで、折り合いをつけながらならなくなった時期だ。
初めて部下を持ったのもこの時期だったし、新規事業に追われて躁うつ病を発症したのもこの時期だ。
自分と仕事、自分と会社だけではなく、部下や上司、関係先などが複雑に絡まっているのが、まるで目の前にマーカーペンで描かれたようにくっきりと迫ってきて、自分の仕事と合わせて人間関係の交通整理を迫られる。
家庭でもそうだ。
思春期に入った子どもとの関係も、学校との関係だって、ずっと深く混乱したものになったように思う。

もちろん、若いころだってひとりで仕事をしているわけではないことはわかっていたし、40歳の私よりよほどわきまえている25歳だってゴマンといることだろう。
でも、広い社会の中での立ち回りをより意識するのは、30代後半以降ではないだろうか。

彼はどんな仕事をしているのだろう。
何を思い、どう人とつながりながら、会社の中を、ステークホルダーの間を、泳いでいるのだろう。
その中でなぜ、よりくたびれたひと回り上の女性に、興味を持ったのだろう。
マッチングアプリ、若くてきれいで気が利いた妙齢の女性だって、たくさんいるだろうに。

でも、さくらまりか、そんな不安は微塵も見せない。
大人の余裕で、彼とやりとりするのだ。
きっと若いころにはない、人生は望むものすべては与えてくれないけれども、与えられたものに満足するすべは学ぶことができる、と気がついた余裕を持って。

午後11時23分。
リョウタさんからの返信は、まだない。


*2023年7月21日の活動状況
・もらった足あと:4人
・もらったいいね:1人
・やりとりしたひと:3人
いま、やりとり欄には、39歳から59歳まで4人の殿方が並んでいる。
こんな不思議なことが起こるのも、マッチングアプリならではである。
半年間、たくさん楽しませてもらったな。

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