ラフカディオ・ハーンが喋った日本語

 ラフカディオ・ハーンは英語圏で記者として活動したのち40代で来日し、以後54歳で死ぬまでの14年間を日本で暮らした。小泉八雲という日本名で知られるが、著作は全て英語による。ハーンは日本語の読み書きが得意ではなかったが、妻セツとはカタカナで独特な文法の手紙をやり取りしていた。また、セツはハーンの没後に「思い出の記」の中で夫との会話を再現しており、この夫婦が不思議な日本語でコミュニケーションをとっていたことがわかる。
 筆者はハーンが普段どんな言葉を喋っていたのか、というところに興味を持ち、以下にその手掛かりとなるものをまとめてみた。

小泉節子「思い出の記」より

●松江の中学の教頭・西田千太郎について
「利口と、親切と、よく事を知る、少しも卑怯者の心ありません、私の悪い事、皆言うてくれます、本当の男の心、お世辞ありません、と可愛らしいの男です」
「唯あの病気、如何に神様悪いですねー私立腹」
「あのような善い人です、あのような病気参ります、ですから世界むごいです、なぜ悪き人に悪き病気参りません」

●彼の死後
「今日途中で、西田さんの後姿見ました、私の車急がせました、あの人、西田さんそっくりでした」

●西洋風は嫌いだった
「日本に、こんなに美しい心あります、なぜ、西洋の真似をしますか」

●松江に来た当初の宿の娘が眼病を患っていたのを医者にかけて全快させてやった
「珍しい不人情者、親の心ありません」
「娘少しの罪ありません、唯気の毒です」

●長男が生まれるのに際して
「よい目をもってこの世に来て下さい」

●書生が書物を床に置いて読むのを見て
「手に持ってお読みなさい」

●隣に越してきた人が訪ねてきた
「あなたは材木町の宿屋にいたと申しましたね」
「それではあの宿屋の主人のお友達ですか」
「あの珍しい不人情者の友達、私は好みません、さようなら、さようなら」

●子供にいじめられていた小猫をセツが連れ帰った
「おお可哀相の小猫むごい子供ですねー」

●山鳩の鳴き声に
「あの声聞きますか、面白いですね」

●蛇
「蛇はこちらに悪意がなければ決して悪い事はしない」
「あの蛙取らぬため、これを御馳走します」
「西印度にいます時、勉強しているとよく蛇が出て、右の手から左の手の方へ肩を通って行くので
す。それでも知らぬ風をして勉強しているのです。少しも害を致しませんでした。悪い物ではない」

●温泉場の宿で酒宴が催されているのを見て
「駄目です、地獄です、一秒でさえもいけません」
「好みません」

●海上の洞穴にて泳ごうとするのを船頭が止めた
「しかし、この綺麗な水と、蒼黒く何万尺あるか知れないように深そうなところ、大層面白い」

●そのことを根に持って翌日までものも言わなかった。その数日後
「皆人が悪いと言うところで、私泳ぎましたが過ちありません。ただあの時、ある時海に入りますと体が焼けるようでした。間もなく熱がひどく出ました。それと、あああの時です、二人で泳ぎました、一人は急に見えなくなりました。同時に大きな鮫の尾が私のすぐ前に出ました」

●松江にいた頃
「西印度を見せて上げたいものだ」

●盆踊りが警察に差し止められたと聞いて
「駄目です、日本の古い、面白い習慣をこわします。皆ヤソのためです。日本の物こわして西洋の真似するばかりです」

●熊本で散歩から帰ると
「大層面白いところを見つけました、明晩散歩致しましょう」

●翌晩の散歩で
「あなた、あの蛙の声聞いて下さい」

●また別の散歩から帰ってきて
「今夜、私淋しい田舎道を歩いていました。暗いやみの中から、小さい優しい声で、あなたが呼びました。私あっと言って進みますとただやみです。誰もいませんでした」

●西洋人を見物に山のように人が押し寄せた時
「こんな面白い事はない」

●急遽泊まった宿(民家)で
「面白い、もう一晩泊まりたい」

●東京は地獄のようだと言って嫌っていた
「あなたは今の東京を、広重の描いた江戸絵のようなところだと誤解している」
「もう三年になりました。あなたの見物がすみましたら田舎に参ります」

●薄気味悪い貸家(後で化け物屋敷とわかった)
「面白いの家です」
「ああ、ですから何故、あの家に住みませんでしたか。あの家面白いの家と私思いました」

●瘤寺
「面白いのお寺」
「ママさん私この寺にすわる、むずかしいでしょうか」
セツ「あなた、坊さんでないですから、むずかしいですね」
「私坊さん、なんぼ、仕合せですね。坊さんになるさえもよきです」
セツ「あなた、坊さんになる、面白い坊さんでしょう。眼の大きい、鼻の高い、よい坊さんです」
「同じ時、あなた比丘尼となりましょう。一雄小さい坊主です。如何に可愛いでしょう。毎日経読むと墓を弔いするで、よろこぶの生きるです」
セツ「あなた、ほかの世、坊さんと生まれて下さい」
「ああ、私願うです」

●瘤寺の杉の木が切り倒された
「おお、おお」
「何故、この樹切りました」
セツ「今このお寺、少し貧乏です。金欲しいのであろうと思います」
「ああ、何故私に申しません。少し金やる、むつかしくないです。私樹切るより如何に如何に喜ぶでした。この樹幾年、この山に生きるでしたろう、小さいあの芽から」
「今あの坊さん、少し嫌いとなりました。坊さん、金ない、気の毒です。しかしママさん、この樹もうもう可哀相なです」
「私あの有様見ました、心痛いです。今日もう面白くないです。もう切るないとあなた頼み下され」

●セツが家を建てたいと言うと
「あなた、金ありますか」
セツ「あります」
「面白い、隠岐の島で建てましょう」
「出雲に建てて置きましょう」

●西大久保に買った家の建て増しについて相談すると
「ただこれだけです。あなたの好きしましょう。宜しい。私ただ書く事少し知るです。外の事知るないです。ママさん、なんぼ上手します」
「私、もう時もたないです」
「もう、あの家、宜しいの時、あなた言いましょう。今日パパさん、大久保にお出で下され。私この家に、朝さようならします。と、大学に参る。宜しいの時、大久保に参ります。あの新しい家に。ただこれだけです」

●大久保で
「如何に面白いと楽しいですね」
「しかし心痛いです」
セツ「何故ですか」
「余り喜ぶの余りまた心配です。この家に住む事永いを喜びます。しかし、あなたどう思いますか」

●会いたくない人が来ると
「時間を持ちませんから、お断りいたします」(と申し上げるように)

●綺麗好きのセツに
「その掃除はあなたの病気です」

●想像の世界に住む
セツ「あなた、自分の部屋の中で、ただ読むと書くばかりです。少し外に自分の好きな遊びして下さい」
「私の好きな遊び、あなたよく知る。ただ思う、と書くとです。書く仕事あれば、私疲れない、と喜ぶです。書く時、皆心配忘れるですから、私に話し下され」
セツ「私、皆話しました。もう話持ちません」
「ですから外に参り、よき物見る、と聞く、と帰るの時、少し私に話し下され。ただ家に本読むばかり、いけません」

●書いているときは少しの物音も邪魔になった
(箪笥を開ける音で)「私の考え壊しました」

●怪談が大層好きだった
「怪談の書物は私の宝です」

●怪談のしすぎでセツは悪夢にうなされた
「それでは当分休みましょう」

●セツが本を見ながら話すと
「本を見る、いけません。ただあなたの話、あなたの言葉、あなたの考えでなければ、いけません」

●「アラッ、血が」
「どんな風をして言ったでしょう」
「その声はどんなでしょう」
「履き物の音は何とあなたに響きますか」
「その夜はどんなでしたろう、私はこう思います、あなたはどうです」

●芳一ごっこ
「はい、私は盲目です、あなたはどなたでございますか」

●琵琶法師の博多人形を見て
「やあ、芳一」

●風の音を聞いて
「あれ、平家が亡びて行きます」
「壇の浦の波の音です」

●書斎でひとり喜んでいるので
「あなた喜び下され、私今大変よきです」


セツ「あの話、あなた書きましたか」
「あの話、兄弟ありません。もう少し時待ってです。よき兄弟参りましょう。私の引出しに七年で
さえも、よき物参りました」

●『日本』
「この書物は私を殺します」
「こんなに早く。こんなに大きな書物を書く事は容易ではありません。手伝う人もなしに、これだけの事をするのは、自分ながら恐ろしい事です」
「今あの『日本』の活字を組む音がカチカチと聞えます」

●ランプから煙が出てるのに気づかず書いていた
セツ「パパさん、あなたランプに火が入っているのを知らないで、あぶないでしたね!」
「ああ、私なんぼ馬鹿でしたねー」

●夕飯
子供たち「パパ、カムダウン、サッパー、イズ、レディ」
「オールラィト、スウィートボーイズ」

●返事がないとき
セツ「パパさん沢山時、待つと皆の者加減悪くなります。願う、早う参りてくだされ。子供、皆待ち待ちです」
「はー何ですか」
セツ「あなた何ですか、いけません。食事です。あなた食事しませんか」
「私食事しませんでしたか。私は済みましたと思う。おかしいですね」
セツ「あなた、少し夢から醒める、願うです。小さい子供泣きます」
「御免御免」
「ノウ」
(パンをくれと頼まれ)「やりませんでしたか。御免御免」
(コーヒーに塩を入れているのを注意され)「本当です。なんぼパパ馬鹿ですね」
セツ「パパさんもう、夢から醒めて下され」

●ひとりで笑っているので
セツ「パパさん何面白いことありますか」

●法螺貝を吹いて
「私の肺が強いから、このような音」
「面白い音です」

●気に入った絵について
「あなた、あの絵どう思いますか」
セツ「おねだん余り高いですね」
「ノウ、私金の話でないです。あの絵の話です。あなたよいと思いますか」
セツ「美しい、よい絵と思います」
「あなた、よいと思いますならば買いましょう。この価まだ安いです。もう少し出しましょう」

●気に入った寺には拝観料より多く払う
「ノウ、ノウ、私恥じます」

●荒川という仏師
『貧しい天才』

●浴衣
「しかし、あなた、ただ一円五十銭あるいは二円です。いろいろの浴衣あなた着て下され。ただ見るさえもよきです」
「あああの浴衣ですね」

●上野公園
「これは何程ですか」

●西洋嫌いの人の記事を読んで
「如何に面白い」
「しかし私大層好きです、そのような人、私の一番の友達、私見る好きです。その家、私是非見る好きです。私西洋くさくないです」
セツ「あなた西洋くさくないでしょう。しかし、あなたの鼻」
「あ、どうしよう、私のこの鼻、しかしよく思うて下さい。私この小泉八雲、日本人よりも本当の日本を愛するです」

●洋服
「なんぼ野蛮の物」
セツ「大学の先生になったのですからフロックコートを一着持っておらねばなりません」
「ノウ、外山さんに私申しました。礼服を私大層嫌います。礼服で出るようなところへ私出ませんが、宜しいですかと言いました。それで宜しいですと外山さんが約束しましたのですから、フロックコートいけません」
「この物私好きない物です、ただあなたのためです。いつでも外にの時、あなた言う、新しい洋服、フロックコート、皆私嫌いの物です。冗談でないです。本当です」
セツ「あなた日本の事を大変よく書きましたから、天子様、あなた賞めるためお呼びです、天子様に参る時、あのシルクハット、フロックコートですよ」
「それでは真平御免」

●寝る前
「プレザント、ドリーム」

●浦島太郎
「ああ浦島」

●夕焼けだと家族を呼んで
「一分遅れました、夕焼け少し駄目となりました。なんぼ気の毒」

●朝顔
「おお、あなた」
「美しい勇気と、如何に正直の心」
(抜かれて)「祖母さんよき人です。しかしあの朝顔に気の毒しましたね」

●子供がふすまを汚した
「私の子供あの綺麗をこわしました、心配」

●怒って手紙を書き
「ママさん、あの手紙出しましたか」
セツ「はい」
(嘘だと明かすと)「だから、ママさんに限る」

●寿々子が生まれ
「なんぼ私の胸痛い」

●セツの外出
「歌舞伎座に団十郎、大層面白いと新聞申します。あなた是非に参る、と、話のおみやげ」
「しかし、あなたの帰り十時十一時となります。あなたの留守、この家私の家ではありません。如何につまらんです。しかし仕方がない。面白い話で我慢しましょう」

●車夫を雇う際
「あの男おかみさん可愛がりますか」
「それなら、よい」

●九月十九日
セツ「あなたお悪いのですか」
「私、新しい病気を得ました」
セツ「新しい病、どんなですか」
「心の病です」
セツ「余りに心痛めましたからでしょう。安らかにしていて下さい」
「私の思うようにさせて下さい」
「これは梅さんにあてた手紙です。何か困難な事件の起こった時に、よき智恵をあなたに貸しましょう。この痛みも、もう大きいの、参りますならば、多分私、死にましょう。そのあとで、私死にますとも、泣く、決していけません。小さい瓶買いましょう。三銭あるいは四銭位のです。私の骨入れるために。そして田舎の淋しい小寺に埋めて下さい。悲しむ、私喜ぶないです。あなた、子供とカルタして遊んで下さい。如何に私それを喜ぶ、私死にましたの知らせ、要りません。もし人が尋ねましたならば、はああれは先頃なくなりました。それでよいです」
セツ「そのような哀れな話して下さるな、そのような事決してないです」
「これは冗談でないです。心からの話。真面目の事です」
「仕方がない」
「私行水をして見たい」
「奇妙です、私今十分よきです」
「ママさん、病、私から行きました。ウィスキー少し如何ですか」
セツ「少し心配です。しかし大層欲しいならば水を割って上げましょう」
「私もう死にません」
「少し休みましょう」

●医者が来て
「私、どうしよう」
「御免なさい、病、行ってしまいました」

●診察や薬が嫌い
「あなたがお医者様忘れましたと、大層喜んでいたのに」

●桜の返り咲き
「有難う」
「ハロー」
「春のように暖いから、桜思いました、ああ、今私の世界となりました、で咲きました、しかし・・・」
「可哀相です、今に寒くなります。驚いて凋みましょう」

●早起きだが家族は起こさない
「夢を破る、いけません」

●亡くなる日の朝
セツ「お早うございます」
「昨夜大層珍しい夢を見ました」
セツ「どんな夢でしたか」
「大層遠い、遠い旅をしました。今ここにこうして煙草をふかしています。旅をしたのが本当ですか、夢の世の中」
「西洋でもない、日本でもない、珍しいところでした」
一雄「グッド、モーニング」
「プレザント、ドリーム」
一雄「ザ、セーム、トゥー、ユー」

●寝る前
子供たち「パパ、グッドナイト、プレザント、ドリーム」
「ザ、セーム、トゥー、ユー」

●『朝日』
「美しい景色、私このようなところに生きる、好みます」

●松虫
セツ「あの音をなんと聞きますか」
「あの小さい虫、よき音して、鳴いてくれました。私なんぼ喜びました。しかし、だんだん寒くなって来ました。知っていますか、知っていませんか、すぐに死なねばならぬという事を。気の毒ですね、可哀相な虫」
「この頃の温い日に、草むらの中にそっと放してやりましょう」

●死の直前
「パパ、グッドパパ」
「スウイト・チキン」
「ママさん、先日の病気また参りました」

手紙
 書き下し文(?)は筆者による。ハーンは「小」だけで「小さな」というような意味で使っているようだ。辿々しさを感じるハーンの手紙に対して、セツは夫が読み易いようにカタカナを区切って書いてはいるが、読んでみるとけっこう普通の日本語である。「ネ」のかわりに「子」なのは時代を感じるが「ですねー」という書き方(セツの口癖?)がかわいい。なにより2人のやりとりがとにかくかわいい。

●八雲の手紙(1901=明治34年7月25日)
小・ママ・ アナタ・ノ・カワイ・テガミ・アリマス・ ワタシ・ヨロコブ・ウメ・サン・ノ・
アタラシイ
イエ・ヲ・ミマシタ・ ワタシ・ト・アナタ・イチ・ニチ・フタリ・ミヤウ・シヤナカ・
かづを・サクシツ・ハジメテ・フカイ・ウミ・ニ・トリマシタ・五・トキ・かづを
フ子・ニ・ヲヨギマシタ・ト・カエリマシタ・マイニチ・モ・ジヤウブ・ト・モ・シヤウズ
トナル・イマ・タクサン・クロイ・テス・ テン・キ・ワ・キレイ・ト・ススシイ・デス・
かづを・ノ・小・フ子・ニ・ナマエ・ヤリマシタ・ヒノコ・マル・ト・ヨブ・ オ・サキ・サン
アノ・フ子・ニ・小・ハタ・シマシタ・ アノ・カラス・コ子コ・ニ・ナマエ・モ・ヤリマシタ
ヒノコ・ト・ヨブ・テスカラ・小・メ・ニ・ヒノコ・ノ・ヨナ・
やいづ・の・パパカラ・カワイ・ママ・ニ・
七月二十五日・二十五日・二十五日・二十五・日・二十五日・

小・ママ・あなた・の・可愛い・手紙・あります・わたし・喜ぶ・ウメ・さん・の・新しい
家・を・見ました・わたし・と・あなた・一・日・ふたり・見よう・しやなか(じゃないか?)・
一雄・昨日・初めて・深い・海・に・とりました・五・時・一雄
舟・に・泳ぎました・と・帰りました・毎日・も・丈夫・と・も・上手
となる・今・沢山・黒い・です・天・気・は・きれい・と・涼しい・です・
一雄・の・小・舟・に・名前・やりました・ヒノコ・丸・と・呼ぶ・お・サキ・さん
あの・舟・に・小・旗・しました・あの・烏・子猫・に・名前・も・やりました
ヒノコ・と・呼ぶ・ですから・小・目・に・火の粉・の・よな・
焼津・の・パパから・可愛い・ママ・に・
七月二十五日・二十五日・二十五日・二十五・日・二十五日・

●セツの手紙(1904=明治37年8月12日)
八月十二日
(1)
グド、パパサマ、アナタ、ノ、カワイ、テガミ、3 トキ、ワタシ、ノ
、テニ、アリマシタ、ヨロコビデ、ワライマシタ ト、セップン、
シマシタ、ヤイヅ ノ、テイボヲ、ノ、エ、オモシロイデス子ー、
ヨキテンキデ、テン、(アオイデス)ノ イロキレーデス子ー、
TOKYO オナジ、マイニチ、アツイ、デスヨ、かづを、タクサン、
ヨロコビ、デ、オヨギ、スル、ト、キク、ワタシ、オナジ、ヨロコビ
デス、スコシ、水、オソレル、フカイノ、トコロ、タクサン
ヨロシ、デス、アブナイ、アリマセン、 イワオ、
オナジ、ヨロコブ、デ、シヤウ、大キ、ワラウ、デスカ、
マタハ、ナク、デスカ、パパサマ、フタリ、小ドモ、
オシエル、タクサン、シゴト、ゴシンパイ、デス子ー
パパサマ、スコシ、ブシヤウ、ト、カキマシタ、シカシ、
(2)
ジヤウブ、タクサン、ヨロコブデス、アマリ、タクサン、ウミ
ヨクナイデス、シカシ、ウミノ、カゼ、タイソウ、
クスリ、デス、ト、キザワサン、カラ、キキ、マシタ、
パパサマ、ブシヤウ、ヨロシ、デス、タダ、カワイ、ノ
ダイヂノ、カラダ、カワイカル、ダイヂ、スル、
クダサレ、やいづノ、サカナ、サシミ、サケ、イカガ
デスカ、パパサマ、ワルイ、シンパイ、スル、ヨクナイデス、
カワイ、ママ子ガウ、ト、子ガウ、デス、チカイ、ニ、シヤワセ、
マイリマス、ゼヒデス、イエニ、ミナ人、大ジヤウブ、デス、
キヨシ、オトナシデス、ケンクワノ、トモダチ、ルスデス、
ミナマ、キレイ、デ、ゴミ、アリマセン、スズコ、
スワルノ、カタヂ、デ、5シヤク、アルキマスヨ、カワイカワイ
(デスヨ サヨナラ
パパサマ ママカラ オババサマ ヨロシク ト イイ
マシタヨ

(1)
Good、パパ様、あなた、の、可愛い、手紙、3 時、私、の
、手に、ありました、喜びで、笑いました と、接吻、
しました、焼津 の、堤防、の、絵、面白いですねー、
良き天気で、天、(青いです)の 色綺麗ですねー、
東京 同じ、毎日、暑い、ですよ、一雄、たくさん、
喜び、で、泳ぎ、する、と、聞く、私、同じ、喜び
です、少し、水、怖れる、深いの、ところ、たくさん
よろし、です、危ない、ありません、 巌、
同じ、喜ぶ、で、しょう、大き、笑う、ですか、
または、泣く、ですか、パパ様、ふたり、子供、
教える、たくさん、仕事、ご心配、ですねー
パパ様、少し、無精、と、書きました、しかし、
(2)
丈夫、たくさん、喜ぶです、あまり、たくさん、海
よくないです、しかし、海の、風、大層、
薬、です、と、キザワさん、から、聞き、ました、
パパ様、無精、よろし、です、ただ、可愛い、の
大事の、体、可愛がる、大事、する、
くだされ、焼津の、魚、刺身、酒、いかが
ですか、パパ様、悪い、心配、する、よくないです、
可愛い、ママ願う、と、願う、です、近い、に、幸せ、
参ります、是非です、家に、皆人、大丈夫、です、
清、大人しいです、喧嘩の、友達、留守です、
ミナマ、綺麗、で、ゴミ、ありません、寿々子、
座るの、形、で、5尺、歩きますよ、可愛い可愛い
(ですよ さよなら
パパ様 ママから お婆様 よろしく と 言い
ましたよ

●八雲の手紙(日付なし・上記の返信と推定)
小 イチ バン カワイ ママ サマ・
アナタ・ノ・カワイ・テカミ・イマ・マイマシタ ワタクシ・ミナ・アナタ
・ノ・コトバ・ヲ・ヨキ・オボエマシヤウ・スコシ・モ・シンパイ・アリマセン
ノミ・ガ・ノゾイテ・コドモ・ヨロコビマス・イワオ・タクサン・ヨキ・テス・
キヤク・マエ・ノ・マ・ニ・アリマス・ト・オモシロイ・ナイ・シカシ
カエリマシヤウ・コンニチ・ト・オモウ・ ワタシ・イマ・アナタ・ニ・
テガミ・ヤリマス・KELLY & WALSH ノタメ・アノ・テカミ・
ヨコハマ・ニ・ヤツテ・クダサレ・ワタクシ・スキ・ナイ・ヒト・シル
ワタシ・ヤイヅ・ニ・デス・ ソレ・カラ・アノ・テガミ・ユビン・ニ・
イマ・アナタ・ニ・ヤル・ト・アナタ・ガ・アノ・テカミ・ヲ・ヨコハマ
ニ・ヤル・クダサレ・ アノシトラ・ゴメン・ワタシ・ニ・イマシタ・
アヤマチ・ヲ・シマシタ・アレラ・ノ・シヤウキ・ガ・シニマシタ・ト・
イマシタ・
イワオ・イマ・スコシ・オヨグ・イサマシイ・タ・ヨ・
パパ カラ。

●八雲の手紙(1904=明治37年8月13日)
小・ママ・サマ・ ヤいづ
テンキ・イツデモ・キレイ・キヤク・ヨヨ・イツテ シマイマシタ・オモシロイ・
オトキチ・サン・ノ・ツマ・ビヨゥキ・デス・ テツ。ノ。イエ・ニ・トマル・シカシ・スコシ・
ナオシマシタ・
オ トヨ・ワタシニ・タヅ子・シマシタ・オトヨ・ノ・テイシユ・ヘイタイ・ノ・タメ・トリマシ

アノ・タバコヤ・モ・トリマシタ・ヤイヅ・カラ・十 七・人・イクサ・ニ・トリマシタ・
コンニチ・ウミ・タカイ・オホシヲ・シカシ・シヅカナ・デス・かづを・ト・イワオ
オヨギマシタ・ イワオ・スコシ・マナビマシタ・ イマ・ウク コト・ジヤウズ・シマス・
ソレカラ・ ミナ・モノ・マナブ・ヤスイ・デシヤウ・ パパ・ハジメテ・ノ・ニ・ニチ・スコ
シ・
アツイ・ト・タイギ・ト・ブシヤウ・デシタ・シカシ・イマ・ミナ・チカラ・カエリマシタ・
パパ・ノ・オキナ・タイコク・ノ・ハラ・スコシ・チサイ・ト・ナリマシタ・
コンニチ・マツリ・アリマス・[”ヤレ ヤレ ハヤト”・]オミコシ・サマ・ゴゴ・ニ・
マチ・ニ・ヌイテ・トシマシヤウ・ イワオ・イマ・ナンボ・カラカ子・ノ・イロ・ト・
ナリマシタ・ムヅカシイ・イウ・ カズオ・ダイ・シヤウブ・
パパ・カラ・ [キヨシ・ニ・カワイ・コトバ・パパ・カラ・
アバアバ・ニ・セツプン・シテ・クダサレ・ オババサマニ カワイ
コトバ・

●八雲の手紙(1904=明治37年8月18日)
小・カワイ・ママ・サマ・
コン・ニチ・アサ・ナリタ・サマ・ノ・オマモリ・マイリマシタ
ト・パパ・オトキチ・ニ・ヤリマシタ・ト・タヘン・ヨロコヒマシタ
イマ・アノ・ツマ・スコシ・ナオシマシタ・イエ・ニ・カエリマシタ・
アリガト・シヤツ・ノ・タメ・ シカシ・パパ・スコシ・モ・サムイ
アリマセン・イマ・ シヤウブ・ト・ナリマシタ・ ト・
アタラシイ・カワ・ラ・コシラユリマシタ・
ママ・サマ・ニ・子ガウ・ ジユブン・ノ・カラダ・カワガル・イマ・アナタ
イソガシイ・デシヤウ・子・ダイク・ト カベヤ・ト・タクサン・
シゴト・ デスカラ・カラダ・ダイジ スル・オホ子カウ・
ワタシ・コンニ・イソガシイ・ダヨ・ ホンヤ・ガ・コセイ
ヲ・ワタシ・ヤリマシタ・ シカシ・ミナ・ヨロシマシタ・
イワオ・ト・かづを・ジヤウフ・ト・カワイラシイ・ウミ・ニ・
タクサン・アソビ・ト・クロイ・ト・ナル・オトキチ・ダイジ
シマス・ ベンキヤウ・マイニチ・シマス・
サヨナラ・カワイ・ママ・サマ・ オババサン・ニ・カワイ・コトバ
コドモ・ニ・セツプン・
小泉 八雲
ヤいづ 八月十八日

●八雲の手紙(1904=明治37年8月19日)
ヤいづ 八月 十九日
小・ママ・サマ・
アナタ・ノ・タクサン・カワイ・テガミ・アリマス・ダイク・ヤ・ト・
カベヤ・ワ・アリマス・ト・キク・カラ・タクサン・ヨロコブ・コンニチ・?
ウミ・ガ・ソノ・ヨナ・アライ・オヨク・スカシ・ムツカシイ・デスカラ・
ワダ・ニ・マイル・オトキチ・サン・デ・ト・オモウ・
アナタ・オボユリマスカ・チサイ・ムスメ・カ・アリマシタ・ヤいづ
ニ・ビッコ・ビッコ・ノ・ムスメ・カワイソナ・デシタ子・イマ・オキナ・
ムスメ・ト・ナリマシタ・ トナリ・ノ・チサイ・ムスコ・ヤ・ケイ・
トヨブ・イマ・オキ・イワオ・ノ・ヨナ・ト・ガツコ・ニ・マイル・ト・
ジヤウズ・テス・ ニ・トシ・ノ・アイダニ・ナンボ・ハヤイ・ワカイ
ジン・オキク・ト・ナル・イワオ・モ・スコシ・トキ・ハジメテ・ノ・
エイゴ・ノ・ホン・ヲ・ヨロシマシヤウ・イマ・ワ・タダ・モ・四・五
ページ・ノコリマス・ かづを・ニ・タダ・スコシ・ベンキヤウ・
ワタシ・デ・シマス・シカシ・イイ・シマス・フルイ・モノ・ハカリ・
アタラシ・モノ・ヲ・カエル・ノ・トキ・ヤリマス・ シカシ・ニツキ・
カク・ト・ジ・ヲ・カク・ト・テガミ・カク・ト・エイゴ・ヲ・ヨム・ベンキヤウ
デス・子・ デスカラ・ワタシ・ムリ・シマセン・かづを・ノ・ホ・ニ・
イワオ・デ・モ・ムリ・シマセン・タタ・ハンシカン・ノ・ヨナ・
マイニチ・イワオ・ヨキ・オボエル・ノ・アタマ・ト・カワイ・
ノ・トキ・メヅラシイ・カワイ・ イマ・ワタシラ・ノ・マト・ニ・
タクサン・イシ・ヲ・アツマリマシタ・ マイニチ・パパ・ノ・ソデ・ヲ
イシ・デ・イツパイ・シマス・ コトモ・ワ・イカニ・カワイ・ト・カワイソナ
モノ・タ・ スコシ・ツミ・モ・アリマセン・
サヨナラ・ ママ・ノ・カワイ・カオ・ノチホト・ミル・ト・ノゾミ
小泉八雲

焼津 八月十九日
小・ママ・様・
あなたの・沢山・可愛い・手紙・あります・大工・屋・と・壁屋・は・あります・と・聞く・
から・沢山・喜ぶ・今日・?海・が・その・よな・あらい・泳ぐ・少し・難しい・ですから・和
田・に・参る・乙吉・さん・で・と・思う・
あなた・おぼゆりますか・小さい・娘・が・ありました・焼津・に・びっこ・びっこ・の・娘・
可哀相な・でしたね・今・大きな・娘・と・なりました・隣・の・小さい・息子・や・けい・と
呼ぶ・今・大き・巌・の・よな・と・学校・に・参る・と・上手・です・二・年・の・間に・な
んぼ・早い・若い・人・大きく・なる・巌・も・少し・時・初めて・の・英語・の・本・を・よ
ろしましょう・今・は・ただ・も・四・五ページ・残ります・一雄・に・ただ・少し・勉強・私・
で・します・しかし・いい・します・古い・もの・ばかり・新し・ものを・かえる・時・やりま
す・しかし・日記・書く・と・字・を・書く・と・手紙・書く・と・英語・を・読む・勉強です・
ね・ですから・私・無理・しません・ただ・半時間・の・よな・毎日・巌・よき・おぼえる・の・
頭・と・可愛い・の・時・珍しい・可愛い・今・私ら・の・窓・に・沢山・石・集まりました・
毎日・パパ・の・袖・を石・で・一杯・します・子供・は・如何に・可愛い・と・可哀相なもの・
だ・少し・罪・も・ありません・
さよなら・ママ・の可愛い・顔・後程・見る・と・望み
小泉八雲

●セツの手紙(1904=明治37年8月23日)
シンセツノパパサマ、セカイ、イチバンノ、パパサマ、アナタノ、カラダ、
ダイジャウブ、 デスカ、スコシ、モ、ビヤウキ、アリマセヌカ、
タベモノ、オツカレ、アリマセヌカ、モスコシ、トキ、ヨウシヨク、
タべマシヤウ子、ママ二十五日ノヨルノ、キシヤデ、マイルデシヤウ、
イマ、クロイノ、イロノ、イワオ、セナオヨギ、オボエマシタ、キク
ママ、タイソオ、ヨロコビデシヨ、パパサマノ、オカゲデス、子ー、
大クボノ、イエノ、ダイドコロノ、テンジャウノ、子ヅミ
トルノタメ、大キ、ヘビイエノナカニマイリマシタ、オサキ
ミツケルデ、大キ大キ、コエ、シマシタ、デスカラ、ミナ人
アツマルト、ミナ女、大キ、コエデ、イイマシタ、イヤデス子ー、
イヤダ子ー。ドウシタラ、ニゲル、デシヤウカ、コンバン
子ルコト、デキナイデス子ー。大へンデス子ー、イヤダ子ー
テズカラ、ワタシ、イイマシタ、スコシモ、カマワナイ、ヨロシデス、
ワルイ、イタヅラノ、子ヅミ、ト ル、カワイモノデス。ワルイモノ
シマセン、ソノヨナ、オソレル、ナイヨキ、ジブンデ、ニゲマス、
カラ、シンパイ、ナエ、ト、イイマシタ。ト、ホント、ニゲマシタ、
アア、シカシ、大へン、ミナ女デ、ヤカマシデシタヨ、ホホホホホ
イマ、アサガホ、キレイノ、ハナ、タクサン、アリマス、アノ
ホリノ、トナリノ、サミシノ、 小サイ、アサガホ、コンニチ
アサ、ムラサキ、 四ツ、アカ二ツ、サキマシタヨ、キレイト、
カワイデスヨ、イエニ、ミナ人、大ジャウブデス、シンパイ
アリマセヌ、サヨナラ セツカラ
パパサマ
かづを いわを にいみ ヨキコトバ
八月二十三日

親切のパパ様、世界、一番の、パパ様。あなたの、体、大丈夫、ですか。少し、も、病気、あり
ませぬか、食べ物、お疲れ、ありませぬか、も少し、時、洋食(?)、食べましょうね、ママ二
十五日の夜の、汽車で、参るでしょう、今、黒いの、色の、巌、背な泳ぎ、おぼえました、聞く、
ママ、大層、喜びでしよ、パパ様の、おかげです、ねー、大久保の、家の、台所の、天井の、鼠と
るのため、大き、蛇家の中に参りました、おさき、見つけるで、大き大き、声、しました。手ず
から、皆人、集まると、皆女、大き、声で、言いました、嫌ですねー、嫌だねー。どうしたら、
逃げる、でしょうか、今晩、寝ること、できないですねー、大変ですねー、嫌だねー、ですから、
私、言いました、少しも、構わない、よろしです。悪い、ないよき、自分で、逃げます、から、心
配、無え、と、言いました、と、ほんと、逃げました、ああ、しかし、大変、皆女で、やかまし
でしたよ、ほほほほほ、今、朝顔、綺麗の、花、沢山、あります、あの堀の、隣の、淋しの、小
さい、朝顔、今日朝、紫、四つ、赤二つ、咲きましたよ、綺麗と、可愛いですよ、家に、皆人、
大丈夫です、心配、ありませぬ、さよなら セツから パパ様 一雄 巌 新美 良き言葉 八
月二十三日

●セツの単語帳
ヤアン わかき <young
ラエシ ???? す(?)べての者云う <
ペザント 百姓 <peasant
カントレマン 百姓総て国人を云う 但?外国 <country manか?
サラベ(バ)ンド 志もべ <servant
デーラ 其人の <theirか
ホフー だれが <whoだろうかfor whoだろうか
ヘヂ 其男の <hisだろうか
ハーリ 其女の <herだろうか
エーフ 其者の <
オーノ 自分の <ownであろう
ノバデ だれもな江 <nobody
サンバデ たれぞ <somebody
ア子バデ たれでも <anybody
バージ 鳥総てを云う <birds
フーツト 足 <foot
アエ 目 <eye

参考文献
別冊太陽 日本のこころ300 小泉八雲 日本の霊性を求めて(平凡社)
新編 日本の面影II ラフカディオ・ハーン 池内雅之=訳(角川文庫)

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