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「くしゃがら」という語

「岸部露伴は動かない」のくしゃがらという作品の話。

くしゃがら という単語は、それ自体結構不気味な印象を与えるようになっている。

ラ行五段活用だとすると、
(語幹) くしゃが
(未然形) くしゃがら ナイ くしゃがろ ウ
(連用形) くしゃがり マス くしゃがっ テ
(終止形) くしゃがる
(連体形) くしゃがる トキ
(仮定形) くしゃがれ バ
(命令形) くしゃがれ !

という活用をされることが想定できるし、実際に劇中で動詞的に発音していることから動詞である可能性が高い。さらに、日本語では「○がる」という用法は「痛がる」「欲しがる」のような本人の感覚や意思を表出させる用法が多い。これらは自動詞である。

しかし、「くしゃがる」を、発音する本人がなんなのかわかっていないため、感覚というよりは現象的である。つまり、「さがる」のような他動詞、しかもちょっと抗いづらい呪いのような印象を受けるのである。

自動詞で「○がる」なのは「むらがる」「跨がる」「転がる」「とがる」「すがる」くらい。少数派だ。だから、「○がる」だと、なんとなく自分の意思ではどうにもならない、という印象を受けやすいと思われる。

これらは、特に文法に詳しくなくてもなんとなく感覚的に感じる。
「くしゃがる」ことはあまり好ましくなさそうだし、抗いづらそうなのだ。

日本語は英語などに比べて動詞の活用が規則的であり、まったく知らない単語でも、動詞であると仮定すると活用形もわかるし大まかな印象もわかる。「くしゃがら」は動詞の未然形(名詞化)を装うことで、視聴者に色々となんとなく印象付ける効果を持っているのだ。

しかし、くしゃがらの語幹自体は由来不明であり、この点については後の研究が待たれる。

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