銭湯の裏側ってどんな場所? 関係者以外立ち入り禁止の先の世界
“No entry, staff only”
「関係者以外立入禁止」
こう書かれた標識の向こうには、どのような世界が広がっているのだろう・・・
そんなこと、思ったことはありませんか?
「触るな危険」ボタンの次くらいに興味をそそられるこの言葉、実は神田の稲荷湯でも、その存在を確認できます。
この標識は稲荷湯内に二つあり、一つは浴槽の脇にあります。
(営業時間外の男湯にて撮影)
もう一つは、稲荷湯へお越しの際に探してみてください。
この「従業員以外立入禁止」の扉の向こうにあるものとはいかに。
そこで今回は特別に、普段は鍵で閉ざされた稲荷湯の裏側の世界を皆様にご紹介致します。
(通常利用時には絶対に開けないでください)
男湯の扉を開けて、まず目に飛び込んでくるのは、この大きな電動ブラシ。
こちらは、浴室の掃除をする際に使います。
この電動ブラシは、力の入れ加減で前後左右に動かすのですが、その操作は見た目以上に難しいです。
力任せに動かそうとすると、暴走を始めてしまう電動ブラシ。肩の力を抜き、優しく動いて欲しい方向を手で伝えると、自分の思い通りに歩みを進めてくれるのです。
(井上雄彦『SLAM DUNK』 第22巻 画像:THE GO GIVER, 2019年「大切なことはマンガから学べ?」より https://thegogiver.jp/article-20190515/)
掃除とは、そこの場所をきれいにする、という目的を共にした自分と掃除用具たちとのチームプレーです。
安西先生風に言うと、「お前のために掃除用具があるんじゃねぇ。掃除用具のためにお前がいるんだ!」ということでしょうか。
先生、掃除が、したいです・・・
ブラシの先に見えるのは「釜」です。
ここには約80℃の熱湯が約2トン入っています。
ある銭湯の店主によると、釜の上は床暖房のように温かく、冬は心地よく眠れるそうです。良い子は真似をしないでください。
釜からは、煙突に通ずる大きな管があります。
これは、お湯を温める際に使われるガスが煙突へ抜けていく際の通り道となっています。
煙突の奥には細かい配管がいくつもあります。
2011年3月11日(金)に発生した東日本大震災の時には、この中の一つの配管が壊れてしまい、その日は営業を停止しました。
幸運にも、震災翌日には工事業者の方にお越し頂くことができ、修復作業が行われました。そして定休日である日曜日を跨いで、月曜日から通常通り営業をすることができました。
その手前には、「ろか機」があります。
この機械で浴槽の水を清潔に保っています。(ろか機は「濾過器」と書くようです。休み明けの漢字テストで出題されると思うので要注意です。)
ろか機の足元には、人間関係ほど複雑ではないですが、入り組んだ配管があります。
そしてその横には「調節箱」。
約80℃の熱湯と15~16℃程度の水道水を混ぜ合わせて適温にし、主に浴室内のシャワーや蛇口のお水に使われます。
ここには埋蔵金が隠されているわけではなく、先に紹介した配管が詰まらないように、髪の毛などの細かいゴミを溜めるフィルターのような役割を果たすものがあります。
そしてここのスイッチは、シャワーやジャグジーの出力をするものです。
営業中は「触るな危険」です。フリではないので、悪しからず。
そしてこちらの機械では、浴槽のお湯の温度を調節しています。
昔は温度調節を手動でやっていたため、微妙な温度調節がとても難しかったようです。
この部屋の外には、「バーナー」があります。
ここに溜まっているガスを使って、お湯を沸かしています。2005年まではガスではなく薪と重油を別々に燃やしてお湯を沸かしていました。その後、条例の改正などにより、ガスへと変化しました。
(イメージ図)
また、稲荷湯の裏側には大きな脚立が備えてあります。
この脚立を使って、我らがフォトグラファー・たなかいが稲荷湯の写真を撮ってくれます。
これまでは、稲荷湯の裏側を部分ごと(機械ごと)に紹介してきました。
これらを全体的に見てみると、どのようになっているのでしょうか。
以下の写真は、昭和56年に稲荷湯のあるビルが竣工した際の平面図と断面図です。単位はメートルで書かれています。
今日までで多少の変更はありますが、大きな変更なありません。
釜場は高さ約4.5m、奥行き約11mの空間です。釜や濾過機はボイラー室の中にあります。
また、稲荷湯では浴槽の水は水道水を使っています。その水は、地下の水道管からビルの屋上のタンクまで持ち上げられます。
そして、釜場に降りてきて釜や調節箱に分かれていきます。釜に入った水は熱せられて調節箱に向かいます。
屋上からそのまま調節箱に入った水は、熱湯と混ぜられるものと浴室で使われる水とに分かれていきます。
ちなみに昔は、水道水だけでなく井戸水も使っていたようです。
以上、稲荷湯の裏側を皆様に紹介させて頂きました。いかがだったでしょうか。
「銭湯で入浴する」
その舞台裏にはたくさんの工程が積み重なっており、また、その一つ一つに色々なドラマがあります。
私たちが現実に見えているものはごくわずかで、私たちが知らないところで様々なことが起こっています。
思い立ったが吉日、関心を持った時に色々と調べたり、聞いてみたりすると良いでしょう。その際には、相手の都合も考えましょう。
なお、本稿で出てきた名称は稲荷湯独自の呼び方であるかもしれないことをご了承ください。これを機に、お近くの銭湯に聞いてみるのも良いかもしれません。
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