見出し画像

動かないボーナス【毎週ショートショートnote】

 ゆらゆらと二つのコブを頬にぶら下げた青年が、バケツいっぱいの湧き水を両手に、村まで何往復もしていた。
「一万飛んで十一回目と」
 鬼が用紙に運んだ水の回数を記入した。
「……あと何回、いや何十回、運べば終わりなんだ」
 息も絶え絶えの青年は、頬のコブを邪魔そうに触った。
「なあに、あと百回程だよ」
「……俺が一体何をしたっていうんだ。ちょっと踊りが下手だっただけで」
「神々を利用しようとしただろう」
「でも舌切りの婆さんや、シロ殺しの爺さんと違って俺は誰も殺してないのに」
「だから、せめての温情で若返らせたんじゃないか」
「く、くそお」 
 鬼は流石に気の毒になった。
「じゃあ、ボーナスをやろう。大小二つのツヅラのどちらかを持って往復出来たら生まれ変わらせてやろう」
 青年は考えを巡らし、小さいツヅラを抱えて持ち上げようとした。
「重すぎて持ち上がらないぞ」
「その中に君の新しい命が入っているのさ」

おわり
  
☆毎週ショートショートnoteに参加している作品です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?