おばちゃんにアカスリをしてもらいながらひと月を振り返る

「イタかったら言ってくださいね」

思えば、ひと月前のいまごろも、同じ温泉施設に来て、同じようにアカスリをしてもらっていた。
あれは、お尻が好きなえくぼ社長の恋人採用面接の日だった。

なかばやけっぱちで会ったえくぼさんから、精神疾患NGと言われ、くさくさした気分で来たのであった。
アカスリは、心のアカもこそげてくれることを知った日だった。

そのあと、ホテルホテルと騒いだ還暦ちょいワルをブロックし、

あっさり晩な人とあっさり飲みに行ったきり返事が来なくなり、

いつまでもはっきりしないDJさんを切り、

ギターさんとのやりとりが始まり、現在に至る。

ギターさんに私がメッセージを送ってやりとりが始まったのが、3月1日。
嘘みたいな偶然が重なり、2度お顔を合わせ、ゆるやかにやりとりが続いている。
質問攻めにしたかと思えば、そっけない返事が来たり、でも、このまま彼のことをもっと知ることができたら、と思っている。
不思議なことに、ギターさんとのやりとりが始まってからというもの、マッチングアプリがとっても静かだ。
まるで、私の役割はほぼ終わりましたよ、と、アプリさんに言われたように。
そう、私はギターさんに恋をしてしまったようだ。


そんなことをつらつら思いながら、おばちゃんの痛気持ちいいアカスリに身を委ねていた。
アカスリ用のナイロンミトンがザリザリ、ザリザリ、と言いながら、私の力強く肌の上を滑ってゆく。
仰向けから始まって、うつ伏せにされ、ザリザリ、ザリザリ。
途中、ミトンについたアカを落とす、シャシャッという音が小気味よい。
ああ、おばちゃんたちはどこでどうやって、このすばらしい技術を身につけたんだろう、とこすってもらうたびに思う。
これは文化であり、技術だ。

うつ伏せになると、右足の指から始まり、膝を立てたり開いたりしながら、指の股まで器用になぞられてゆく。
男の人に足の指をしゃぶられるような快感はないけれども、ふだん閉じられている場所をこじ開けられるのは、心地よい。
そのままおばちゃんのミトンは太ももに。
意外と洗いづらい内ももも、ゴシゴシと剥がされてゆく。

「イタクない?」

とおばちゃんはときどき聞くけれども、痛いなんて言うものか。
この気持ちよさを手放したくない。
ミトンはいよいよ、敏感な部分に差しかかる。
お股のギリギリの線も、ザリザリ、ザリザリ。
お尻の割れ目も、スレスレのところまで、ザリザリ、ザリザリ。
何たって真っ裸で台の上に寝かされているのだから、羞恥心もへったくりもあったものではない。
おばちゃん、いいようにしてちょうだい。
すみずみまできれいにしてちょうだい。
どこも、ソノときにはとても大切なところだから。

若くもないし、美しくもない私が勝負できる唯一のパーツが、お肌だ。
美人で鳴らした母方の祖母が、
「まりかは色の白いは七難隠すというけど、あなたは七難じゃ足りないわね」
と、誉められたのかけなされたのかわからないことをよく言っていたのを、思い出した。
祖母はたしかに造作は美しかったけれども、肌のきめ細かさや白さは、私の方が上だ。
せめて、私を抱くことになる殿方には、手入れのゆき届いた、なめらかな肌を捧げたい。
女でいることは、お金も手間ひまもかかるのだ。

まもなく終わりと思われるころ、おばちゃんがしみじみ言った。

「お姉さん、30分じゃ足りないね。
次は10分延長ね。50分いらない、40分大丈夫ね。
キレイこするけど、取りきれないねえ。
運動、嫌いでしょ? 私もね。
クルマばっかり。ますます太る。
お姉さん、次はマッサージもね。歳とってから、後悔するねえ」

驚いた。
台の上に寝転んでから30分弱、ほとんどしゃべらなかったおばちゃんが、饒舌にまくし立てたのである。
そうか、私の体表面積が大きいから、30分の標準コースでは足りないのだな。
よし、次は延長だ。
来週末、再来週末と、ギターさんとの約束は続く。
ボタンダウンのシャツからのぞく首元も、腕まくりしたときに見えるひじから下も、抜かりなく手入れをしよう。
ソノときは、まだまだ来そうにないけれども。

「お姉さん、終わりね。次は10分延長ね」
「ありがとうございます。心まで軽くなったわ」

私の心からの謝辞に、おばちゃんはあははと笑った。

「アカスリで1キロ減ったねえ」

カラダは1キロ減らないが、ココロはずっと軽やかになった。
ひと皮むける、とはこのことだ。
ひと月分のモヤモヤ、おばちゃん、アカと一緒にシャワーで流しておいて。
また来月、私はこのアカスリ室で、どんなひと月を振り返るのだろうか。
お風呂上がり、ソフトクリームを食べながら、ギターさんにおやすみのLINEを送った。


*2023年3月21日の活動状況
・もらった足あと:0人
・もらったいいね:1人
・やりとりした人:1人
何と、初めて足あとがつかなかった。
ギターさんとの時間が、確実に重なっている。

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