見出し画像

五聖人の四季(とき)—道元・西行・一遍・明恵・良寛—

作曲年/2021
編成/声明(四名の僧侶)、打楽器、篳篥、笙、龍笛、尺八、箏、三味線、ヴァイオリン、チェロ
テキスト/道元、西行、一遍、明恵、良寛による和歌、毘盧舎那仏、念仏、光明真言、般若心経
演奏時間/約53分
静岡音楽館AOIの委嘱により、主催公演「日本人と自然 Ⅱ 本来の面目を詠ず ~新しい日本の伝統音楽」のために作曲
静岡音楽館AOIの委嘱作品リスト

English title: Four Seasons of the Five Saints - Dōgen, Saigyō, Ippen, Myōe, and Ryōkan
Year of composition: 2021
Instrumentation: Shōmyō voice by four priests (Japanese Buddhist chant of Shingon sect and Tendai Sect), percussions, ryuteki, hichiriki, sho, shakuhachi, koto, shamisen, violin, and cello
on the several poetries (in Waka style) by Dōgen, Saigyō, Ippen, Myōe, and Ryōkan, 'prayer to Vairocana-Buddha,' 'prayer to Amitabha,' 'Mantra of Light,' and 'Heart Sutra' as the text
duration: approximately 53 minutes
commissioned by Concert Hall Shizuoka AOI; first performed at The Japanese and Nature Ⅱ, Sing of Innate Reality - New Japanese Traditional Music
List of commissioned works by Concert Hall Shizuoka AOI



作曲ノート

 仏の世界や悟りの境地を、目に見えるものとしてえがいたのが、曼荼羅であるなら、《五聖人の四季(とき)》は、自然の営みとその大元の宇宙の秩序とを、耳に聴こえるものとして表現した、立体曼荼羅としての音楽である。中央に位置する高田みどりさんを大日如来と見立て、その発する音を原動力として、宇宙の呼吸がはじまる。虚空の心から風が出入りし、僧侶たちに聲が与えられ、言葉が生まれる。
 「序」の道元の歌と、「結」にあたる良寛の辞世の歌は、いわば表裏一体である。どちらも「ありきたりの事柄とありふれた言葉を、ためらひもなく、と言ふよりも、ことさらもとめて、連ねて重ね」た歌だが、一方は生を、もう一方は死を見据えている。しかし「生」への眼差しは、同時に「死」をも見つめ、逆もまた然りである。
 春夏秋冬の風光を詠み込んだ和歌には、それぞれ「毘廬舎那仏」「南無阿弥陀仏」「光明真言」「般若心経」が組み合わされ、二つで一つの状態にある。和歌と唱えの言葉の対が四つ、円環構造に配置される。和歌をこちら側の世界、また、唱えの言葉を向こう側、外、他(よそ)の世界と解釈した。こちら側と向こう側、双方の世界は、互いに裏側で支え合って存在する。その隙間、境界から、同時に二つの世界を捉える、パースペクティブのバリエーションを追求したい。
 四つの季節をそれぞれに司る四名の僧侶たちの聲が、音楽の全体を牽引する。指揮のない合奏をどう構成すべきか悩んだが、アンサンブルによる音の雲を、聲の空間に浮かべるような作曲を試みた。笙、ヴァイオリンとチェロは、互いの音を交換し合い、こちら側と向こう側、あの世とこの世、夢と現(うつつ)、そして、東西を行き来する媒介者となる。春は、箏が「花」をえがく。夏は、尺八が呼び込んだ「風」にのって「鳥」が舞う。秋は、龍笛と篳篥が「月」を演出し、冬は、三味線が「雪」の手を奏す。
 作曲とは、物事を明らかにする行為、見えるようにする行為である。聴かれることを待っている、自然や宇宙の聲を、静寂のなかから自然(じねん)のままにひき出せたらと願う。

日本の作曲 2020-2022(サントリー芸術財団出版)に選出
(p29に批評掲載)
www.suntory.co.jp/sfa/music/publication/pdf/composition2020-2022.pdf


使用テキスト


春は花夏ほととぎす秋は月 冬雪さえてすずしかりけり ― 道元
(参考:「草の庵にねてもさめても申すこと 南無釈迦牟尼仏憐みたまへ」)
南無釈迦牟尼仏(釈迦念仏)


風さそふ花の行方は知らねども 惜しむ心は身にとまりけり ―「花」の西行
(参考:「山深くさこそ心はかよふとも すまで哀れはしらん物かは」)
毘廬舎那仏(合殺)


ほととぎすなのるもきくもうたたねの ゆめうつつより外のひと声 ―「鳥」の一遍
(参考:「となふれば仏もわれもなかりけり 南無阿弥陀仏なむあみだ仏」)
南無阿弥陀仏(念仏)


くまもなく澄める心のかがやけば わが光とや月思ふらむ ―「月」の明恵
(参考:「かきつくるあとに光のかがやけば 暗き道にも闇は晴るらむ」)
オンアボキャベイロシャノウマカボダラマニハンドマジンバラハラバリタヤウン
(光明真言)


あわ雪の中にたちたる三千大千世界(みちおうち) またその中にあわ雪ぞ降る ―「風」の良寛
(参考:「つきてみよひふみよいむなやここのとを 十とをさめてまたはじまるを」)
観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無智亦無得以無所得故菩提薩埵依般若波羅蜜多故心無罣礙無罣礙故無有恐怖遠離一切顛倒夢想究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提故知般若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上呪是無等等呪能除一切苦真実不虚故説般若波羅蜜多呪即説呪日
羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶 般若心経


かたみとて何か残さん春は花 山ほととぎす秋はもみぢ葉 ― 良寛


Video


Performance history
(As of 12 August 2022)

2021年12月4日 - 世界初演
日本人と自然 Ⅱ
本来の面目を詠ず ~新しい日本の伝統音楽
@静岡音楽館AOI(静岡県静岡市葵区黒金町1-9 静岡中央郵便局うえ7-9階)
出演/小路耕徳、室生述成、末廣正榮、川城孝道(以上、声明)、高田みどり(打楽器)、石川高(笙)、中村仁美(篳篥)、角田眞美(龍笛)、黒田鈴尊(尺八)、木村麻耶(箏)、本條秀慈郎(三味線)、三瀬俊吾(ヴァイオリン)、竹本聖子(チェロ)
構成・演出/田村博巳
www3.aoi.shizuoka-city.or.jp/concert/detail.php?y_yoyaku_day_uid=18774


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?