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【宿題あり、赤ペンあり、代弁あり】周到で絶妙な、PRパーソンの取材「受け」術

つい先日ひさびさに取材を「受ける」ことがあった。ノンアルコールバー「Bar Straw」をおもしろがってくれたとあるメディアの記者さんが、営業日に合わせて話しを聞きに来てくれたのだ。

記者さんは自らの事情や主張を押しつけることなく誠実に質問し、適切な事例を提示して似たものとの差異を明らかにしようとしてくれた。結果ぼくらの言語化も進み発見もあった。お手本にしたいすごく心地のよい取材で、今から記事が楽しみでならない。

さてこの取材、ぼくにとって新鮮なことがひとつあった。弊社のPR担当である株式会社マドベ片山悠が付き添ってくれたのだ。

PRが課した「模擬テスト」

PRパーソン付きの取材自体はじめてで、正直何をしてくれるのかわからなかった。何か言っちゃいけないことをぼくが口走ったときに「ここはオフレコで」と言ってくれたりするのかな、芸能人のマネージャーみたいでかっこいいやつだ〜!なんて思っていたが、ぜんぜん違った。

まず彼は、箇条書きの想定質問をぼくに送り、それぞれ「どう回答するか」を一度テキスト化するよう指示した。ちょっと面倒だなと思いつつまじめに回答例をつくっていると、すらすらと答えられない、答えに詰まる箇所があることに気づく……。さんざん議論し、考え抜いてきた自社の取り組みにもかかわらず、ことばにし尽くせていない「言語化の穴」がまだあったことに冷や汗が出た。

これは、本番に近い条件で一度「その気」になってやってみたから得られた成果。そう、これは弱点を明らかにするための模擬テストだった!

彼の準備はこれだけでは終わらない。

PRは「まるめる」

続いて、ぼくの回答にみっちり指摘が入る。

片山さんの視点は、読者や社会だ。誤解を受ける言い回しをしていないか。誰かを傷つけてしまう言葉選びをしていないか。それぞれの立場に成り代わって、多角的にチェックする。骨子は変わらずも、回答がよりやさしく、まろやかに、そして記者さんに対して親切に仕上がっていく。

また、ぼくが「それはわかりません」とだけ回答しようとしていた関心外の物事についても、ぼくの興味関心の範囲と接続して模範解答を作成。

準備万端整え「想定回答作りましたけど、一字一句覚える必要はありません。ぼくも立ち会ってサポートしますから」とやさしくほほえんでくれた。

PRは9メートル地点でほほえむ

彼はなぜ、暗記の必要がないと言ったのか。それは「サポート」がする自信があったからに他ならない。

まず事例面。ぼくが「去年ぐらいからけっこう増えていて〜」と適当なことを言えば「○○年から○○%増えています」と数字を出し、ぼくが「ヨーロッパでも〜」とあいまいな事例を口走れば「イギリスでは」と具体例を示してくれる。おかげで、細かいことを気にせず自分の思いを伝えることに集中することができた。

回答の主旨そのものへのサポートもすばらしいものだった。これは具体例がだしづらいので野球でたとえてみよう。

記者さんがキャッチャーでぼくがピッチャーだとする。ぼくは質問という名のサインを確認し、キャッチャーのミットめがけて回答という名のボールを投げる。距離にして18.44メートル。近くて遠い間合い。ズバッとストレートが注文通りの場所におさまることもあれば、見当違いのところにカーブを投げてしまうこともある。

片山さんはこの18.44の途中、ちょうど9メートルぐらい(少しこっちより)のところにいてくれる。ぼくがビシバシと投げ込んだボールは笑顔で見送るいっぽう、コントロールが乱れたのを察知したらキャッチャーに届く前にボールをカット。自ら軌道修正し、バシッとストライクを投げ込んでくれるのだ。

野球をやったことのある人ならわかると思うが、キャッチャーの注文に応えようとコントロールばかり気にすると、腕の振りがにぶくなって速い球を投げることができない。しかし、あいだにこういう人がいるなら話は別。多少それたってかまわないと、思い切り腕を振ることができる。

すぐれたPRパーソンが立ちあう取材はこんなに有意義なものになるのかと感心した30分だった。

マドベの片山、その絶妙なポジショニングについて

「そんなのPRパーソンなら誰でもやってるよ」。そんな声もあるのかもしれないので最後にひとつ。彼の特殊性について。

片山悠は「こちらに肩入れして、出したい情報を一方的に押しつける」をしない。片山悠は「メディアの顔色をうかがって、世相に合わせたパッケージで情報を扱いやすくまとめる」をしない。

双方にメリットがあるよう情報の往来を見守り、適切なタイミングで介入する。そのポジショニングが絶妙だと感じた。

ぼくは「少しこちらより」に彼がいてくれるように思ったけれど、もしかしたら記者さんも同じことを思っていたかもしれない。なんならまん中あたりを、高速で行き来しているのかもしれない。

ふだんから「PRの仕事は関係づくりなんです」と語る彼は、今日も境界で反復横跳びを続けるのだ。

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