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基礎科学と工学

(5年半前にFBのノートに投稿したものです。FBのノートが使えなくなってしまったのでここに再掲します。)


今年のノーベル医学・生理学賞を受賞された大隅良典先生が、役に立つという観点だけで研究を進める風潮に危機感を持っている、ということについて考えた。もちろん、基礎科学であるからこそのお考えだと思うが、工学はどうなのかを考えています。


この話の前に、東北大震災でメルトダウンした原子炉にロボットが投入できていない・投入してもすぐ壊れてしまうことに落胆したことも影響があります。この時には、工学は本当に役に立つことをしていないのではないかと悩みました。ロボット技術は世界でも先行しているという日本で、いざその必要があるときに、使えるものがなく、あえて外国製のロボットでやっと役に立ったなどというのは本当に残念でした。


研究は、好奇心に始まって、その理論的・実験的考証のもとにそれまでわからなかったこと・知られていなかったことを明らかにすることだと思います。もちろん、そのテーマが社会でどのようにとらえられているかということに関係する・しないというのがこの議論の核心なのですが、研究者の探求はその議論にあまり関心はないと思います。むしろ、自由な方向性こそが新たな成果を生むのだと研究者は感じているのだと思います。これは、かつて戦争時に研究も戦争に役に立つものだけに限定された反省もあります。


しかし、私はいずれにしろ研究をやり遂げることが重要であって、それが実際に利用される時には観点が変わるものだと思います。つまり、研究から社会への影響は、あまり脈絡がない場合もあるのだと思います。放射性物質の発見の時には、核兵器に至ると考えた科学者はいなかったのではないでしょうか?研究者が面白いと思うものを発見した時、そこにのめり込んでつぎからつぎに世界を広げていくことが大きな文化をもたらすことだと大隅先生は仰られていて、そのとおりだと思います。放射性物質は核兵器も生んだが、さまざまな医療・農業・工業などで新たな分野を生んでいる。物理学がもたらした物質への理解は、放射性物質の発見で飛躍をとげたでしょうし、その利用は善・悪両面の可能性をもたらしましたが、その全体が人類の文化です。それらの知識をどう広げて幸福な世界につなげてゆくかという観点は、科学の応用思想だと思います。そして、その思想を展開するためには、より多くの科学的知識を必要とすることになるでしょう。つまり、際限のない疑問を科学は解いていかなければならないということに他なりません。


工学にしてみれば、有用な人工物を作ることを徹底的に探究する姿勢が必要だと思います。つまり、事故や悪用などを防ぐことがその有用性の条件であって、機能・性能ばかりを追及するのは未熟な工学ということになります。たとえば、人工知能が有用な方法論ということがわかっていますが、使い方を誤ればもちろん安全が脅かされるだけでなく、悪い影響も存在します。このあたりについての研究は、倫理的な問題を議論するだけでなく、知能としての善悪のとらえかたという研究が必要なのだと思います。つまり哲学を実現する人工知能が望まれるということになります。おそらくこれについては多くの議論を呼ぶでしょうが、科学として探求する価値はあるのではないでしょうか。

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