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(444書)「渚ちゃん」

 渚ちゃんは、ワインをかっくらう。帰宅したらささっと化粧を落として、フレッシュローソンで買った良い感じのチーズを齧りながら、ワインをのむ。グラスではなくて、麦茶をのむ為にあるようなガラスのコップでのむ。
 渚ちゃんは泣かない。渚ちゃんは高円寺に住んでいる。そしてギターがじゃかじゃか弾ける。マンションの隣人は怖くない。マンションの隣人も、ベースの練習をするひとだからだ。反対側の隣の部屋にはシェパードを飼っているひとがいて、渚ちゃんはときどき出会い頭にシェパードを撫でる。
 渚ちゃんはときどき泣く。
 渚ちゃんはひとに叱られることに怯えない。
 だからびくびくしなくていい。

 渚ちゃんは海の無い街に生まれたから、渚というものを知らない。海水浴場には行ったことがあるけれど、それが「なぎさ」だとは思わなかった。

 あたしは、あれを渚だとは、思わなかった。
 渚ちゃんは、そんなんじゃない。
 
 あたしはときどき渚ちゃんになる。びくびくしたくない夜、渚ちゃんになってワインをのむ。大丈夫な、渚ちゃん。


(444書・テーマ「海」)

#あまぶん 『尼崎文学だらけ』にて、444文字で創作を掲載しています。

444書 7月3日〜7月16日までの創作のお題は「海」です。


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