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【深夜のショート・ショート】レンタルマザー
このショート・ショートは、
トヨタ理のXにて【毎週月~金、深夜0時】に投稿している
深夜のショート・ショート群像劇「今日、きみがいい夢を見られますように。」の一編をまとめた記事です。
##1
「おかえりママ!」
玄関ドアから出てきたコウちゃんが私に抱きついた。
「虹輝。ママくっく脱げないよ」
颯人さんのお叱りも虚しく「あのね、ぼくね」といつものマシンガントーク。
謝る颯人さんに苦笑いを返す。
三上春陽。
アラサーの独身OL。
コウちゃん専属レンタルマザー、やってます。
##2
「すごい、百点」
花丸テストにコウちゃんが「でしょお」とはにかむ。
転職前の繋ぎで始めた家庭教師。
コウちゃんは生徒で、私はその頃からママだ。
優しくて、バニーランドと家族が大好き。
バイトを辞めた後も、週一でママを演じている。
頼まれて続けた嘘は、独りの私に心地が良かったから。
##3
翌週の16日。
勉強を教えているとコウちゃんが言った。
「22日、帰れない?」
22日――金曜は仕事だ。
「ごめん、お仕事なの」
するとコウちゃんは「だよね」と俯いた。
今思えば少し様子がおかしかったのに。
22日、残業帰りに颯人さんから電話が入った。
「虹輝が、いないんです」
##4
11月22日。
推理は簡単だった。
バニーランドの入口。
コウちゃんは一人でいた。
「今日はパパがママにぷろぽーずした日なの」
ポツリとコウちゃんが呟く。
「パパいつも泣くから、ママがいればって……」
そっか、だから私をママにしたんだ。
なら、ママの役目は――。
「ママに任せて」
##5
光る道を歩くコウちゃんの手を繋ぐ颯人さん。
ココで楽しい思い出作り。
私が二人にできる事。
「今年は三上さんのお陰で楽しいな」
颯人さんに首を振る。
「私は只の偽物です」
「ママも、かぞくだよ」
手を握られ胸が熱くなる。
救われてたのは私だった。
寒空に灯る温もりに景色が滲んだ。
(終)
ここまでお読み頂きありがとうございました。
また、これまでの作品は、こちらのマガジンにまとめています。
また、最新作は【毎週月~金、深夜0時】X(旧Twitter)にて連載中です。
ぜひ、あわせてお楽しみ下さい。