「はじめて…」

以前、公共施設のトイレを使おうとしたときのこと。

その施設の女子トイレは2つしかなく、洋式と和式がそれぞれ1つずつあるタイプだった。

和式よりは洋式のほうが落ち着くので、私は洋式トイレの扉を引いた。

すると、中に先客がいた。知らないおばあちゃんが入っていたのだ。

おばあちゃんは「はぇ」というような声を上げ、わたしは「うわっ!すみません!」と慌てて扉を閉め、すぐ和式のトイレに入った。

その後だった。隣から恥ずかしそうな愛想笑いのような声のあと、

「初めて…………」

と聞こえてきた。


初めて…???


それは、どういう意味の「初めて」なのだろうか。

洋式トイレを使う事が初めて?トイレ中に扉を開けられる事が初めて?それともトイレ自体初めて?それ故に扉へ鍵をかけるという事を知らなかった というアピール…?

用を足しながら頭フル回転である。

しかしおばあさんはそれきり一言も声を発さなかった。きっと相当恥ずかしかったんだろう…。


なんであれ、わたしは見ず知らずのおばあさんの「はじめて」を奪ってしまったようだった。

責任を取ろうにも、マジで知らないおばあさんなのでもうどうしようもない…。

今でも時々、訛りの効いた恥ずかしそうな「はじめて…」を思い出してしまう。

もし万が一愉快犯だったら絶対に承知しない。

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