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鍋に入るカニ

 友人から分けて貰った青と白のツートンカラーのカニを利尻昆布と一緒に茹でる。カニがうふうふと鍋の中で不敵に笑っているように見えた。
「赤くならないな?」
 茹で時間を聞くのを忘れていた事を後悔している間に、どんどんアクが増えていく。
「わ、やば」
 慌ててカニを皿にあげる。茹で上がったカニは、茹でる前と何ら変わらずの姿で利尻昆布で遊んでいた。
 アクを丁寧に掬い取ると、鍋に青く透き通ったカニの出し汁が残った。その出し汁が遠い記憶の海に見えた。懐かしい潮の匂い。
ーー呼ばれている。その一瞬の気の迷いが自分を突き動かした。青い出し汁ーーいや、青い海に頭からダイブした。
 数分後、青と白のツートンカラーのカニがぷかりと浮かび上がって、ぷくぷくと泡を吹いた。
 皿の上のカニが愉快そうに昆布を千切って投げた。


⭐︎この作品は完全なフィクションです。

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