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穴の中のドライバー【ショートショートnote杯】

 修復師に連れられて入った「心に空いた穴」を見て呆然となった。穴は大きく、壊れた未来や願望があちこちに落ちていた。修復師は大きな瓦礫を手に私の側へ戻って来た。
「見覚えありませんか?」
 バラバラになったパーツを接着剤でくっつけると巨大な写真パネルになった。白と黒の車体に赤いランプ。その前で満面の笑みを浮かべるのは小学生の私だ。
「人を守る仕事がしたい。これはあなたの道標なのでは?」
 修復師はいとも容易く、穴の淵にドライバーで固定した。
 少し心が温かくなった気がした。
「応急処置ですが、あなたが自信を取り戻すきっかけになればと」
 修復師は落ちていたカケラを手際良く合わせてどんどん穴を塞いでいく。
「なりたいものになれるかな?」
「なりたいと願えばきっと」
 腕章を付けた私は横断歩道脇に立って、朝と夕、子供たちに旗を振る。巡回中の交番所員が、私を見て頭を下げた。

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