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個人的なエッセイたち

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#自己と他者

成長前夜の、ひとり

なにもないような夜、 目の前には、ただひたすらに黒い、壁が広がって、木材を重ね合わせてできた壁。僕はただそこに佇んでいて、壁を眺めながら煙を口に含んでいた。 イヤホンから流れる音楽が、僕の世界。 そこから立ち上がる世界が、目の前の壁と合わさって、僕をひとりにする。たまに通り過ぎるサラリーマンだけが、これが現実であることを思い出させる。 あるきだす。サンダルの隙間の素足を、一気に、空気が冷やしていく。 トレンチコートの、帰宅途中の女性たちが向こうからやってきて、やがて

ぼくと黒猫

実家に、ネコがいる。3匹。 物怖じしないおっとりな性格のラグドールと、小さくてやんちゃなキジトラ、そしていつも隠れている黒猫。 黒猫は、うちに馴染まなかった。大きくなってからうちに来たためか、はたまた、うちに来る前に何かあったのか。 黒猫のキモチは誰にもわからないけれど、事実として、彼女はふだん、家の二階、すみっこの部屋の、これまたすみっこの机で、ひたすらに隠れて姿を見せない。 一番仲がいいぼくにすら、帰省してすぐは顔を見せないほど。帰省の期間は短いから、いつもちょっ