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シーリングスタンプの楽しみ

オリジナルのシーリングスタンプを作る手法について、概ねメソッドが完成したので公開します。

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ヴァイオレットエヴァーガーデンでも、綺麗なシーリングスタンプが登場します。これ、いいですよね。


はじめに

本稿は、シーリングスタンプを100均グッズを中心になるべく安く手軽に自作することを目指したものです。スタンプ部は金属製を目指し、鋳造も行います。なお、お金がかかっても良いなら、シーリングスタンプは自作デザインを発注できます。自作を楽しみたい、あるいはなるべく安く作りたい方でなければ、まず間違いなく発注したほうが確実にいいものが得られます。本稿では以下のスタンプの情報が得られます。

お値段が安い(手軽な)順に

A案:100均のみで材料と道具をそろえる。ある程度既存のデザインでスタンプを仕立てる(予算1000円程度)
B案:A案のうち、デザインを石膏型で自作彫刻とする(予算2000円程度)
C案:A案、またはB案のうち金属をホワイトメタルにする(予算+4000)

シーリングスタンプとは

シーリングスタンプは印璽(いんじ)ともいい、手紙や封筒や文書の、折り目や口の部分に蝋や泥などの樹脂で封印をするための道具です。封印に使う蝋や封印そのものを封蝋といいます。対象が開けられていないことや送り主の証明になるという意図ですが、現代ではお洒落の意味が強いでしょう。クリスマスの贈り物などのリボンや紐にスタンプすることで、特別感を演出できます。

注意(絶対に読んでください)

本稿ではスタンプ部分を金属素材で鋳造します。鋳造は低温で可能なものを紹介していますが、火傷の危険や水蒸気爆発などの危険とは常に隣り合わせです。また、最も鋳造容易な金属は鉛ですが、こちらは毒性があるので小さなお子様がいる家庭では特に注意が必要です。鋳造中は常に安全ゴーグルを付け、鉛系の鋳造時には換気を徹底してください。

・火傷の危険性
鉛は327℃、錫は231℃、ホワイトメタルは合金ですが一般的には300℃前後で溶融します。

・水蒸気爆発の危険性
水蒸気爆発は稀ですが、条件が合致すると大惨事になりますので水気厳禁です。特に危ないのが、「この間はこれくらい大丈夫だったから」という油断です。例えば、汗一滴が型に垂れてしまい、そのまま鋳造しても大丈夫だったとします。しかし、次の時に用心してふき取るとかえって水蒸気爆発を誘発するかもしれません。簡単に書くと
大量の水 < ごく少量の水 < 少量の水 < 薄く散らばった水
みたいな感じで危険性が増大すると考えられます。水が少ないと一気に蒸発しやすくなりますが、十分に少量だと爆発には至りません。逆に、大量の水は溶融金属を一気に冷やすので水のほうが勝ちます。つまり、大量の水と少量の水の間のどこかに「最も水蒸気爆発しやすい水の量、分布」があり、ちょっとした違いで変化しますし、当然溶融金属の温度にも左右されます。

長くなりましたが、要は「水蒸気爆発する条件は複雑で予測不能なので水気は完全にふき取れ」ということです。

・鉛中毒
むやみに恐れる必要はありませんが、鉛を使う場合の注意点を。成人には体内の鉛を排出する能力がかなりあり、大量に暴露しなければ大丈夫ですが、子供の場合は少量でもよろしくありません。危険は二つあります。ひとつめはスタンプ部が小さいため、小さな子供が飲んでしまう危険です。子供が訴えなければ、胃酸で溶けた鉛が大量に吸収されます。ふたつめは鉛の溶融にガスバーナーを用いる場合です。ガスバーナーは炎と共に大量の空気が吹き付けられるため、鉛の蒸気が多めに発生します。十分に換気をしましょう。

長々注意書きをしましたが、せっかくの趣味で健康を害してはつまりません。対策は容易なので気をつけて楽しみましょう。

作業の流れ

全体の流れとしては、
1.スタンプ素材の作成、入手
2.スタンプデザインの彫刻、篆刻
3.スタンプデザインの型どり
4.鋳造用型の作成
5.鋳造
6.スタンプ化
となります。

A案:100均のみで材料と道具をそろえる。ある程度既存のデザインでスタンプを仕立てる(予算1000円程度)
の場合、3から始めます。彫刻の部分を買ってきて型どりするわけです。

B案:A案のうち、デザインを石膏型で自作彫刻とする(予算2000円程度)
の場合、1から始めます。彫刻刀などMy道具がなければ別途必要です。

C案:A案、またはB案のうち金属をホワイトメタルにする(予算+4000)
の場合、ネットで「ホワイトメタル」を注文して鉛の代わりに使用します。鉛より安全で扱いやすいですが、数百グラムだけなどの小分けはなく、しかもかなりお高めの素材です。


準備物

・石膏
・金属(鉛、ホワイトメタル、錫等)
・デザインナイフまたは彫刻刀
・ノギス
・はさみ
・カッター板などの作業板
・ステンレストレー
・つやだしニス
・シリコンゴム(セリア)
・印用シリコン型
・ホットボンド(グルーガン)
・防湿ナイロン袋(調味料の外装などでよい)
・ガスバーナー(料理用の1000℃くらいのでよい)またはガスコンロ
・コテまたはスチールスクレーパー
・ボタンフック
・接着剤

あればいいもの
・プラ管(内径60mmくらい)
・プラスチックのこぎり
・スポイトボトル

作業の詳細

1.彫刻材(石膏)をつくる
2.材にデザインを下書き・転写
3.彫刻
4.型どり(シリコンゴム)
5.鋳造用型作成
6.鋳造
7.スタンプ化(完成)

1.彫刻材(石膏)をつくる

まずは材料の作成から。基本的には篆刻(てんこく、石に印鑑などを彫る作業)と同じものでいいのですが、篆刻用の石材は高い(2~300円だけど何本も買う羽目になる)上に意外と硬く、量産できる石膏をお勧めします。


セリアやダイソーの既製のシリコン型が売られていますので、自分の作りたい判のサイズや形に合わせて入手します。直径20mm~25mmくらいで深さが5mmくらいのヤツがお勧め。

型に石膏を流し込みます。このとき、大事なコツがあります。予め、薄めた石鹸液や洗剤(界面活性剤)をシリコン側に薄く塗っておくのです。これをしないと、シリコンは撥水性があり、また石膏液も粘性があるので高い確率で隙間が生じます。

ちょっとだけ洗剤の薄め液を塗るのは難しいので、スポイトボトルを使用すると便利です。


流し込んだら静置して固めます。数時間である程度硬くなりますが、水分が抜けるまでは脆いので乾燥を待ちます。目安として、乾燥が不十分な石膏は手で触るとひんやりしますが、乾いた石膏はひんやり感がありません。

後の作業(4.)で必要になるので、材は4つほど作っておくと良いです。(4.)の用途では多少出来が悪くても使えますので、不良品も取っておきましょう。

2.材にデザインを下書き・転写

材が乾燥したらデザインを下書きします。フリーハンドができる人はフリーハンドで。苦手な人はカーボン紙を使います。カーボン紙を使う場合は、ノギスにゴムを貼り付けてはさむとある程度固定しやすくなります。見本のデザインは、たつき監督のオリジナルアニメーション作品「ケムリクサ」より青いケムリクサを採用。

丸い判の場合は特に位置合わせが難しいので、形状に合わせて丸くカーボン紙を切り抜いて貼り付けたほうが簡単です。なお、カーボン紙は安物だと石膏にまでつきません。


3.彫刻

小さい素材の彫刻は難しいです。ノギスに輪ゴムの切れ端を貼り付けて石膏を傷つけないように挟み込むと、動かなくて便利です。

石膏は柔らかいので、デザインナイフでもカッターナイフでも彫刻刀でも精密やすりでも加工できます。お好きな道具で彫刻していきましょう。

ただ、すじ彫りの場合は0.5mm以上の幅と深さがないと後の作業が難しくなります。金属も蝋もある程度の表面張力や固さがあり、あまり細い溝は潰れてしまう可能性があります。

彫刻ができたらニスを塗ります。水性ニスでOKです。ニスは二度塗りしてください。一度目で石膏表面が硬くなると同時に、それ以上液体がしみこみにくくなりますが、表面はざらついたままです。二度塗りすることでシリコンゴムが剥がれやすくなります。

一度目のニスは1時間くらいでほぼ乾きますが、二度目はちょっと時間がかかります。詳しくはニスの取説に従ってください。

4.型どり(シリコンゴム)

型どりの前に、判の筒部分をつくる枠を作ります。これは使っている石膏材の直径にあわせる必要があるので自作する必要があります。

こんな感じで型どりするので。

適当になめらかなビニール包装



印材を3つか4つ重ねて、適当なビニル包装を巻きます。その周囲からホットボンドを厚く塗りつけて枠にします。


上部が不揃いなのでまだ熱いうちに(固まっているけどまだ柔らかい状態で)カッター等で縁を切りそろえます。

逆さにして使います。


型どりはセリアのシリコンゴムが便利です。黄色と白色の樹脂をまぜると数分で硬化が始まり、数時間で完全硬化します。台の素材によっては張り付いてしまうこともあるので、100均のステンレストレーや汚れてもいい台の上でやるといいでしょう。

上手くいけば筒状のシリコン型がとれます。


5.鋳造用型作成

鋳造に使う石膏型を作ります。何かシリコン型よりも大きめの枠を作ります。お勧めはプラ管を30~40mm程度で輪切りにして、さらに切れ込みをいれた物です。

中に石膏液を入れ、1.と同じくシリコン表面に界面活性剤を塗りつけます。さらに石膏を薄塗りしてもいいでしょう。

空気が入らないように斜めにそっといれ、浮かせた状態で固めます。

数時間で固まりますのでその時点で抜いていいのですが、鋳造用には完全に乾燥させてから使用します。最悪の場合水蒸気爆発も考えられるのでよく乾燥させます。

6.鋳造

型が整ったら中に溶融用の金属を入れます。今回は釣り用の鉛を使用します。

鉛はプラスチック等がないものを使います。プラスチックやゴムが入っていると、溶融時に不純物として発火したり泡になったりします。

中に入れたら、上からバーナーで炙ります。溶けても最初は粘性が高いのでしっかり加熱します(でも鉛は蒸気にならないよう、あまり本気で炙ってはいけません)。水銀のように液体になったら加熱をやめ、ある程度固まったところでコテなどで上から押し込みます。あまり強く押し込むと型ごと割れるのでご注意を。

冷えたら取り出します。型はうまくやれば何度か使えますが、大体割れます。

7.スタンプ化(完成)

取っ手をつける前にちょっと試してみましょう。お試しとして簡単なのはホットボンドです。出来に満足できるようであれば、市販の取っ手的なもの、例えばセリアのボタンフックを接着剤で取り付けます。




完成!

クリスマスプレゼントなどの封としてどうでしょうか?


版権グッズ作成時の注意


こうなると作りたくなるのが自分の好きなアニメやゲームのグッズでしょうが、ここで重大な注意点があります。シーリングスタンプについては、グッズ化して販売した時点でアウトです。自分だけで楽しみましょう。

なぜなら、元々二次創作の販売というものは版権元から「お目こぼし」してもらっている立場であり、もしもちょっとでも版権元に被害が出る、あるいはイメージを損なうと判断されて訴えられたらアウトなのです。例えば、アクリルキーホルダーなどは「自分の絵柄」で、かつ「値段が実費に近く、儲けが大したことがない」と見られればセーフ(でもグレー)なわけです。公式の絵そのものや、トレースしたと判断されるほどに類似しているとアウトです。また、公式がタオルなどを現行で販売しているのに二次創作でタオルやハンカチなど競合品をつくれば高い確率でアウトです。

ではシーリングスタンプは? こちらは完全にアウトでしょう。なぜなら、スタンプの図柄自体にはもはや二次創作の余地はあまりなく、図案そのものを販売していると見られた場合は深刻な著作権侵害だからです。それだけでなく、商標登録や意匠登録されている場合は民事ではなく刑事事件になります。言い換えると、デザインの販売と見られると、もはや公式側の意識とは無関係に即、警察に家宅捜索されて立件される可能性があるということです。

商標や意匠登録されていなくてもロゴはダメです。例えば、2017年に一世を風靡した「けものフレンズ」はファミマによって商標登録されていました。このシリーズのロゴマークはこれですが

こちらは多分登録はされていません。しかし、類似品は「不正競争防止法」でも取り締まれるのであって、いわゆる「パチモン」状態で「儲けた」とみなされればアウト、と覚えておいて下さい。

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