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矢野顕子にいちばん厳しいファンは矢野さんでした。

矢野顕子さんが初のピアノ弾き語りアルバム『Super folk Song』 を完成させるまでのレコーディングの様子を撮った映画、『SUPER FOLK SONG』デジタルリマスター版(旧版の公開は1992年。)を観た。

80分弱の、レコーディングの風景の合間に関係者のインタビュー(鈴木慶一、谷川俊太郎、宮沢和史、糸井重里、徳間の偉い人などなど)が挟まるだけのシンプルな映像。

矢野さんはとにかく一発撮録りにこだわっていて、エンジニアの人が何度「(各テイクのいいところを)つなぎましょう」と提案しても頑として譲らず、「あーだめ!」、「Oh my goodness!」 などとつぶやきながら、何度も何度も録り直しをする。素人目には正直、何がダメなのかわからない。スタジオの雰囲気も悪くなってくる。それでも、何度も何度も何度も何度も。

途中、外国人のマネージャーさん(?)とこんなやり取りがある。

マネ「不調って言ってたけどそんなことないよ」
矢野さん「そうかしら」
マネ「やっぱり君は特別なんだよ。他とは違うんだ」
矢野さん「ふふ。ありがとう」
マネ「人にどう聞こえるかなんて気にしなくていいんだ。アーティストは批評家にならなくていいんだよ」
矢野さん「うーん。私は両方できると思ってるのよね」

誰より厳しく矢野顕子を見張り、誰より厳しく矢野顕子の曲を聴いているのが矢野さんで、だからこそこの人は、この超ストイックなレコーディングから25年経ったいまでも、笑ってしまうぐらいの名曲を作り、何度でも観たくなるライブができるのだとわかる映画だった。

現状DVD等になっていないため、来週金曜日までの限定上映を逃すともう一生観られないかもしれない。このレコーディングを経てつくられた『SUPER FOLK SONG』(作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子)という曲が特にすごいので、それ聴いてピンと来た人とか、なにかものをつくる仕事をしている人にすごくおすすめ。

余談だけど、やっといいテイクが撮れて矢野さんがピアノからご機嫌で立ち上がり「咳した人はいないわよねえ?」と冗談めかして言った瞬間のスタジオ内の緊張感がすごかったです。