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呼吸を味わうということ

最後に深呼吸をしたのはいつだったか覚えていますか。
今どんな呼吸をしていますか。

忙しい日々の中では、それを改めて意識することなど無い人の方が多いかもしれません。

産声をあげ、息を引き取る。
これらの言葉に代表されるように、人の一生は呼吸と共にあります。ですから、呼吸が阻害されたとき、通常人は冷静ではいられません。


かつて、私はパニック発作に苦しんでいた時期がありました。


過呼吸では人は死なない。頭では理解できていても、どうしようもなく体は言うことを聞いてくれず、焦れば焦るほどに呼吸ができなくなり、目の前は暗く視界が閉ざされていく……時間や場所を問わず、このような状態を繰り返す日々を過ごしていました。



過呼吸に苦しんでいた時期のこと

その当時、主治医に呼吸を整えることの大切さを懇々と説かれて、なんとなくわかったつもりになっていたのですが、やっぱり“つもり”だったし、振り返ってみると、私は全然素直じゃなかったなと思います。

さまざまな呼吸法だったり、マインドフルネス瞑想だったり、どのくらい前からでしょうか、自分の専門領域だった精神科看護界隈でも一大ブームのようになって、でもなんだか子ども騙しみたいだなとか、まず怪しいなとか。
自分自身が苦しさを経験していたがゆえに、それだけで簡単によくなるなんて信じがたいし信じたくない、みたいな捻くれた思いがどこかあったのかもしれません。

「呼吸は自分でコントロール可能だなんてことくらい私も分かっているけれど、コントロールできないから困っているの!」と思うくらいには、余裕が無かったんですよね。

どんなことにも言えるかもしれません。その必要性を理解できていないとき、意義に納得できていないとき、それがどれほど有益なことであっても、正しく受け入れて自分のものにするのは難しいですよね。何かを信じることと似ていて。


あらためて呼吸と向き合ってみた

ずいぶんと時間が経ち、自分に起きていた非常事態も過去のものとなりました。

そんな今だからこそ、なのかもしれません。

たまたま読んでいる書籍や文献の中で、「呼吸」「マインドフルネス」などといった単語が、頻出ワードのように目に飛び込んでくることが多くて。純粋な興味、関心から、これらと向き合ってみたいなとようやく素直に思えたんですよね。昨秋のことです。

そこから、マインドフルネス瞑想を実践するようになりました。
瞑想というと、なんだか敷居が高そうだし、宗教的な要素も含まれていそうだし、正直抵抗感がありました。でも、実際はそうではなく、過去や未来に向きがちな意識を「今、ここ」に向けるため、呼吸に集中していくトレーニングだとわかり、いつの間にか始めて4か月目に突入しています。

私はUpmindというスマートフォン向けアプリを使用しているのですが、音声ガイドの方が「呼吸を味わっていきましょう」という言葉をよく使うのですね。
正直、はじめはその言葉に戸惑いを覚えたのですが、気が付いた頃には、呼吸に意識を向けていくことで、感覚が研ぎ澄まされつつ、深いリラックス状態に沈んでいくような感覚が心地良くて、これが「呼吸を味わう」ということなのかなと思えるくらいにはなりました。

息をしっかりと吐くことで、たっぷりと吸えるようになります。そんな当たり前のことですが、日頃いかに自分の呼吸が浅かったかとか、身体がこわばっていたかとか、体の力を抜いていくにはどうすればいいかとか、はじめて「身体の声」に耳を傾けている、そんなことを実感しています。

それだけではありません。私たちが何か不安を感じるとき、大抵それは過去または未来に意識が向いています。呼吸を通して「今、この瞬間」と繋がっていく時間をつくることで、自分のこころの機微に気付きやすくなったり、思考や感情と自分を切り離せるようになり、それらに飲まれにくくなったように感じます。

こころと身体を繋いでくれるもの、それが「呼吸」

これまで頭で思考することばかりの日常の中に、少しずつ身体の声を聴くという要素が加わるようになると、いろいろな点と点が繋がって線となり、面となり、一気に視界が開けたような感覚がありました。大切なことは、いたってシンプルで、「自分をひとつの包括的な存在として見つめてあげる」ということなのかもしれないと、あるときふとそう思ったのです。

こころの不調が身体にも表れることは、多かれ少なかれ誰もが経験したことがあるかと思います。また、一流のアスリートがより良いパフォーマンスをするために、メンタルトレーニングを行うことも、多くの方が知るところです。

こころと身体は切り離すべきものではなく、密接に連動していること。そして、互いに働きかけあっているものであること。

ただ、身体を整えることで、こころに良い働きかけができるということに関しては、私自身がそうであったように、抵抗感を覚える方が多いように感じています。なぜなら、メンタルの不調を抱えている多くの方にとって、とても身体を動かすようなエネルギーなど、どこにも残っていないという場合がほとんどだからです。

ですが、ランニングや水泳などと言った強度の高い運動をする必要などは全く無くて、ただ「呼吸」にフォーカスをあてていく、まずはそれだけで十分なのかもしれません。

イライラしているとき、不安になったり、焦っているときなどは交感神経が優位になっています。交感神経が優位な状態だと呼吸は浅くなりがちです。
呼吸に使われる横隔膜は、自律神経の支配下にあります。深呼吸をして落ち着こうとするのは理にかなっていて、深い呼吸で横隔膜を刺激することによって副交感神経が優位になり、リラックス効果が得られるからです。


吸い続けることも吐き続けることもできない

呼吸を意識することが習慣付いてきたからか、最近は「循環」について思いを巡らすことが増えました。

世界は、あらゆるものの循環で成り立っています。

私たちの身体の中では呼吸によるガス交換が行われ、全身に新鮮な酸素を含んだ血液が循環しています。反対に、感情をため込み過ぎたり、こころを擦り減らしてまで人の要求に答え続けることは、健康的なことだとはいえません。

小さな愛、小さな思いやり、小さなやさしさ、これらも循環していくものだと、私個人はそう信じています。

できるだけ変わることなく自分の中に平和を宿し続けることが、誰かの笑顔へと連鎖するのなら、私は自分のこころと身体を健やかに保ちたいですし、そのためになるのであれば「呼吸を味わう」ことも、続けていきたいなと思っています。


おわりに

生まれてはじめて息を吸うように、まるで最期の息を吐くように、そんなイメージをしながら、よかったらあなたも一緒に呼吸してみませんか。
普段意識することのない呼吸が、まるで特別なもののように思えるかもしれません。

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