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すずめ (RADWIMPS)の意味

すずめの戸締りの主題歌「すずめ」。歌詞の解釈にはいくつかあるのですが、どうもしっくりこない解説ばかりなので僕の解釈を。

楽曲の公開名がちょっと紛らわしいかもしれない表記なので一応箇条書きします。(僕も勘違いしかけたので)

楽曲名:すずめ
作詞作曲:RADWIMPS
歌い手(feat.):十明
のようです。

重い解釈

この歌は若者やコロナ禍で苦しんでいる人へのエールとなる曲です。これは間違いないのですが、この歌詞には多義性があり、もっともっと重い、生と死そのものに絡む解釈ができますので、そっちの解釈です。東日本大震災に強く影響された、僕の解釈ですので諸説あります。

君の中にある 赤と青き線
それらが結ばれるのは 心の臓

すずめ (RADWIMPS)

赤と青の線、これは一般に言われているとおり、赤=動脈、青=静脈を表すと同時に、赤=人間の本能、青=人間としての理性でしょう。
そして、このふたつが両方、時には相反しながら存在しているのが人間です。

風の中でも負けないような声で
届ける言葉を今は育ててる

すずめ (RADWIMPS)

「風の中」とは直喩としてはコロナ禍のような社会状態を指しているのでしょう。また暗喩というか人間の普遍の性(さが)として、自身の本当の望みをかき消してしまうような喧騒(様々な世間の喧騒や他者評価や悪口誹謗中傷や虚偽や裏切りや損得勘定、果ては自分自身の様々な迷い、死にたい諦めたい逃げたい心など)を指しています。

そういった中でもどうにかして届けたい言葉を育てている。例えば、「逃げたい」が本当の望みなら逃げればいい。でも、「いじめられずに学校や職場で楽しく過ごしたい、でも、より悪化するのが怖いからただ逃げたい」のなら、よりよい選択肢(いじめ加害者のうち犯罪レベルの奴を警察にタレこむ、転校・転職する、保護施設を頼るなど)もあるのだと、伝えたい、そんな意味です。

時はまくらぎ 風はにきはだ 星はうぶすな 人はかげろう

すずめ (RADWIMPS)

時はまくらぎ、これは直喩としては「線路のレールの横木」。歌詞の意味としては「時とはレールのように一本道でひたすら流れていくもの。選べなかった道などない。ただ通らなかっただけ。過去は常に同じ過去。違う過去などありえはしない。過去を悔いても分岐点に戻ることもできない。分岐点など存在しないに等しいのだから」

風はにきはだ、これは直喩としては「風は柔らかな肌」。歌詞の意味としては「自身の運命を変えてしまうような出来事、災害や事件も、地球・宇宙のレベルから見たら平坦ですべすべな肌のようなもの。凹凸は確かに存在するけれど、実に些細なもの。災害や事件の被害者は『なんで自分が、自分だけが』と思うかもしれないけれど、別にターゲットにされたわけじゃない。ただ、その些細な凹凸にぶつかった人間のほうが極小だっただけ」

星はうぶすな、これは直喩としては「(人間にとって)星は故郷である」。人はかげろう、これは直喩としては「人は陽炎、蜻蛉である」。歌詞の意味としては、先の時はまくらぎと風はにきはだを受けて「我々人間は皆、星から生まれた。世界は広大だがそこに生まれた我々の存在も、営みも陽炎のように儚くゆらぎたやすく消えるものだし、蜻蛉のように寿命自体も短い。」

極めて仏教的というか、人間や人間の営みの儚さを歌っています。

なんで泣いてるのと聞かれ答えれる 涙なんかじゃ
僕ら出逢えたことの意味にはまるで 追いつかない

すずめ (RADWIMPS)

泣いている理由が答えられる涙もあれば、答えられない涙もあります。例えば震災や津波で何もかも、本当に自分の命以外の全てを失ってしまった人は、「なぜ自分が、なぜあの人が、どうして○○できなかったのか、どうして○○しなかったのか、どうして○○してしまったのか、アレもなくなってしまった、これからどうしたら、どうにかして取り戻せないか、人を生き返らせることはできないのか、時を戻せるなら、ああしておけばよかった、あのひとは無事だろうか、友達はどうなったろう、近所のおばあちゃんは逃げ切れなかっただろう、自分だけ逃げてしまった、どうしてあのとき止めなかったのか、どうしてもっと大勢で逃げなかったのか、どうしてあそこに住んでしまった、どうして子供をあそこに就職させてしまったんだろう、どうして堤防は役にたたなかった?、どうして……」
すべて後悔と哀しみに繋がり、とても言葉にできないこともあるでしょう。

「僕ら出逢えたことの意味にはまるで 追いつかない」。言葉で言い表せないほどの後悔や悲しみを背負っている人間が、それら背負っているものを脇に置いてでも大切にしたい存在に出会ったら。その出逢いが、その人の人生に与える「意味」、平たく言えば生きる意味。その大切さ、重要さを歌っています。

この身ひとつじゃ 足りない叫び

すずめ (RADWIMPS)

先に提示したような「後悔や哀しみ」を背負っている人間にとって、その背負っているものを他人に分かってもらうことなど、とてもできないのです。伝えようとしても伝わらない、伝える意味があるか、伝えたいのかも分からない。

君の手に触れた時にだけ震えた 心があったよ
意味をいくつ越えれば僕らは辿り つけるのかな

すずめ (RADWIMPS)

「君の手に触れた時にだけ震えた 心があったよ」。人の出逢いとは不思議なもので、もう動かないと思っていた心、伝えたいとは思えなくなっていた気持ち、背負ったまま人生を終えようとしていた悲しみや後悔、そういったものがあって尚、心動かされ心惹かれる人に出遭うことがあります。

「意味をいくつ越えれば僕らは辿り つけるのかな」。それでも、そんな人に出遭っても、人は背負っている「悲しみや後悔」を降ろしたり、再び人を愛することは難しく、乗り越えなければならない壁があります(人を愛した先には愛した人との別れがあります。失う恐ろしさを知っている人間にとっては、愛することはその先にある悲しみや恐怖を受け入れなくてはなりません……)。

そんなとき、人は青に象徴される理性を使って、「人を愛する意味」「生きていく意味」「死なない意味」を考え出そうとします。逆に、「人を愛してはいけない理由」「生きていてはいけない理由」を否定しなければ、乗り越えなければならない人もいます。しかし、いくつ意味を見出せば、いくつの否定的な理由を乗り越えれば、共に歩みたい人と歩む決心ができるのでしょうか。

災害や事件事故で生き残った人たちの中には、強い罪悪感を今も抱いたままの人もいます。なんとなく強い希死念慮(死にたいという思い)を常に抱いている人もいます。生き残った人の中には、生きるために仕方なく、あるいは思わず、誰かを押し退けたり見捨てたという人もいて、その罪悪感に苦しめられています。

誰かを犠牲にしたのだから、自分はよりよく生きなければならない、できないならもう死んでしまいたい、そんな強迫観念に苛まれる人もいます。決して少なくはありません。

愚かさでいい 醜さでいい 正しさのその先で 君と手を取りたい

すずめ (RADWIMPS)

「愚かさでいい 醜さでいい」。誰かを犠牲にしたり、犠牲になった人より自分の方が劣っていると罪悪感に苛まれていても。過去はもう変えられません。でも、生きている人間はまだ、時のレールの上にいて動くことも考えることもできます。愚かなのは、醜いのは、決してあなただけではない。皆多かれ少なかれ愚かで醜い。それが人間です。それを受け入れ、「自分が生き残ったことは正しかったか、誰かを犠牲にしたことは正しかったか」という善悪論を超えて。ただその先で誰かと生きていき、歩んでいきたい。

思い出せない 大切な記憶
言葉にならない ここにある想い

すずめ (RADWIMPS)

「思い出せない 大切な記憶」。後悔や悲しみにとらわれて思い出せない大切な記憶。「言葉にならない ここにある想い」。多すぎて、あるいは罪悪感で、また亡くなってしまった為に永久に、言葉にならない/できないけど、確かにここにある自分や故人の思い。

もしかしたら もしかしたら
それだけでこの心はできてる

すずめ (RADWIMPS)

「もしかしたら もしかしたら」。もしかしたら、過去にはああできたかも。もしかしたら将来こうできるかも。人間の心は常に後悔と微かな希望で動いています。

もしかしたら もしかしたら
君に「気づいて」と今もその胸を 打ち鳴らす

すずめ (RADWIMPS)

私(歌い手とまた曲を口ずさむ聞き手)も、もしかしたら誰かを助けられたかも、助けられるかも、誰かの力になれたら。そういう想いを込めてあなたに届くよう歌っているのです。

なんで泣いてるのと聞かれ答えれる 涙なんかじゃ
僕ら出逢えたことの意味にはまるで 追いつかない
この身ひとつじゃ 足りない叫び
君の手に触れた時にだけ震えた 心があったよ
意味をいくつ越えれば僕らは辿り つけるのかな

すずめ (RADWIMPS)

ここはリピート部です。曲の作り手、歌い手が訴えたい人間の苦しみに対する理解とメッセージが強調されています。

愚かさでいい 醜さでいい 正しさのその先で 君と生きてきたい

すずめ (RADWIMPS)

そして最後にもう一度。人は元々愚かで醜いところがあります。それは決してあなただけではない。時と場所が悪ければ、どんなに美しくキラキラしているように見える人でも愚かで醜くなります。それは受け入れなければなりません。逆に、愚かに見えても醜く見えても、それがその人のすべてというわけではない。

そして尚、善悪を超えて寄り添って生きていける。そんな誰かを見つける手助けになれば。


そんな歌詞です。


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