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「店員」という名の服を着て

高校卒業後、就職することにした私。
これといってやりたい仕事は無かった。でも私には、どうしても克服したい難題があった。
それは、

人と自然に話せるようになりたい

ということ。
常に誰かの顔色を伺い、ちょっと想定外のことを言われると混乱してしまい、妙な空気になった学生時代。人と仲良くなりたいと思いながら、人が怖くて近付けないというアンバランスさに悩んでいた。

そこで私が思い付いたのは、接客の仕事だった。
人付き合いも会話も下手だが、仕事として毎日取り組めば少しはマシになるんじゃないか?と。
人となるべく関わらない職種も考えたけれど、私は変わりたかった。他人からしたら、人と話すことなんて恐らく簡単なことだろう。そんなことで就職決めてどうすんだと馬鹿にされようと、薄給なのにと憐れまれようと、私にとっては何より大切なことだったのだ。

そんなわけで。
私はある飲食店で、ホール係として働いた。
朝は早く行って掃除、フルーツカットにデザート作り、備品の補充にレジの準備、覚えることはたくさんあった。そこでなんとなんと、不思議な現象に気が付いた。

「店員」として「お客様」と話すときは、なんとも自然にすらすら話せる!

想定外にプライベートに踏み込まれてドギマギすることはあれど、明るい普通の人になれた。職場の方と話すのは、相変わらず挙動不審だったが。
真面目ちゃん、と陰口を叩かれることもあったし、直属の先輩からは「目障りだからやめてくれない?」とまで言われ、ハッキリ物を言えない性格も災いしてセクハラに合い、楽しいことばかりではなかった。お客様からのクレームには毎度へこんだ。
でも私は、人々の日常や楽しいひと時を過ごす空間にいることが好きだった。店員としてしかうまく話せないけど、とてもとても楽しかった。時折「ありがとう」と声を掛けてもらえたりすると、本当に嬉しかった。

それから販売員、交通機関の窓口受付を経験した。
多くの職場の方やお客様と出会い、接客業の奥深さや人に対する思いなど、たくさんのことを教えていただいた。
「店員」という服を着ているだけで根本は変わらず、今も人と仲良くなれずにいるけれど、初対面の人と短期的になら楽しく会話ができる。それだけでも私にとっては物凄い進歩だ。
何より婚活時も「店員モード」は大いに役立った。
婚活で出会った夫が言うに、私は社交的な人間に見えたらしい。実は人付き合いが苦手なこと、慣れない人とご飯を食べに行くとほとんど食べ物を受け付けないことなど説明したら、すんなり受け入れてくれた。感謝しかない。

出産育児によって現在仕事をしてないが、娘の幼稚園入園に合わせてまた働きに出ようと思っている。
相変わらず人付き合いが下手なコミュ障だけど、私はやっぱり接客業をやりたい。

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