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絶望したいという欲望

 不意にどこからともなく、絶望したいという欲望が這い出てきた。本棚を探し現実や世界やなにかに絶望しそうな本を集めた。
 夜と霧。ファイト・クラブ。夜の果てへの旅。黒い美術館。死に至る病。地獄の辞典。存在の耐えられない軽さ。二十三の戦争小説。冷血。ボタン穴から見た戦争。世界犯罪百科全書。ジェノサイドの丘。
 絶望を味わうことで逆説的にただの日常が尊く見える。失われることで、『それ』があったことが引き立つように。音楽から音を引き算して、ある音を目立たせるみたいに。日常で、当たり前に存在していた『人』を引き算すると、いないのにいままでより存在しているように感じる。

 だから絶望したい。もやもやとした漠然としたなんとなくの絶望よりも心をとことん追い込んで、自分のとても深いところに降りていくような絶望を。

 リリィ・シュシュのすべて。とてもショックを受けて絶望した記憶が残っている。草むらの中で白いカッターシャツを着た少年が音楽を聞いている。光が差し込んで青空とヘッドフォンをした少年が美しく捉えられる。美しい映像があるからこそ、幸せな時間があるからこそ絶望は深くなる。

 からくりサーカス。素晴らしき日々。G戦場ヘブンズドア。絶望の中のかすかな希望がとても大きな光に見える。

 どこかの場所で、心地の良い快楽と安心感が僕を包み込んでくれる。そこはすべてが整っていて何の苦しみも絶望もない。そこはもう行き止まりだ。進める場所はどこにもない。絶望が無いと前に進めない。欠落の無い○は完成してしまっていて、集めるピースがもう見えない。

 誰ともつながれず、孤独で、一人で、ずっと生きていく。
 自分の絶望的な未来を想像する。今より最悪な世界を想像する。
 イランとアメリカが戦争状態になり、世界規模の戦争になって僕らの世界も戦場になる未来を想像する。できるだけ最悪でサイテーな世界を想像し続ける。

 とても死が近くなって、息がしやすくなる。この絶望じゃまだ足りない。僕が読んできた見てきた想像した絶望よりは、まだマシだ。

 宇宙にとっては何の意味もないけれど絶望してる。人間だから絶望してる。

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