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成長前夜の、ひとり

なにもないような夜、

目の前には、ただひたすらに黒い、壁が広がって、木材を重ね合わせてできた壁。僕はただそこに佇んでいて、壁を眺めながら煙を口に含んでいた。


イヤホンから流れる音楽が、僕の世界。

そこから立ち上がる世界が、目の前の壁と合わさって、僕をひとりにする。たまに通り過ぎるサラリーマンだけが、これが現実であることを思い出させる。



あるきだす。サンダルの隙間の素足を、一気に、空気が冷やしていく。

トレンチコートの、帰宅途中の女性たちが向こうからやってきて、やがてすれ違う。今振り返っても、きっと彼女たちの顔は見えない。もう二度と会わないであろうその人たちの顔を、僕はもう忘れている。



広場。夢うつつのまま、歩きつづけて、広場だった。

いたのは、他者だった。それぞれに多様で豊かな、言葉では表しきれない人生を持っているであろう、他人事だけの風景。そんな全員を、無視した。見て見ぬ振り、を決め込む。誰が誰であろうと、僕は僕で、僕は煙と遊んでいる。それだけの事実。それだけが世界だった。



僕のなかで渦巻くいろいろが、叫ぶ。

僕はそれすらも無視して、ただひとり。煙は、呼気に押されて、まっすぐ空に立ちのぼる。こういう時間が、ずっと欲しかった気がする。

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