ひとりの少年を悼む、救いのラブストーリー /「シシリアン・ゴースト・ストーリー」
1993年、シチリア島のパレルモで実際に起こった誘拐事件をもとに製作された「シシリアン・ゴースト・ストーリー」。
当時パレルモに住んでいた2人の監督がメガホンを取り、誘拐された少年・ジュゼッペへの追悼の意が込められた作品となっています。
この痛ましい事件は、監督2人の心に深く残り続けていて、当事者ではなくとも悲しみと無力感は何年経っても拭われなかったそうです。
いなくなってしまったジュゼッペをいま救うことはできませんが、せめて物語の中で彼を救いたいという作り手の思いが作品を通して伝わってきます。
監禁されたジュゼッペと、彼を探し続けるルナ。
「もう一度会いたい」というふたりの強い願いと、ふたりが共有している記憶から紡がれる精神的な世界が、現実と同じ次元で描かれ、物語は進んでいきます。
少年少女の無垢な想いはとても初々しく、微笑ましいのですが、それが残酷にも過酷な現実を際立たせているように感じました。
偽りなく事実を描いた、
少年のためのレクイエム
シチリアの大自然と、そこに生きる動物たちを切り取っているのも、本作の魅力です。
佇む木々。
ふたりを襲う凶暴な黒犬。
ひらひらと舞う蝶。
馬の優しい瞳と、シルクのような毛並み。
この世界でどれだけ残酷なことが起きていようとも、自然と動物たちは目の前に広がる世界を生きているのだと感じます。
圧倒的な強さを持つ自然は、彼らが現実で直面している驚異の象徴のように思えます。
そして、この物語で度々象徴として登場するのが、「水」です。
水は「生命の源」の象徴とも言われますが、この作品では「あの世へつながる入り口」としての役割を果たしています。
一番頭から離れないのは、白い物体が湖に捨てられ、それが水中を漂うロングカット。
それが何なのかわからずに観ていたので、長く映される理由がはじめはわかりませんでしたが、あとから、それは少年の遺体の一部だったのだと知りました。
「そこまで描くのか」と言葉を失いましたが、振り返ってみると、どんな苦しみを経て命を失ったのかを綿密に描くことが、まさにジュゼッペの魂の救済に繋がっているのだと思いました。
実際にあった事件だと知ると、いたたまれない気持ちになりますが、彼が海を好いていたことが唯一の救いだったと思います。
ルナの見つめる先でジュゼッペが海と戯れるラストシーンをみて、彼が好きだった場所に帰ることができたのだと、少し気持ちが軽くなりました。
悲しくも命を落としてしまった少年の存在を忘れず、「物語」として昇華する。ここまで製作する意義があり、誠意にあふれた作品は中々ないと思います。
この世を去ったひとりの少年を追悼する、救いのラブストーリー。最愛の人との別れを経験した全ての人に、届いてほしい作品です。
上映予定の映画館
新宿シネマカリテ、センチュリーシネマ、テアトル梅田、別府ブルーバード劇場…他15カ所での上映が予定されています!
→http://sicilian-movie.com/theater.html
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